揺蕩う
――― 暗い……
なにもない世界。
自分が目を開いているのか、閉じているのか。それすらも曖昧で認識できない。手を伸ばしてみるけれど、その手も見えない。
――― 目が、壊れちゃった?
そんなことを思う。
けれど、本当なら慌ててもいい筈なのに、まったく焦りが生まれない。何故だか不思議と受け入れられる。それと同時に湧き上がってくる気持ち。これは……
――― もう、どうでもいいよ……
諦めにも似た感情。
凪いだ感情が心を支配して、ただふわふわと漂う。そんな気分。
『ライナ』
声が聞こえた。聞き慣れた優しい大好きな声。
『ライナ』
また聞こえた。さっきと同じ、聞き慣れた温かい声。
――― 母さん、父さん。
視界がぱぁっと開いた。真っ暗だった世界に光が溢れた。そこはどこかの森の中。笑顔で手招きしてくれている。
――― なんだ、そんなところにいたのね。
駆け寄りながら手を伸ばす。今度は自分の手も見えた。
――― 探してたの。一人はイヤよ。一人にしないで……
父の大きな手が頭を撫ぜてくれる。母の温かい手が抱き寄せてくる。それだけで意味も分からないまま涙が溢れた。
――― つらいことがあった気がするの。けど、全部忘れていいよね。
二人に抱き付いたまま、頬を摺り寄せて甘えてみる。どうしてこんなにも、二人に甘えたくなるのか分からない。ただ、そうせずにはいられない。
『ライナ、ずっと見守っているから』
『負けないように生きなさい』
――― 何を言ってるの?
見上げた二人の顔は、少し悲しそうで。でも笑顔を見せようと必死になっているようですらあった。何かわからないけど、胸が痛い。
『大丈夫。ライナは【精霊士】なんだから』
二人が声を揃えてそんなことを言う。
違う、そんな言葉が欲しかったわけじゃない。どうして突き放すようにことを言うの。ずっとずっと、これから先も一緒にいてくれるんでしょう?
――― 母さん、一人は嫌なの。
――― 父さん。わたし【精霊士】じゃないよ。
一人にしないで。一人にしないで……!
『一緒にいてあげたいけど、あなたは生きて頂戴。母さんのお願いよ』
――― ずるいよ、ずるい……
『ライナにプレゼントがある。きっと、受け取っておくれ』
――― 父さん、プレゼントなんていらない!一人にしないで!一緒に連れてって!
『一緒にお祝いでなくて悪かったな』
見えていた姿が少し、薄くなってきた。
『村に戻ってやれなくてすまなかった』
母の手を取り、寄り添いながらライナを見つめてくる。二人とも、もう背景と同化してしまいそうなほどで……。
『誕生日おめでとう、ライナ』
――― 父さん!母さん!
笑顔の二人が手を振る。動かない足は縫い付けられているかのよう。そして気づいた。自分の手も透けていることに。
――― わたしも、そっちにいくから!
だが、ライナが強くそう思った瞬間、その願いを断ち切るように緑色の光の洪水が全身を包んだ。痛いほどの光。激痛すら伴う緑の風が叩きつけられた。
――― いや、痛いっ
痛い。苦しい。息ができない!
喉が、焼けるように痛いの……。
短くてすいません。
次回は文章の書き方を元に戻しますので。
この書き方は今回だけです