オレンジジュースとココア
そんなわけで、フラットが来るまで時間を潰すことになったアリスとクルスだが……。
アリスがピシっとまっすぐに手を上げて、
「すみませ~ん。お酒一杯ください。あと何か甘いものがありますか?」
「……今日は、プリンがあるよ」
「本当ですか! おじさんのプリン、カラメルが苦くて美味しいんですよね」
「ははは、嬉しいこと言ってくれるねー、アリスちゃん」
「本当ですよー」
「そうなのか。はい、プリンにオレンジジュース」
そう言って、酒場の親父さんはオレンジジュースと、硝子の器に乗ったプリンを持ってくる。
フルフルと揺れる絶妙な固さ加減のプリンには、ほんのりとお酒が香る苦くて甘いカラメルソースがかかっていた。
その2つを見てアリスは眉を寄せて、次に酒場のおじさんをアリスはじと目で見た。
「……お酒」
「はいはい、このオレンジジュースは美味しいよ」
「知ってます! でも私はお酒……」
「今日はサービスで果物を乗せておいたよ」
「本当だ! わーい」
あっさりと果物に興味が移ってしまうアリス。
そして白いクリームの上に乗った薄いピンク色の果物を、アリスは真っ先にスプーンで救って口に運んだ。
「美味しいぃー。もぐもぐ」
そう、嬉しそうにプリンを食べるアリスにクルスが、色々と突っ込みたいがそこを指摘すると良くない事になりそうだったので、いつも思っている事を口にする。
「……本当に幸せそうに食べるな、アリスは」
「美味しいから仕方がないでしょう。文句は酒場のおじさんに言って」
「いや、文句を言いたいわけじゃなくてただ……」
「ただ?」
「……なんでもない」
そう答えてココアに口をつけるクルス。
本当は、幸せそうにプリンを食べているアリスが可愛かった、と思っただけなのだが、流石に恥ずかしくて言えなかった。
そんなクルスを、また私を子供扱いして、と、少しむっとしたようにパクパクプリンを食べながら、美味しい! と、目を輝かせていたのだった。
そして、そのプリンを全て食べ終わり、オレンジジュースにアリスは口をつけながら、
「それで、どうする?」
「……そこそこ初心者用の遺跡があるからまずそちらだな」
「中級者用は無理なの? 魔道具が、あんな雑魚相手にはもったいないわ」
「そういった油断が命取りだ」
「でもクルスとフラットは上級者向けまで行ったんでしょう? 色々試してみたい魔法もあるし……」
「敵はそういった魔物だけじゃない。悪い人間だって住み着いている。特に危険な場所に住み着く悪い人間は、その場所で生き残れるだけの力を持っているから厄介だ」
「それはそうだけれど……」
「言う事が聞けないなら連れていけない」
「分ったわよ……」
そうぶすっとして再びジュースに口をつけるアリス。
遺跡。
その名の通り、古代都市の遺跡で、サマーホロウの都市周辺を囲むように存在している。
そこでは様々なものが手に入るが、中には魔物といった化物が闊歩している。一応外にも魔物がいるが、それらとは桁違いに強いものも潜んでいるのが遺跡である。
なのである程度の戦闘能力が必要となってくる。
また、遺跡は異界と繋がっておりそこから魔物が来ると言われている。但しその魔物達は、遺跡の外に出ようとしない。理由は分からないが、一説には“女神”の力が関係すると言われている。
そんな遺跡に、これから潜るのだ。初心者用だが。
けれどお嬢様育ちのアリスは荒事に慣れていないのだが……。
――なんとなくクルスもフラットもそういうことに慣れている感じがしないのよね。どこか上品な感じがするし。
けれど、会って間もないし、アリスも色々詮索されるのが嫌なので根掘り葉掘り聞かないでいた。
それにそもそもそれほど深い付き合いではないのだ。
だから聞く必要もないのだが……アリスは、もう少しクルスのことが知りたいなと思ってしまう。
多分クルスがアリスに優しいからだと思う。だから気になるのだ。
と、そこでフラットが戻ってきた。
そして彼の顔には満面の笑みが浮かんでいた。
「ようやく俺の時代が来た! デートの約束を彼女と取り付けました!」
「……なんで?」
「その一緒に歩いていた彼女の情報を教える代わりに、デートしてくれるって!」
「……フラグ」
「ふ、僕だけは大丈夫なのさ!」
そうキラキラと輝きながら微笑むフラットに、アリス達は適当に相槌を打って、
「それじゃあ、遺跡に行こう」
そう、クルスが立ち上がったのだった。