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妻が美しい

 その遺跡の入り口は、明るい森の一角にあった。

 新緑の緑がさざめく、鮮やかな森。

 その一角に水の流れる場所がある。

 

澄んだ透明なその水は柔らかい日差しに照らされて白い光を放ちながら、白い石で作られた壊れかけた遺跡に注いでいた。

 そんなはたから見ている分には綺麗で風情のある遺跡だった。

 またそれほど危険はなく、深さも浅く、危険な魔物もほとんど居ない事から初級者向けとして有名な場所だった。


 そして強い冒険者達も含めて、ちょっとは力のある冒険者もこの遺跡をデートに使う事もあるという。

 というか、この遺跡は冒険者達のデートスポットとして有名だった。

 さてさて、そんな遺跡を選んだのはクルスだった。

 彼が言うには特に他意はなく、初心者のアリスのためには訓練にもなるとか何とか。

 ちなみに今日は依頼を受けてここに潜り込んでいた。


『遺跡地下二階の花畑で、“ふえるもこもこ草”を三輪取ってくる事』


 この、“ふえるもこもこ草”というのは、とりあえず繁殖力の強い花なのだが、見た目が可愛らしい事と日持ちがいい事、けれど遺跡の外には繁殖しない事から、手軽な割りに人気が高く、そこそこ高価な花である。

 別にクルスが、綺麗に見えるからアリスに見せたら喜ぶかなとかそんな事は一切考えていない。

 あくまでも、それほど危険ではない依頼を探した結果、たまたま……そう、たまたまその依頼があり、それを選んだだけなのである。

 それをわざわざフラットはクルスに聞いて、何かを言いたそうに、にまにましていたのだがそれはいいとして。


「アリス、そっちへ行ったぞ!」


 そんなクルスの声にアリスは警戒を強める。

 遺跡に入ってすぐの事、狼に黒い羽の生えたような生物に、アリス達は襲われていた。

 五匹ほどいたが、四匹はクルスが瞬殺し、少し離れた場所に居たその魔物が、一匹アリスの方に向かう。

 アリスはすぐさま茶色い皮のポシェットから、細い銀色に輝く金属製の筒のような物を取り出した。


「えっと確か……これだ! “はじけろ”」


 アリス特製の魔道具。

 その筒に少し魔力をこめると、パチパチッと青白い火花が散ってから、その筒からアリスの背丈の半分くらいまでの火柱が立ち、その狼の魔物が焼き尽くされて……からんと白い石が地面に落ちる。

 その白い石を拾って、アリスは嘆息した。


「……二束三文にしかならない“白い石”か。でも使い方によるな……」


 こういった魔物が落とす材料もまた、アリスの魔道具には欠かせないものだった。

 もちろん強い魔物になれば、その力の片鱗である石もまた強くなる。

 そこで、アリスの使い終わった筒状の魔道具をクルスが見て、


「また面白い魔道具を作ったな」

「うん、特定の言葉と魔力を注ぐ事で、セットしておいた魔法が発動するものなの。ただ大抵一回から三回くらいで壊れてしまうのが難点かな。でも威力は結構あるでしょう?」

「そうだな。アリスは強いな、うんうん」


 その生温かい見守るようなクルスの頷き方に、アリスはむっとして、


「……クルス、どうしてそんなに適当な感じに頷くの?」

「……呪文無しでそれくらい発動できるからな。俺は」

「ええ! 聞いてないわ! 後で見せてよ」

「後でな。今はゆっくり、やっていけばいい。アリスはこれからもっと強くなるから」

「……分った」


 不満はあるが、アリスはそう言われてしまえば黙るしかない。

 こういう事に慣れていない初心者だと自覚はあるからだ。

 こんな綺麗で、それほど強い魔物もほとんど出ない、それこそ周りでカップルがいちゃついているような遺跡にくる事も、初心者であるアリスを考えての事なのだ。


 そう、そこかしこでいちゃいちゃいちゃいちゃと……。

 どうしてこんなに苛立つ場所なんだろうとアリスが思っていると、気がつけば、一番後ろを歩いていたフラットが女冒険者の二人組みの傍に行っていた。


「いかがですか? 僕と一緒にお茶でも?」

「えー、ナンパ?」

「イケメンねー」

「お嬢様方の美しさは、まるで光り輝く宝石のようです。どうですか? 一曲貴方がのために歌ってもよろしいですか?」


 そう、フラットが竪琴を大事そうにもって、きらきらと輝きながら口説いていた。

 ちなみにこの竪琴は、フラットにとってとても大事なものらしい。

 以前攻撃されそうになって、慌ててその魔物を何時になくぼこぼこにしていた。

 とはいえ、竪琴をひくフラットは確かに絵になる美しさで、口さえ開かなければ女の子は幾らでもよってくるんじゃないかと思えるのもまた事実だ。

 さて、そんな口説いてくるフラットに、女の冒険者達はくすくす笑っていて……そこで、フラットの背後に二組の男の影が。


「「うちの妻に、何か用かね? 優男君」」


 その言葉におそるおそるフラットが振り返ると、筋肉隆々の男が二人ほど怒ったような顔で仁王立ちしていた。

 それをフラットは、引きつった笑顔で見上げながら、


「あ、奥様でしたか。失礼いたしました。あまりにお美しいので独身の方かと……」

「妻が、美しいだと?」


 ぴくんと、その筋肉隆々な男の眉が動く。

 危険を察知したがすでに遅く、フラットはその二人に捕らえられてしまう。

 そして、フラットは暫くその彼女達の夫に、妻への惚気話を延々と聞かされて涙目になったのだった。

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