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『あなた様』


“あなたの両親は愛し合っていますか?”


その質問に私が答えるとしたらノーだ。

両親は政略結婚、つまりお互いに望まない結婚だった。

ここまで聞けば、ただ「ああ、そうなんですか。」と済まされる内容だ。だけど、私の両親は違った。


望まない結婚をしたのは、父だけだということだ。


母は恐ろしい人だ。娘の私が『魔女』と呼ぶほどにだ。


私は、所謂国の王女様だ。つまり、両親共々『王族』だ。そこから考えていいほどに両親の政略結婚は大いにあり得た話だった。


父は愛する人がいた。身分は、今は母によって潰されてしまった大貴族の一人娘だったそうだ。しかし、貴族といっても彼女は、そこの当主は血のつながりもなく、その女性はどこから来たか分からない人だった。しかし、美しい金色の瞳をしていたらしい。

父と女性の出会いは至ってシンプルだ。庭先で花に水をやっていた女性にただ、父が一目惚れをしたらしい。それから2人は人々から隠れるように逢い引きを重ねた。身分も王族と相応、2人の縁談もうまくいっていた。

しかし、母は違った。母は父を愛していた。

愛を知っていた母は、それをすぐに憎悪に変えた。そして、それは恐ろしいものに変えたのだ。

母はまず、父を図った。父の寝室に入り込み、彼に睡眠薬を飲ませ、一晩過ごした。もちろん、ともに過ごしたかのように血も残した。初めての証を。

それからが母の復讐劇だった。そのことを知った父は絶望した、でも母は笑った。その頃、母は父と逢うことができない寂しさからある男性との間に肉体関係を持っていた。つまり、母は身ごもっていた。


その事を知ったみなは、それを父の“子”だと言った。父は否定した。でも受け入れられなかったそうだ。彼女との縁談は、無かったものになった。代わりに母との縁談が進んでいった。母は歓喜した。父を手に入れたからだ。しかし、父は嫌悪し、そして母から逃げた。


父は一度国外逃亡をした。勿論、彼女との駆け落ちだった。王は父を探した。当たり前だ、たった1人の跡継ぎだからだ。母も探した。血眼になって探して、探して、探して……ついに見つけた。父とその女性を。










そして、母は女性を父の前で八つ裂きにして殺した。









顔が分からなくなるまでに、憎しみを込めて。










それから、父は笑わなくなったそうだ。少なくとも、私が生まれてからは一度笑わない。

母は、父に尽くした。尽くして、尽くして、尽くしても父は笑わなかった。

そんな父のことを心配していた大貴族の当主が、母を父から遠ざけた。勿論、母怒り狂い、その貴族の家を焼き尽くした。そして、貴族の身内をみな殺した。


そのこともあってか、誰も母に逆らわなくなった。何かを母に言えば、次に殺されるのは自分たちだからだ。










それから彼らは母をこう呼ぶようになった。










―――『魔女』と。










私がその後生まれた。生まれた私を父は嫌悪した、母は無関心だった。

私は母にとって、父を手に入れるだけに生み出された『道具』でしかなかった。それだけのことだった。


両親は私を一目も見たことがない。生まれてもう16になるが、一度会ったことがなかった。私は、乳母に育てられ、そしてこの城の片隅で生きている。


この話は、育ててくれた乳母によって聞かされたものだ。娘の私は、知っておくべきだと言っていた。乳母は泣きながら話していた。乳母は、彼女に仕えていたらしく、母を心の底から憎んでいた。




そんな彼女が何故、私の世話をしたのだろうか。疑問だった。




彼女は、言っていた。










「あなた様の瞳は、あのお方にあまりに似ているのです。私は、それだけの理由であなた様を育てました。死んでしまったあのお方と陛下の子を育てているように。」










何にも言えなかった。

乳母はこの話をした3日後、肺炎で亡くなった。彼女は悟っていたのかもしれない、話しておかなければと思ったのかもしれない。


この話を聞いた後に私は、侍女たちに話を聞いてみた。










「私とお母様は、似ていないの?」


「……はい、あまり似ているとは言えません。王妃様は妖美な女性です。あなた様は全く似てつかない方です。」










この返答に私は、驚かなかった。そうだったのか、と思った。

だから、彼女は私を育てられたのだ。あの憎たらしい母に似ていないのなら、気にしなくてもいいのだから。慕っていた人の子だと思えばいいのだから。

しかし、もう一つ疑問に思った。私の本当の父親だ。でも、母のことは一介の侍女に聞けても、このことは流石に聞けない。


仮にも私は、父の“子”。つまり、王女だからだ。色々と自分で調べたが、何も分からなかった。母のことだ、証拠を一つ残らずに殺した、または消したに違いない。

私は、父親のことは諦めた。

でも、父親を調べて今更だが、気づいたことがあった。










そう言えば、私には“名”がなかった。

私は、侍女たちから『あなた様』と呼ばれている。

両親は私に会っていない。私を名付けにも来なかったということだった。


無性に悲しかった。

侍女たちの家族の話を私は、よく聞かせてもらった。

嫌な父親だった、とか母は手芸が趣味だった、とかを色々聞いた。


羨ましかった、私には一つもないから。


みんな、名前を持っていた。両親からもらった大切な贈り物だ。










泣きたくなった。

ただの『名前』がないだけなのに。

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