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知りたい人

あの昼下がり以来、私はナジャを見なかった。もう実家に帰ったとか、仕事をサボっている訳ではないようだ。

今は、厨房で働いているらしい。かと言って、まだ私の専属侍女を辞めらされたということもないらしい。

ただ、今は私と距離を置いているというより、もう1人の侍女であるフィリアによってこの状態は作られていた。


私はナジャに謝らなければならないと、思った。そして、弁解したかった。あの時、私が言わなくても奥様は充分に幸せな人だ。私みたいな劣化した人間が、言っていいことなんてない。ナジャは誇りが傷ついた筈だ。申し訳がなかった。


フィリアに会わせてくれと言った。フィリアは少し険しい顔で言った。



――なりません、と。



いくらお願いしても無駄だったので、黙って厨房に行こうとした。でも、フィリアは勘が鋭い。すぐにバレて、部屋に逆戻りさせられた。

そんな事が何日も続いた。



















今は私は、厨房にいた。ナジャに会いたかったからだ。

どうやって抜け出したかというと、ペールさんに手伝って貰った。ペールさんはフィリアと私のやりとりをずっと見ていたらしい。流石に見かねたペールさんは、私を助けてくれた。


まず中庭でフィリアと散歩をしていた。そこでペールさんに会って話した。ペールさんは私たちに珍しい花が咲いたから、見てみないかと言う。私は、喜んでそこへ走っていく、フィリアに捕まらないように。フィリアは不意をつかれたので、私を捕まえられなかった。そのフィリアは今、ペールさんに捕まっているという感じだ。


フィリアは強いので、長くは保たない。早くしなければ、と思い、厨房に入ろうとした。厨房の扉を少し開けると、ナジャがいた。私は近づこうとしたが、ナジャは誰かと話していた。










相手は、お父様だった。










「どうだい、ナジャ?屋敷の暮らしは馴れたかね?」


「ありがとうございます、テオリア様。勿体無い言葉です。」


「いいんだよ、君は亡くなったソフィアの“妹”なんだ。私にとっても大事な“妹”だよ。」










「…っはい。」










傷ついた顔をしていた。苦しそうな、辛そうな顔だった。


このままいてもどうしようもないと思った私は、すぐに厨房から逃げ出した。幸いにも2人は私に気づかなかった。


ナジャはとても綺麗な笑顔でお父様に応えていたが、辛そうだった。何があるんだろう、と思った。彼女が私に言ったことと何か関係あるのだろうか。

私には、分からなかった。



それから私は、鬼のような形相をした怖い雰囲気を出したフィリアに捕まった。すかさず、お説教をされた。やっぱり、厨房に行ったことはバレていて、ナジャに会ったのかと聞いてきた。


私は、会わなかったと言った。見なかったとも言った。


フィリアは安心していた。もう、フィリアの怒った顔を見たくないと思った。

夢に出てきそうだったからだ。



















あれから、三週間。

私は、ナジャの顔を思い出していた。ナジャはまだ、私の侍女に戻っていない。今は、洗濯係の所で働いているらしい。


私は、ナジャのことを知ろうと思った。私の中では、あの出来事が鮮明に残っていたからだ。

まずナジャと話さなくては、と思ったが、それは無理だ。フィリアが怒る。

では、せめてナジャのことを知っている人から何か聞けないかと思った。

私は分からなかったから、ペールさんに相談してみた。










「ナジャと仲がいい方ですか?……うーん、私は庭師ですから。侍女たちのことはあまり知らないのです。お役に立てなくて申し訳ありません。」


「あ、…っいいの!ペールさんは、悪くないわ。私が、直接話が出来ればいいのだけだがら。」


「それはフィリアが許さないでしょう。今度こそ、雷が落ちますぞ。」


「そうっ……だよね。」










想像はしたくない。フィリアは怖い。


ペールさんは誰か居ないものかと考えているようで、花の苗を植える作業を一時中断していた。お仕事の途中なのに、と思った。私は図々しいのだ。


だから、ナジャが嫌いになって、あんな事を言って来たのかもしれない。お父様に図々しくも“家族”になって欲しいと思ったから。腹立たしい筈だ。


あの時言っていたことが本当なのだとしたら、尚更だ。

お父様の奥様――『ソフィア』様は、ナジャの姉だったのだ。

本当の意味で血の繋がりがある自分を差し置いて、私が家族になろうとしたことが原因なのだ、きっと。


私も嫌だったからだ。

父は私を跡継ぎに選ばなかった。いや、選ぶもなにも選択肢がなかったんだと思った。私は、母としか血の繋がりはない。父にとって忌々しいだけの母の子だ。

私とは家族にならないが、その子とは父は家族になるのだ。私が未だに望んでいる家族にその子がなるのだ。










悲しかった。

最近は、悲しくなったり寂しくなったり、泣いたりと私の感情は忙しく働いている。こんなにも働いてくれるなら、もっと役に立つことに働いて欲しいと思った。





















「ラヴェリア様。私に1人だけですが、心当たりがいます。」


「本当っ!?」


「えぇ、この屋敷一番の噂好きのことを私は、すっかり忘れていましたよ。」


「誰ですか?」



















「――私の孫です。」






















まさかのペールさんの孫だった。

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