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無声の少女  作者: けい
ドルストーラ
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幸せな日常

初投稿作になります。

よろしくお願いします。


 いつもと変わらない平和な時間。

 王都の方ではきな臭い話も聞こえていたけれど、辺境にある深い森に囲まれたこの村では、その話題はいっそ異国のものに近かった。

 決して裕福ではない山村。

 多少閉鎖的ではあったけれど、決して村人は冷淡ではなく。

 少女ライナは森の恵みと共に生きる、いまの生活が好きだった。

 

 

 

 毎朝母が起こしてくれて、森へと仕事に出る父を見送り、追いかけるように兄は剣術の練習に出かける。昼間までの時間は母に習って薬草の種類を教わって傷薬を作った。

 昼頃には兄が帰ってきて、昼ご飯を食べたら森にいる父の弁当を持って出かけていく。そして彼はそのまま仕事を手伝うのだ。

 ライナと母は作った薬やハーブを村の中に唯一ある雑貨屋へ卸し、その収入によりわずかではあったが現金収入を得ていた。

 ハーブは母オリジナルのブレンドで、その爽やかな中にも甘みのある香りが年若い娘たちの人気となっていた。端切れで作った小さな巾着に入れて売っているのだが、その巾着の柄だけで売り上げが変わるので、半月に一度立ち寄る行商人から選び抜いた端切れを買うのも楽しかった。

 母は薬草にも詳しく、傷薬だけでなく、腹痛薬や頭痛薬。熱さましや湿布など、日常頻繁に使うであろう薬を得意としていた。その技をライナは直接伝授され、現在鋭意勉強中である。

 簡単な読み書きはできるが、難しい単語はさっぱりだ。

 そのため、母がライナ用に用意してくれたのは手作りの指南書だった。

 母の素朴なイラストと、要点だけをまとめた簡潔なものだったが、ライナにとってそれは宝物だった。

 

 

 

 夕刻前に母は夕飯の準備を始める。

 ライナはそれに合わせて広げていた仕事道具を片付け、テーブルをしっかり拭いてから母に並んで台所に立った。

 山村にある小さな家々からも、小さくも暖かな光が漏れだし始めたころ、森に仕事に出ていた男衆が帰ってくる。

 

 切り出した大きな木材を牛に引かせている者。

 森の恵みである山菜やきのこなどを、背負った籠いっぱいに詰めている者。

 仕留めた猪や鹿を台車に載せて運んでいる者。

 それぞれがそれぞれの獲物を抱えて小さな村に帰ってきた。

 

「ディロ。今日も助かった。これでまた暫く飢える心配なく過ごせる」

 

 髭にまみれた顔を鉾ばせて、一人の男がライナの父―――ディロへ話しかけた。それを合図にしたように、ほかの村人も足を止めてそれぞれが感謝の言葉を口にする。

 

「いつもありがとうな」

「森神さまのご機嫌はどうだった」

「次に森に入れるのはいつになる」

 

 ディロは顎に手をやり、そのままいま出てきたばかりの森の入り口に目を向けた。みな同じように視線を向けるが、闇に包まれ始めた森が見えるだけで、特に何も変わったものは映らない。けれどディロは違う。彼には別のもの―――いや、正しくは違う世界が見えていた。

 そして、ふと視線を戻すと最初に声をかけてきた男へ顔を向けた。

 

「村長、今日は大木も倒したので、少し悲しんでおられるようです。見逃した小鹿は森神さまが面倒を見てくれるでしょう。……あ、取ったキノコに一部毒キノコがあるらしいです。あとで検めてください。次は……2,3日中に雨が降るらしいです。なので、次回は雨が上がったらですね」

 

 ディロの淡々とした声に、聴いていた村人はほっと胸をなでおろした。村長と呼ばれた壮年の男も安堵の息を吐き出す。

 

「そうか。大木を倒すのは心苦しかったのだが許してくださったか」

「社の修繕だと理由を説明しましたし、渋々ですが納得してくれました。新しい苗木も植えたので、次はその苗木の手入れもしなくてはなりません」

「もちろんだ」

 

 村長含め、村人たちは森の入り口に向かって深々と頭を下げると村の中心にある社に集まり、今日の収穫を並べていった。

 

「明日は朝から収穫の分配をする。あと荷台の車輪が割れてしまったので、その修繕も必要だ。雨が来るまでに終わらせなければならない。明日も頼んだぞ」

 

 村長の言葉に男衆はそれぞれ返事をし、片付けが終わった者から解散となった。

 

「父さん、片方持つよ」

「ああ、頼む」

 

 ディロは両手に持っていた荷物の半分を息子アロイスに渡した。ずっしりと重い革袋には工具などが入っているのだが、アロイスは気にした風もなく軽々と持ち上げる。

 

 点々と明かりが見えるため、そこに家があるのだとわかるが、そんなわずかな光さえもなければこの村は真っ暗闇だろう。

 三々五々散っていた村人たち。

 ディロとアロイスは村のはずれにある我が家へ帰っていった。

 

 帰る道すがらアロイスは誰もいないのを確認し、それでも声を潜めて話しかけた。

 

「父さん、森神さまどうだったのさ」

「彼らは自由だ。人のことなど気にしてはいない」

 

 ディロは森神など見えてはいない。いや、まず森神という存在がいないというのが正しいのかもしれない。

 彼が見ているのは森の精霊たちだ。そして、森を荒らさないため、乱獲してしまわないために精霊が見える【精霊士】は苦言を呈するために、わざと大袈裟にふるまうのが常だった。その事実を知っているのはこの村ではディロ一家だけだ。

 

 アロイスは【精霊士】の力は受け継がれなかった。微かに感じることはできるようだが、ディロのようにはっきりと姿も見えないし、それが分かっているから精霊たちも近寄ってこない。森に入るとディロはまとわりつかれて大変らしい―――好かれているそうだ。

 それが少し残念であり、村の【精霊士】の跡取りとして不安なところでもあった。

 

「ただいまー」

 

 アロイスはそんな気分を断ち切ると、我が家の扉を開け家族と団欒するために扉をくぐった。


完結目指して頑張りますー

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