また、嫌われた
短いです。
まだまだナジャ、続きます。
私はハーブのお茶をそのままにして、厨房をすぐに出た。
リークは一瞬だけ呆けていたが、すぐに慌てて、私に何かを言ったようだった。しかし今は気にとられている場合ではなかった。申し訳なかったが、仕方がなかった。
私はナジャを止めることしか考えていなかった。
――“愛”はダメだ、呪文なのだ。
私は知っている。
『愛』は、誰かを殺す。
『愛』は、誰かの大切なものを壊す。
『愛』は、相手も壊す。
――『愛』は、人を“魔女”にする。
『愛』は、ダメだ。今ならナジャを止められる。
私はもう見たくない、感じたくない、壊されたくない。
ナジャが誰かを殺す前に、誰かの大切なものを壊す前に、止めなくては。
私は洗濯場へと足早に向かった。
*
走ってきた私に、洗濯場にいた使用人たちは驚いていた。私はそんなことを気にせずにナジャを探した。
しかし、ナジャの特有の赤色の髪は、見当たらなかった。すぐ傍にいた人に聞いた。ナジャは、今は洗濯を干しているところだと言った。私はお礼を言って、ナジャのところに行った。
白いシーツがたくさん干されていた。
私の視界は白一杯で、目的の赤色は見つからない。私は、シーツとシーツの間を割って探し始めた。しかし、探しても探してもナジャは見当たらない。
走ってきたせいで、私の呼吸は荒かった。大きく深呼吸をして、息を整えた。
辺りを見渡した、一瞬赤色を見た気がした。私はそこへ走っていった。
たどり着くと、目を見開いて、驚きと困惑が混ざった表情をしたナジャがいた。私はすぐにナジャの手を掴んだ。呆気にとられていた彼女は、反応できずに私に手を掴まれたせいで持っていたシーツを地面に落とした。
白いシーツに土の色が染み込んだ。
「ちょっと、なにするっ…」
「ダメっ!!」
「はぁっ!?何がダメなのよ、私はちゃんと仕事をしてるわっ……」
「“魔女”になっちゃダメだよ!!」
私は精一杯叫んだ。
初めてこんなにも大きな声で話した気がした。それぐらい、私は焦っていた。
ナジャの仕事を邪魔してしまったのは、申し訳なかった。でも、今の私に謝るなんて余裕がなかった。
ナジャが“魔女”になるのは、嫌だった。だから、叫んだ。
ナジャは、私を睨んだ。仕事を邪魔したせいだと思う。
「“魔女”?何で私が魔女になるのよ。」
「っだって、お父様のこと好きなんでしょっ!?だからっ…」
「人を『愛』したら、魔女になっちゃう!私は、ナジャに“魔女”になって欲しくないのっ!!」
――言えた。
今までこんなに一生懸命になったのは、3回目だ。
乳母を笑わそうとしたとき、父と話せるチャンスを与えてくれるはずだった花壇の世話。
そして、このナジャのことで3回目だ。
初めて叫んだせいか、息が苦しかった。息を荒くしながら、私はナジャを見た。
私はそのときのナジャの表情に驚いた。
――人形みたいに無表情だった。
――目がとても曇っていた。
「……ちょっと待って。………知ってんの?」
「えっ……」
「アンタが何でそんなことを知ってんのって聞いてんのよっ!!」
ナジャは、無表情だったものをすぐに怒りに変えた。私は、怯えた。怖かった。
ナジャの気迫にやられた私は、ナジャの手から手を放して、距離をとろうとした。
しかし、それは許されなかった。放した手をナジャによって掴み返された。
私はされるがままになり、ナジャとの距離をつめられた。
ナジャの瞳が怖いっ……!!
「……アンタ、本当にムカつく。テオリア様を独り占めしたいの?」
「ちがっ……わたし…」
「あぁ、それとも何?お前なんかただの“妹”でしかないんだって遠回しに言いたいの?」
「そんなっ……」
「っ…ムカつく。アンタ、私の前から消えてよ。」
ナジャにまた嫌われた。