第九話 親父とメンタルクリニックなう
父の敏志と娘の茜は、手を繋いでいた。
一見そう聞くと、幼い娘と父親を連想するだろう
だがここに、いるのは、50手前の父と18歳を昨日迎えた娘だ‥
精神科の病院の待合室はグッタリしてる人‥
奇声を少しあげてる人
忙しなく足をバタバタしてる人‥
さまざまだった。敏志の顔色は少し悪く、顔には感情が消え、夜は眠れず目にはクマができていた。
あの自殺をしよーとした日、敏志と娘の茜は、2人で家へ帰ったが、敏志はそれからベッドから出られず‥食欲も失せて、飲まず食わずにいた。
敏志はこのままベッドで飲まず食わずで死のうとしたが、茜は無理やり、敏志をひっぱり病院に連れてきた。本来ならこの役目は敏志の女房の役だが‥今、家庭の中で唯一の味方はあの日一緒に会話をした茜になっていた。
「お父さん‥大丈夫?飲み物?いる?」
「ぁあ‥」
茜は自分で口をつけていた。お茶のペットボトルを敏志に渡した。ペットボトルの口には、茜のグロスがついていたが、敏志はそれを気にせず、一気にお茶を煽った、
敏志は不安だった、まさか自分が精神科にくるなんて夢にも思ってなかった。気分が落ち込み、希死念慮まで持つようになり、また実行にまで移していた、重度のうつ病かなんかに違いないとは、思ってたが、まさか病院に行く羽目になるとは、
病院の雰囲気も苦手な敏志は、すがるように、茜の手をギュッと握りしめた。今まで誰かに甘えて来なかった‥また亡くなった父からは男なんだから、誰かに甘えたりせず、ジッと耐え、堂々と生きろなんて言われてきたから当然である。
娘の茜もギュっと握りかえしてあげた。
茜はスマホをネイルがついてる手でカチャカチャとSNSで友達にメッセージを送っていた。
(親父とメンタルクリニックなう‥)
最初こそ茜は父親の敏志の事を、親父と呼んでいたが、あまりの落ち込みように、お父さんと呼称を変えてあげた、家にいる時も、茜だけが、敏志の事を案じていた。妹は今日も彼氏の家らしい。お母さんは不倫相手の所らしい。
なんだか、バラバラになってしまっていた家族が今、この2人だけになってしまった気がした。でも、父親が死ななくて良かったと心の中でコッソリと思っていた。




