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無声の少女  作者: けい
ドルストーラ
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冬越し

 季節は秋から寒さ厳しい冬へと移り変わった。

 冬の間は、お互いの行き来が積雪のため難しくなるため、村人は何人かの集団で寄り添うことになった。村長の家をはじめ、その他広めの家や集会場なども開放された。

 一度に食事を作ることにし、貴重な薪などの消費を抑える意図もある。

男手が決定的に足りないため、屋根の積雪が降ろしきれず、この冬は何個かの家が重さに耐え切れず倒壊した。

 大きな怪我人は出なかったが、老衰で年嵩の女性と、病気を悪化させていた男性が亡くなった。いつもより沈痛な葬列となった。




 雪の中を、ソリに遺体を乗せて森の外れにある墓地まで運ぶ。ここでは火葬ではなく土葬が一般的だ。それぞれがスコップを持ち、雪をかき分けて進んでいく。このあと、遺体を埋めるための穴を掘らなければならない。かなりの重労働だ。

 40代以上の女たちに村を任せ、その他の女たちで墓地に向かう。外気は凍るように冷たかったが、体は汗をかくほどに熱くなっていた。

 ライナは大きなスコップを抱えなおし、空を見上げた。


 澄んだ空気に、明るい空。


 いつもと違う、冬の時にしか姿を見せない白い精霊が飛び回っていた。彼らを見ると冬が来たんだな、ずっと村にいればいいのに、といつも楽しみに思っていたが、今は早く去っていってほしかった。早く去っていって、村に春が来てほしかった。




「森神さまにいま、お返しいたします。森神さまの友であり子。そしてあなたを敬い過ごした優しい子です。森神さまの暖かな袂に迎え入れてくださいませ。そしていつか再び、我らのもとにお返しください」


 いつもは【精霊士】ディロが述べる、御霊の儀式だが、いまはその代理をライナがしていた。精霊が見えないことになっているため、本当は母にしてもらいたかったが、見えない母より、今後見える可能性が残されている直系のライナに白羽の矢が刺さったのだった。

 成人すれば正式に【精霊士】として名乗りを上げることになっていたため、ライナはディロから【精霊士】の仕事を教えてもらっていた。


「ライナちゃん、偉かったわ。もう、すっかり【精霊士】みたいね」


 葬式が終わり、村人たちがライナを褒めてくれる。緊急事態の事であったし、多少失敗があると踏んでいたというのに、ライナは完全にその役目を全うしてしまっていた。


―――やりすぎちゃったかなぁ。


「そんなことないよ。すっごい緊張してたんだよ!けどまぁ……父さんの仕事しっかり見ていた自習の成果だよね!」


 明るくおどけて言うことによって、村人は不審には思わなかったようだ。 そしてまた考えてしまう。


 どうして母は、わたしを【精霊士】だと公表しないのか。不思議でたまらなかった。




 そして待望の春が来た。

 積雪で潰されてしまっていた家は、簡単な片付けだけされて放置されている。さすがに材木が重くて、女たちだけでは撤去は出来なかったからだ。もう少し経てば約束の半年。そうすれば、村の男衆は一時とはいえ戻ってくる。


 村中がそわそわしていた。楽しみで楽しみで、本当に待ち遠しい。


 春になっても、村人での集団生活は変わらなかった。まとまっていることで、お互いの心細さが軽減された結果だ。冬の間、諍いがなかったわけではないけれど、そのたびに村長の妻やライナの母が出向いて説得した。そしてメリハリをつけるため、それぞれの集団の人員の入れ替えなども行っていた。


 冬の精霊が冷たい空気を追いかけるように村から出ていった。それを待っていたように、森の精霊たちが戻ってくる。そして今日もライナはひとり、森に入った。


 作業もすっかり慣れて、ほぼ母の指南書を見なくても植物の見分けができるようになっていた。道も自然と覚え、精霊たちとの繋がりも深くなった気がした。


 早く父と兄に会いたかった。

 会って抱きしめて、無事を感じたかった。

 無事でよかった、と涙したかった。

 よく頑張ったと褒めてほしかった。

 家族が揃った時が、ライナの14歳の誕生日なのだと……。




 春が過ぎ、もうすぐ夏が迫るときになっても連れていかれた男衆は、誰一人として戻らなかった。


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