第23話〜境界線上のカウントダウン
激しい豪雨が降りしきる中、執拗な追跡から逃れるアルトと、その肉体に意識を同調させるハンス。二人の精神の境界線が「死の冷気」によって曖昧になる中、ついに脱出用ドックへと辿り着く。しかし、背後からは容赦のない銃声が響き渡り、絶体絶命の包囲網が狭まりつつあった。命をかけた最後の脱出劇が、いま幕を開ける――。
後から迫る、容赦のないヘッドライトの光。激しい雨音に混じって、濡れたアスファルトを乱暴に踏みつける追っ手たちの金属質な足音が響く。
「見失うな! まだ遠くには行けないはずだ!」
怒号が風に乗り、アルトの耳を打つ。恐怖で凍りつきそうになる四肢を、ハンスの強靭な意思が無理やり前へと突き動かした。
(走れ、アルト! 立ち止まればそこで終わりだ!)
脳裏で響くハンスの声と同調するように、アルトの心臓が爆発的な鼓動を刻む。ハンスの元の肉体が死を迎えるにつれ、彼らの精神の境界線はさらに曖昧になっていく。冷たい雨の感覚、肺を焼くような呼吸の苦しさ、そして――遥か遠くの戦場でハンスの肉体が浴びている、おぞましい「死の冷気」までもが、今のアルトには生々しく共有されていた。
一歩、また一歩と泥を蹴るたびに、視界が二重にブレる。
だが、ついに闇の中に目的の建造物が姿を現した。錆びついた鉄扉――脱出用のドックだ。
「そこか……!」
ハンス(アルトの身体)は肩から鉄扉へと体当たりした。けたたましい金属音とともに扉が開き、荒れ狂う海水を湛えた暗いドックの内部へと転がり込む。
そこには、激しく波打つ水面に揺れる、一台の古い小型ボートが繋留されていた。
「見つけたぞ……!」
だが、背後から無情な銃声が響き、鉄扉に激しい火花が散る。追っ手はすぐそこまで迫っていた。二人の、命をかけた最後の秒読みが始まる。
第23話をお読みいただき、ありがとうございました!
ついに脱出用ドックへと辿り着いたアルトとハンスですが、追っ手の容赦ない銃撃によって最悪の瞬間を迎えてしまいました。ハンスの本体が迎えている「死の冷気」と同調し、視界までブレ始めたアルトが、この絶体絶命の包囲網をどう切り抜けるのか……。
激しさを増す雨と海、そして二人の精神のシンクロの行方に、ぜひ次回もご注目いただけると嬉しいです。




