表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

キレイなヒト

遅くなりました!

誤字脱字がありましたら、すみません(-.-;)






キレイな人だった。


とても綺麗だった。


話していたら、少し不思議な気持ちになった。



















「……フィリア、本気かい?」


「ええ、本気です。後は旦那様が快く了承してくださればいい、と私は思っております。」


「最初にこのことを言ってきたのは、君じゃないか。加えて反対もしていた。その君があの時の私に賛同するのかい?」


「はい、それが最善だと思いましたわ。旦那様。」










「………分かった、了承しよう。」


「分かって下さり、ありがとう御座います。」










これは使いたくなかったけど、仕方がない。ラヴェリア様の為に今を何とかしなければならないっ…!!


このフィリア、僭越ながら一肌脱がせていただきますわ!!



















フィリアが部屋から出て行った後は、あまり覚えていない。ただ、部屋には居たくなかった。彼女は部屋を片付けに戻ってくるだろう。その時鉢合わせては、どうしようもなかった。私はまた、何も言えないまま、フィリアに気を使わせてしまうだろう。居心地の良くない空気が流れるのは、必須だ。止めておいた方がいい。


私はそう思って、すぐに部屋を出た。日課の散歩も兼ねてだった。


暫く歩くと、庭にたどり着いた。

庭には、とても綺麗な花たちが私を暖かく迎えてくれた。ほんの少しだけ、気持ちが楽になった。

私は今、この庭の一部をペールさんから借りている。城にあった花壇を造らせて貰った。最初は、私のたった一言だったのだが、どの経路を辿って行ったのかは分からないが、お父様がそのことを知りこれを造ったのだ。凄く驚いていたのを覚えている。

断ったのだが、お父様は既にここに種を植えていて、『枯らすなんて可哀相じゃないか』と言われてしまい、私は困った。

暫くして渋々私が諦めて、この花壇を貰った。お父様はなかなか口が立つ方なので、私は一生勝てないと思った。

それからは、元々日課だった散歩の時にここへやって来ては、水やりをしている。


しかし、いつも通り迎えてくれた花たちとは違ったものが一緒にいた。黒い影が一緒にいる。黒い影は、花たちを見つめている様子で私は近づくことが出来なかった。


後ろ姿は華奢に見えたが、体格は女の私よりはしっかりしていた。背丈は私より断然大きく、ここで男性だと分かった。ただ黒い影に見えていたが、それは着ていた衣服のせいだったようだ。衣服事態が、黒を基調とするものばかりだった。それに加えて、彼自身の髪は黒色だった。黒といっても、紺色も混ざっていて、不思議な色合いを見せていた。



――キレイな人。


私は心からそう思った。






「――っ誰だっ!!」


「きゃ!?ごめんなさいっ!!」










私がそう思っていると、彼は気配に気付いたのだろう。後ろを振り返った。

私は慌ててしまい、声を上げてしまった。逆効果になってしまうことなのに。そのため、彼の視線は鋭くなり、私を睨みつけていた。しかし、私は呑気なことにその瞳を見つめてしまった。



彼は綺麗な翡翠のような緑色の瞳を持っていたから。



私の様子が可笑しかったのだろう。彼は眉を潜めていた。どうしよう、と考えていると、彼は此方へ向かって歩いてきた。私は益々混乱してしまった。しかし、ここで逃げてしまえば、彼は不振に思うだろう。


――大人しくしておこう。


私はそう決めた。





だが、それはものの数分で打ち砕かれた。私との距離を縮めた彼は、まず収めていた剣を抜き取り、私の首元に当てた。私は驚き、また恐怖を覚えた。こんなことをされるのは初めてだ。当てられた首から剣の冷たさが伝わり、広がるように体が震え始めた。っ……彼は、怖い。怖い怖い怖い怖い、瞳をしていた。










「……シクザール侯爵には、“娘”はいないと聞いているが、貴様は何者だ。」


「っ……わ、わたしはっ…」


「侍女か?それにしては、身なりが整っているな。」


「ちがっ…」










「お止め下さい、デュラン様。」










恐怖で体が震え、言動がままならない私と目の前の彼との間に声が入った。彼は私に向けていた視線を後ろの声の主へと移していた。私も誘われるように後ろを振り向くと、そこにはナジャがいた。



――何故。



私が思った。それと同時に思考が固まってしまった。こんな時にナジャも来たのだ。どうしていいか私には分からない。しかし、そんな私をほっといているのか、会話は続いた。










「貴様は、侍女か?」


「はい、ナジャと申します。そちらにいらっしゃるラヴェリア様に仕えております。」


「“ラヴェリア”?聞いたことがないな。」


「お耳に入っていらっしゃらないかもしれませんが、旦那様が養女として迎えられ、この度シクザール家の御息女となった方です。」


「……ふむ。」










ナジャの紹介で彼は納得したようだった。彼女の話し方からこの人は高い身分だろうということと名前が“デュラン”ということだけしか私には分からなかった。今の私にはそれだけしか考えられなかった。かつてないほどの恐怖に足が竦みそうなのだ。こうして2人が話している間も首元に剣が当たっているのだ。怖くて仕方がないと思う。しかし、2人は気にしている様子もない。というよりも気づいていないのだろう。……非常に不味い。










「――ということです。御理解頂けましたか?」


「成る程、シクザール侯爵の悪い癖だな。あの方は相変わらずみたいで良かったよ。」


「はい。……ラヴェリア様?」


「っ……い」


「?あぁ、すまない。剣を収めていなかったな。申し訳ない、ラヴェリア嬢。」










漸く気付いて貰えたようだった。怖かった。

しかし、今の私には恐怖よりも怒りが勝っていた。久しぶりに怒っている。原因は、今の今まで忘れていたことだ。幾ら怪しいとはいえ、最初にナジャが言ったではないかと思った。私は先程恐怖で震えていた体を今度は怒りで震えさせた。ナジャと目の前の彼は、勘違いしているようで『恐怖』によって震えているように思っているようだ。その証拠に彼は、少し困った表情を見せている。

それも今の私には、腹立たしいと思った。気がついたら、手が出てしまっていた。










「っ…最低!!」


「っ!?」


「えっ……ラヴェリア様!?」










バチン。

昼下がりのシクザール家に大きなビンタの音が鳴り響いた。



















「本当にアンタって正真正銘の馬鹿でしょ!?」


「っ!!」










部屋に戻った瞬間―――ナジャに怒られた。










あの後、ナジャはその人に頭を下げていた。



――申し訳御座いません、と。



彼はビンタは予想外だったようで少し呆然としていたが、別にいいと言って許したようだった。ナジャはほっとして、直ぐに私を睨んだ。私は怯えた。またやってしまった、ナジャに嫌われたと思った。つくづく私は何かをやってしまう質のようだった


それから彼は私に視線を向けた。申し訳がなかったので、私は視線を地面に向けた。今回は、私が悪いだろう。怒りに身を任せて、叩いてしまった。加えて幼稚な理由だ。これは、大人としてどうなのかと疑われる行動だ。お父様の、シクザール家に名を汚す行動だ。冷静にならないといけないと思った。










「……すまなかった。あなたは剣を向けられたことがなかったのだろう。」


「っ……いえ、私も悪いことをしました。叩くなんてっ……」


「いや、私は嫌いじゃないよ。君のような女性は。」


「えっ……?」










彼は優しい口調で話してくれた。先程の恐怖はどこに行ったのだろう、と問いかけたくなるほど私は落ち着いて話していた。彼は私の行動に特に咎める様子もなく、寧ろしどろもどろになりながら話している私の様子に笑っているようだ。

……お父様に少し似ている気がする。

そのためか、私は振り回されているように思えた。彼の話に私は益々しどろもどろになっていた。

何だか歯がゆいのを感じた。慣れていないため私は照れくさくなってきたのだ、止めて欲しい。



――助けて欲しい。



心から思った。










「君はキレイな瞳をしている。触りたくなるな。」


「えっと……ありがとう、御座います。」


「あ、あのデュラン様。付き人の方がっ……」


「あぁ、時間のようだな。ラヴェリア嬢、またお会いしましょう。」


「は、はい。」










ナジャがどうやら入り口で来ていた彼の付き人に気付いたようで、私は彼から漸く解放された。……苦しかった。


彼は私に名残惜しいような視線を向けながら去って行った。どのような反応をしていいか分からない私は、とりあえず手を振った。その様子に彼も笑顔を見せてくれた。

彼は少し手を振り、私たちに背を向けて歩いて行った。暫くの間、私は手を振った。彼の笑顔は、キレイだった。私の瞳を彼はキレイだと言ってくれたが、彼の方が私はキレイだと思った。

考えていると、変な気持ちになった。





そんなことを考えていた私にいきなりナジャは、私の肩を掴んだ。私は驚いていたが、彼女が気にすることはなく、そのまま私の部屋に連れて行かれた。








そして、冒頭に戻る。










「世間知らずにも程があるわ。国民ならみんな知っている筈なのにアンタ知らないって。どこから来たのよ、アンタ。」


「……。」


「はぁ、いきなり持ち場に戻れって言われて最悪よ。顔も見たくないのに。」










悪態をつかれていた。ナジャを何度も怒らせてしまって、私はどうしていいか分からなかった。でも、あの時とは違って鋭いトゲがない。まだ柔らかい感じがした。


……それでも、溝が深い気がする。


彼のことがあったせいで忘れていたが、何故ナジャは部屋付きに帰って来ているのだろうか。フィリアはどこに行っただろうか。私の頭の中はぐちゃぐちゃに絡み合ってしまった。










「―――…ってアンタ聞いてるのっ!?」


「えっ……ごめんなさいっ…きいてなっ」


「っ……もう一度言うわよ?」










「あのお方は、デュラン。――デュラン・トゥム・レーギス・アメタトス。この国の王子、つまり王太子殿下。」










……予想以上に彼は偉い人のようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ