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【幻冬舎Rコンテスト入賞作】R.O.R.( The Revolution of Rats.)〜 鼠たちのカクメイ  作者: 真夜航洋


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第9話 「戦でも始めんのかい?」 


 そこへ洗心洞に寄宿する書生が入って来て、意義たちの到着を告げた。


「先生。表に渡辺良左衛門という方がお見えです」

「おう。帰ったか」


 玄関に出てみると、懐かしい顔と見知らぬ顔があった。


「ご苦労やったな、おき……ああ、渡辺やったか。ほんで、その坊主は?」

「まあ、ゆえあって私の養子ということに」


 百姓という出自ではこれからの行動に支障があるというので、カイを意義の養子ということにしていたのだ。


「わ、わ、渡辺……カイって言います」


 慣れぬ苗字を口にして、カイは照れ臭そうにぺこりと頭を下げた。


「ほう。お主が養子をとるとはな。ほんで、どやった? お江戸のお偉い様たちは」


 四人は連れ立って、歩きながら話をした。

 訓練場の河原には、馬と材木に偽装した銅製の大砲が置いてある。

 金を払った平八郎にも、確認してもらわなければならない。


「ええ。相良の者に聞いたのですが、残念ながら」


 意義は江戸で、相良藩の藩邸を訪ねた。

 そこに駐在する知己を通して、幕府内の情報を得ていたのだ。

 さらに大坂に戻る途上で文も受け取っていた。


「その文によれば、飢饉の件は閣議にも上らず。あろうことか将軍代替わりの儀を強行しようとしている、とのことでした」

「まあ暗愚の為政者とはいえ、今が危機的状況なことは薄々気づいとるやろ。代替わりという盛大なお祭りでもブチ上げれば、世間の目は逸らせると考えとるのかもしれんな」


 平八郎は深いため息をついた。

 四人が広場にさしかかったとき、豆が爆ぜるような音が連続して鳴った。

 一斉射撃の訓練らしい。

 格之助に代わって指揮を執っているのは、塾頭でもある宇津木静区という男だ。


「すげえ。大塩のおっちゃん、戦でも始めんのかい?」と、カイが目を丸くする。


「こら。先生になんて口を」


 意義がたしなめたが、平八郎はむしろ愉快そうにカイの頭を撫でまわした。


「坊主、ええ勘しとるやないか」


 意義は、初めて見た時からの疑問を口にした。


「敢えて、街のど真ん中で訓練を披露する……口実は何ですか?」

「百姓一揆対策や。せやったら、見せつけるだけ見せつけた方が効果的やろがい」


 もと与力で大坂での人望も篤い大塩平八郎である。

 口実さえあれば奉行所から訓練の許可を得ることなど容易かったのであろう。

 腑に落ちた。


「先生は、どこまで進むおつもりなんです?」


 ここで明言することなどできまいが、一応訊いてみる。


「勘ぐるな。ただの備えや。備えあれば憂いなし」

「これは失敬。ところで先生、帰りがけに拾いものをしましてね」


 話を変え、広場に降りて興味津々と訓練を見ているカイを指した。


「あれか? どう見ても、お主が養子に迎えるような前途ある若武者には見えんが」

「ええ。おそらく百姓上がりでしょう。ただこれから先生が為すことには、ああいう者が必要ではないかと思います」

「ほう。お主が誰かを推挙するのは初めてやな。そら楽しみや」

「それともうひとつ。どうやら内部に跡部と通じている者がいるようです。十手持ちが人斬りを雇って私に差し向けました。年配の男でした」


 平八郎と格之助が、顔を見合わせる。


「奉行所を休んでいる与力と同心を調べておきましょう」


 格之助は苦々しい表情で言った。

 平八郎の方は眉をしかめている。

 そのとき、豆というより栗が爆ぜるような音がした。

 見ると、塾生の一人が火縄銃を投げ出し顔を押さえている。

 銃口から煙も立っている。


「あかん。暴発や」


 格之助が顔をしかめる。

 前装式の火縄銃は銃口から奥底に火薬を詰めるため、発砲を繰り返すうちに銃身に残った火薬が引火して暴発することがたまにあるのだ。

 格之助は意義にお辞儀をし、塾生の安否確認のため広場に向かった。

 医師でもある宇津木が応急処置をはじめている。


「宇津木殿。貴殿はこの者を連れて塾に戻られよ」


 怪我人を医師に負ぶわせる養子を見守りながら平八郎は、意義に聞かせるともなく呟いた。


「わしの養子ということで、あれも奉行所ではつらい立場にあるようや」


 つまり彼は職場で内部スパイのように思われている、ということなのだろう。


「ああ。それと例の品ですが」

「うむ。大儀やったな」


 ふたりは河原に降りて、大八車の中を確認する。

 木箱に納められた「仏郎機」と当て書きされるその武器は、この日の曇り空のような鈍色だった。


「二門とも、部品がいくつか欠けてます」


 意義は不良品であることを知りながら、仲買の武器商人から言い値で購入した。

 噂にも立てられたくなかったし、急ぎということもあったからだ。


「ええんや。こいつは、存在そのものが武器になるんやから」


 ハッタリ。

 

 そもそも洗心洞のどこを探しても、洋式砲術を会得した者はいないはずだ。

 おそらくそうであろうとわかってはいたが、懸念材料がひとつ消え意義はほっとした。


「なあ、渡辺。旅から戻ったばかりで済まんのやが、また頼まれてくれんか」

「なんなりと」


 秋も深まり、自分にとって気の重い季節へと向かっていく。

 紛らすための仕事が続くことは願ってもないことだった。

 意義はまたほっと息をついた。




つづく




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