綺麗な物は綺麗なまま綺麗に纏めるのが好きです
『進路希望どうしろって言うの?』
『わたしはね、綺麗な物は綺麗なまま綺麗に纏めるのが好き』
高熱にうなされているわたしは夢の中で呟いた。
★
わたしは夢の中で、誰と話しているのだろう?
そんな夢の中まで、玄関に置いてある黒電話のけたたましい音が入り込んできた。
完全に骨董品の黒電話だ!
わたしは二階の部屋から、一階の玄関に向かった。
古民家と言えば聞こえはいいが、実際住みづらい。
田舎の豪農の古い家は、さらに薄暗い。
無駄に広い家屋を照らす照明が足りないのだ。
さらに、バリアフリーの概念すらないのだ。
高熱で休んでいる身には、そのバリアフリーの概念のない、一段がやたら高い階段は辛い。
黒電話の受話器を取ると、黒電話は静かになった。
「藍那ちゃん聞こえる?玄関の棚に位牌があるか見てくれない?」
叔母の声だ。叔母なら携帯電話文明ぐらい知ってるだろう!
携帯にかけて来いよ!
「うん、あるよ」
「ああ良かった良かった。まだ取りに帰っても間に合うレベルだよ」
「良かったです」
「藍那ちゃん、それより進路決まった?」
ああああああああ!
鬱陶しい親戚の叔母ちゃんめ!
この高熱でうなされている姪に言うか?
進路について、夢の中でもうなされていたのだ!
わたしは何をしたいの?
でもとりあえず、当たり障りのない返答を
「まあなんとなく」
「そう頑張ってね」
今日はお盆で、家族と言うか一族郎党はお寺に出かけている。
わたしは高熱で、ご自愛中だ。
わたしは黒電話をきると、自分の部屋に戻ろうとした。
ふらついたわたしは玄関の棚に置いてある位牌の入った箱に、手が当たり位牌の箱を落としてしまった。
先祖の位牌とは言え、遠い昔に死んだ人の畏怖と言うか恐怖が先立って、すぐにしまってしまった。
でも少しだけ、位牌の文字が見えてしまった。
【童女】【元禄】幼くして死んだ少女のなのだろう。
その時、ふと『夢の続きを続けようか?』と脳裏に浮かんだ。
誰の『夢の続き』?
霊や魂など、そう言う話を信じている訳ではないが、話の流れから、位牌の少女だろう。高熱でうなされているから、常識的な判断が出来なくなってるのもあるかも知れない。
『愛する自分である貴女』
と脳裏に言葉が浮かんだ。
ああああああああああ!
鬱陶しい!
だから、わたしは自分の部屋に戻ろうとした。
『夢の続きを続けようか?』
『愛する自分である貴女』
鬱陶しい!
でも、この鬱陶しい!
問題を解決して、完全により安心して眠りたい欲求が起こった。
ああああああ!
わたしは床下の壺の中に入ってる液体をマグカップに注ぎ、一気飲みした。
豪農だった我が家に伝わる最強のエナジードリンクだ。
現在、正確なレシピは、ひいおばあちゃんしか知らない代物だ。
をををををを!
身体に力が溢れてきた。
『それ飲むと後でやばいよ』
「えっ?」
『まあでもОK、それじゃ庭の蔵』
「お前、元禄時代の位牌なのに、ОKとか使うなよ」
『元禄時代の言葉を使っても、正確に意味は伝わらないでしょ』
「雰囲気ってものが」
言われるままに、わたしは庭の蔵に向かった。
蔵の中は静かく涼しかった。
夏の暑さなど忘れているかのように。
『奥の桐の箪笥の一番上』
桐の箪笥は蔵の中で聳え立っていた。
箪笥の一番上が遥か彼方に見えた。
わたしは椅子を母屋から持ってきて、箪笥の一番上を開けた。
その中に、その童女の夢が入っているのだろう。
桐の箪笥の中には、さらに桐の箱が入っていた。
高熱の中、その桐の箱を下に降ろした。
「あけるよ」
わたしは童女に告げた。
そして、童女の胸の高鳴りも感じた。
桐の箱の中には、和紙が沢山あった。
和紙で何かを包んでいるのだろう。
その包みを開けると中には、絹織物や更紗や縮緬の切れ端が丁寧に収められていた。
「おおお」
その可愛さと美しさにわたしは心から感嘆した。
その切れ端の質感と模様は、わたしの身体に潤いと歓喜をもたらした。
知らないはずなのに、その強い懐かしさに、心が震えた。
『わたしはね、綺麗な物は綺麗なまま綺麗に纏めるのが好き』
自信満ちた声が響いた。
あの位牌の童女が、集めた切れ端のコレクションなのだろう。
『夢の続きを続けようか?』
わたしはその声に涙を流した。
そうわたしは着物を作りたかった。
綺麗で可愛くてみんなに愛される着物を!
過去の自分と、今の自分が繋がっていくような気がした。
こんなに素晴らしい事はない!
わたしはそんな気分で、自分の部屋のベッドで完全に安心した状態で眠りについた。
でもね、起きた時に思った。
「だからって、簡単に着物を作る夢を追いかけると思うなよ!
一つの可能性としては受け入れてもいいけど、童女、お前が幼くして死んだのは同情するが、それとこれは別だ」
わたしは童女の位牌に告げた。
追伸、その日の夕方まで、身体の金縛り状態が続いた。
最強のエナジードリンクの影響だろう。
完




