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綺麗な物は綺麗なまま綺麗に纏めるのが好きです

作者: 健野屋文乃
掲載日:2026/08/27

『進路希望どうしろって言うの?』


『わたしはね、綺麗な物は綺麗なまま綺麗に纏めるのが好き』


高熱にうなされているわたしは夢の中で呟いた。


        


        ★



わたしは夢の中で、誰と話しているのだろう?



そんな夢の中まで、玄関に置いてある黒電話のけたたましい音が入り込んできた。


完全に骨董品の黒電話だ!



わたしは二階の部屋から、一階の玄関に向かった。



古民家と言えば聞こえはいいが、実際住みづらい。


田舎の豪農の古い家は、さらに薄暗い。


無駄に広い家屋を照らす照明が足りないのだ。


さらに、バリアフリーの概念すらないのだ。



高熱で休んでいる身には、そのバリアフリーの概念のない、一段がやたら高い階段は辛い。



黒電話の受話器を取ると、黒電話は静かになった。


「藍那ちゃん聞こえる?玄関の棚に位牌があるか見てくれない?」


叔母の声だ。叔母なら携帯電話文明ぐらい知ってるだろう!


携帯にかけて来いよ!


「うん、あるよ」


「ああ良かった良かった。まだ取りに帰っても間に合うレベルだよ」


「良かったです」


「藍那ちゃん、それより進路決まった?」



ああああああああ!


鬱陶しい親戚の叔母ちゃんめ!


この高熱でうなされている姪に言うか?


進路について、夢の中でもうなされていたのだ!


わたしは何をしたいの?


でもとりあえず、当たり障りのない返答を


「まあなんとなく」


「そう頑張ってね」



今日はお盆で、家族と言うか一族郎党はお寺に出かけている。


わたしは高熱で、ご自愛中だ。


わたしは黒電話をきると、自分の部屋に戻ろうとした。



ふらついたわたしは玄関の棚に置いてある位牌の入った箱に、手が当たり位牌の箱を落としてしまった。


先祖の位牌とは言え、遠い昔に死んだ人の畏怖と言うか恐怖が先立って、すぐにしまってしまった。



でも少しだけ、位牌の文字が見えてしまった。


【童女】【元禄】幼くして死んだ少女のなのだろう。



その時、ふと『夢の続きを続けようか?』と脳裏に浮かんだ。


誰の『夢の続き』?


霊や魂など、そう言う話を信じている訳ではないが、話の流れから、位牌の少女だろう。高熱でうなされているから、常識的な判断が出来なくなってるのもあるかも知れない。



『愛する自分である貴女』


と脳裏に言葉が浮かんだ。


ああああああああああ!


鬱陶しい!



だから、わたしは自分の部屋に戻ろうとした。


『夢の続きを続けようか?』


『愛する自分である貴女』



鬱陶しい!


でも、この鬱陶しい!


問題を解決して、完全により安心して眠りたい欲求が起こった。



ああああああ!


わたしは床下の壺の中に入ってる液体をマグカップに注ぎ、一気飲みした。


豪農だった我が家に伝わる最強のエナジードリンクだ。


現在、正確なレシピは、ひいおばあちゃんしか知らない代物だ。



をををををを!


身体に力が溢れてきた。



『それ飲むと後でやばいよ』


「えっ?」


『まあでもОK、それじゃ庭の蔵』


「お前、元禄時代の位牌なのに、ОKとか使うなよ」


『元禄時代の言葉を使っても、正確に意味は伝わらないでしょ』


「雰囲気ってものが」



言われるままに、わたしは庭の蔵に向かった。


蔵の中は静かく涼しかった。


夏の暑さなど忘れているかのように。



『奥の桐の箪笥の一番上』



桐の箪笥は蔵の中で聳え立っていた。


箪笥の一番上が遥か彼方に見えた。


わたしは椅子を母屋から持ってきて、箪笥の一番上を開けた。


その中に、その童女の夢が入っているのだろう。



桐の箪笥の中には、さらに桐の箱が入っていた。


高熱の中、その桐の箱を下に降ろした。


「あけるよ」


わたしは童女に告げた。


そして、童女の胸の高鳴りも感じた。



桐の箱の中には、和紙が沢山あった。


和紙で何かを包んでいるのだろう。


その包みを開けると中には、絹織物や更紗や縮緬の切れ端が丁寧に収められていた。


「おおお」


その可愛さと美しさにわたしは心から感嘆した。


その切れ端の質感と模様は、わたしの身体に潤いと歓喜をもたらした。


知らないはずなのに、その強い懐かしさに、心が震えた。



『わたしはね、綺麗な物は綺麗なまま綺麗に纏めるのが好き』


自信満ちた声が響いた。


あの位牌の童女が、集めた切れ端のコレクションなのだろう。


『夢の続きを続けようか?』


わたしはその声に涙を流した。


そうわたしは着物を作りたかった。


綺麗で可愛くてみんなに愛される着物を!



過去の自分と、今の自分が繋がっていくような気がした。


こんなに素晴らしい事はない!



わたしはそんな気分で、自分の部屋のベッドで完全に安心した状態で眠りについた。



でもね、起きた時に思った。


「だからって、簡単に着物を作る夢を追いかけると思うなよ!


一つの可能性としては受け入れてもいいけど、童女、お前が幼くして死んだのは同情するが、それとこれは別だ」


わたしは童女の位牌に告げた。



追伸、その日の夕方まで、身体の金縛り状態が続いた。


最強のエナジードリンクの影響だろう。







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