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フィリアの決心


誤字脱字報告を宜しくお願いしますm(_ _)m



ナジャは掴んでいた私の手を力一杯握ってきた。私はその力の強さに顔をしかめた。

でも、私なんかよりナジャの方が辛そうに、苦しそうな顔をしていた。

ナジャは、暫く握った後に振り払うかのように手を放した。手はじんじんと痛みがした。私は呆然としながらも、痛む手を反対の手で包み込んだ。でも逆にそうすることで痛みが増してきた気がした。


ナジャの方に視線を向けると、彼女は顔を俯せて、身につけているエプロンをぎゅっと握っていた。エプロンには、皺が広がっていた。

私はどうしたらいいか分からず、ただナジャを見つめることしか出来なかった。


どのぐらい経ったかは分からなかった。土の色が染み込んだシーツを手にとって、一度も振り向くことなく私の前から消えた。










そこに残ったのは、青くて高い空と真っ白な雲。それと、同じぐらいの真っ白なシーツと―――










ただ、痛みが引くことがない手を片方の手で握り締めている哀れな私だけだった。



















私はナジャに嫌われたということだけを感じとっていた。

ただ私は、ナジャを止めたかっただけだった。

でも、彼女は分かってくれなかった。それよりも私がしたことに腹を立てられてしまった。

私はそれしか知らなかった。だから怒られたときどうしていいか、分からなかった。










やっぱり私は役立たずだった。










あれから私はその近くにあった木の根元で座り込んでいた。

目の前には、シーツが風によって靡いていた。







私はまだ握られた手をまだ擦っていた。



痛みが引かないからだ。私は必死に擦った。



でも痛みは退くことがない、増すばかりだ。



擦っている手に水が落ちてきた。私は空を見た。でも、空は青くて先程まであった雲さえもなくなっていた。とてもいい天気だ、散歩を後でしよう。



可笑しい、視界が歪んできた。歪んで歪んで歪んで、私の頬に何かが流れた。

私は手で頬に触れた。



濡れていた。私は手で水を拭き取った。でも、それでも流れてくる。

私は、水が何なのか分からなかった。










―――水は、涙だ。


そうようやく私が悟ったとき、私の前には突然消えた私を追いかけて来たと思われるリークと彼について来たフィリアが悲しい顔で私を見ていた。



















私の前には、ホットミルクが置いてある。フィリアが入れてくれたものだ。

ここは私の部屋だ。二人は涙でボロボロになっていた私を支えながら、部屋へと向かった。暫く二人で私を宥めていたのだが、リークはまだ仕事があるということで厨房へと戻って行った。

彼が戻ると言って出て行った後、このホットミルクは私の目の前に置かれた。しかし、これを飲む気にはなれなかった。大分時間が経っているが、いつかのときのようにまたフィリアは、このホットミルクを片付けようとはしなかった。


私は下げてくれ、と願うようにうつ伏せていた顔を上げて目線をフィリアに合わした。

しかし、それは彼女には逆効果だったようで、彼女は私と目が合った瞬間――――とても輝かしい笑顔を見せくれた。いつもは心が暖かくなる笑顔だが、こうゆうときに見るととても辛かった。


気を使わしている気がして、ナジャのように心を読まれているような気もした。

申し訳なさと苛立ちが混ざった何とも言えない感情が、私がこの笑顔に包まれると襲ってくる。










―---やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて、・・・・---










「っ・・・やめて!!フィリア!!」


「っラヴィエラ様!?」










私は笑顔をやめて貰うのに必死だった。フィリアのことなどおかまいなくだ。

私は、近くにあったフィリアが入れてくれたホットミルクを手にとった。








そして、私はフィリアに向かったそれを投げた。私の声と行動に驚いていたらしいフィリアは対処できず、顔にホットミルクがかかった。

勿論ホットミルクが入っていたカップは、床に落ちた。そして、落ちたと同時に鈍い音を立てて、粉々に砕けて、私とフィリアの辺り一面に散っていった。


一瞬、私は何が起きたか分からなかった。私の視界から見えているのは、オレンジ色のスカートの一部についた白いシミ、お気に入りだったコップ。そして、顔を俯かせて表情を見ることが出来ないフィリアだ。










「あっ……フィリア、ごめんなっ」


「申し訳御座いませんでした、ラヴェリア様。すぐに此方を片付けておきますので、散歩の方を先に為さって下さい。」


「まっ」


「失礼致しました。」










フィリアは顔を俯かせたまま、お辞儀をした。私に背中を向けてドアへと向かって行った。多分、掃除道具を取りに行くつもりだろう。

私はフィリアを止めようと、彼女の腕をとろうとした。が、それは無理だった。

フィリアが歩くのが早かったからだ。


伸ばした手はフィリアには届かず、宙を浮いたままになってしまった。

そして、パタンという扉の音が虚しく部屋に木霊した。










――私は、馬鹿で無力な愚者だ。


そう思いながら、私は頬に涙を流した。



















「はぁ、悪いことをしちゃったかしら。」




私は悩んでいた。

悩み事は、只一つ。傷ついて今にも泣きそうな顔をしたラヴェリア様を部屋に残してしまったことだ。あれは、マズい。


でも、私があの場に残っていてまた、笑顔を見せれば、ラヴェリア様は辛そうな顔をするだろう。


ラヴェリア様は、笑っている私をナジャのことと重ねたのだろう。今、あの方の中はナジャのことで一杯なのだから。しかし、どうしたものやらと悩む。


私から言わせて貰えば、あの喧嘩はくだらない。恋心を抱くナジャが、突然現れたラヴェリア様を勝手に目の敵にして、暴言。それを自分のせいだと、思い詰めて悩んでしまったラヴェリア様は、ナジャに謝ろうとする。しかし、何かがあったのだろう。逆にナジャを怒らしてしまって、呆然状態になってしまっている。


この後は、今あった私の事件でラヴェリア様が更に傷ついてしまったという、私の痛恨のミス。やらかしたわ、本当に。

恋は人を変えると言うけど、ナジャの行動は頂けない。



















このままだと、ラヴェリア様はまた心を閉ざされてしまう。最初にあった頃のようになる。




――やりたくなかったけど、仕方がないわ。ムリヤリでもあの2人の仲をよくするしかない。



















私は、旦那様の元へ向かった。

あ、部屋の掃除は“彼女”に押し付けよう。


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