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私には前世の記憶なんてない!…と思うんだけどなぁ。  作者: ハシドイ リラ


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4/11

確かにしくじり続けたけれども

「私はもう世俗とは離れておりますから、お好きなようになさってください。」


あの時以来会っていなかったエステルに面会に行った。

月日が経つというのはすごいことで、あの野心に溢れたエステルはもうどこにもいなかった。楽な生活とは言えないだろうに、それなりの年月を重ねた顔には笑い皺がたくさんあった。


彼女と私が犯した罪はとても重たい筈だ。だというのに二人ともーー思っていた形とは異なるがーーそれなりの幸せを手に入れることができた。

…罪をエステル1人に押し付けてしまったという罪悪感がいつも心の片隅にあったのだが、彼女の穏やかな顔を見て少しだけ、ほんの少しだけれどその罪悪感を薄めることができた。


何もかもが不満だったあの頃にはこれっぽっちも思い至らなかったが、エステルにしても私にしても周囲の人に恵まれ導かれて穏やかな日々を送ることができている。どれだけ感謝してもしきれない。


その穏やかな顔を見ていたら、断られる事はないだろうと直感した。


※※※※※※※※



「それではまるでしくじり先生ですね。」


エステルが穏やかに微笑みながら衝撃のひと言を放った。

エステル!君もなのか!だからそのしくじり先生というのはなんなのだ!


「なかなか上手くお伝えできないのですが、それなりに良い暮らしをしていた人が大失態を犯し、でもそこからまた頑張って這い上がっていく、みたいな感じです。」


「そして、その頃の奮闘ぶりを第三者に語って"俺みたいにはなるな!"と発破をかけるのです。ただ陰鬱なだけのお話ではなくて、面白おかしく話を脚色しつつ聞いている人たちの戒めにもなるのが一番の理想ですね。」


ふむ、ただただ暗く話をすれば良いというわけではなく少し道化を演じるつもりでやらなければならないということか。それにしてもなんだかモヤモヤする。


「本当になんなのだ!君と言い、クリスティーネ様と言い!やってしまった事は認めるし反省もしているけど、しくじり先生と呼ばれるとなんとなく小馬鹿にされてる気がする!」


思わずムッとしてそう言ってしまったら、エステルが目を見張った。だがすぐに表情を戻し、


「クリスティーネ様も?そうなんですね。それなら他にも同じことを言う人が出てくるかもしれないですね」


とにっこり言われてしまった。なんだか腑に落ちないけどまあ関係者の許可は取れたことだし、学園長にはOKだと伝えよう。



※※※※※※※※


学園長はホクホクしていた。よっぽど気を揉んでいたのだろう。


「学園長。クリスティーネ様とエステルの承諾を取り付けました。当時関わっていた他の方々も"あのお二人が良いのなら"ということでまとまりました。」


「ソルビタン様、本当にありがとうございます。…お願いしてはみたものの、実現するなんて思ってもいませんでした。昔の古傷をわざわざ抉るような真似、通常ならお引き受けいただける筈がないのですから。」


分かっているのに頼んだのか。と、少し顔が引き攣ってしまったかもしれない。だがまあクリスティーネ様に言われたとおり、大した罰も受けて来なかった自分への戒めでもあるのだ。

精一杯自分の役割を全うしようではないか。




引き受けると決めたからには、とちゃんと当時を振り返ってみた。時系列を確認、その時感じた事、自分の至らなかった点など、など、など。

今にして思うと赤面ものの事ばかりだ。

…あの頃はこんな当たり前のこと、そして人として最低なことを何も考えずにやらかしていたんだな。


私はあの当時、というかかなり長い間自分のことを"被害者"だと思い込み憐んでいた。

最初は確かにエステルに騙された事がきっかけだ。

だが、まずすべきはエステルを憐んで味方になる事ではなかった、と今なら分かる。

もしくは味方になるにしても、愛情を向けるなんて以ての外。すべきは事実の確認であり、クリスティーネ様に怒りをぶつける前に当時の侯爵、クリスティーネ様の父上に話を通すべきだったのだ。

もしくは父や兄に婚家への不安という事で相談していれば。エステルの話の矛盾点に気が付き、さらなる身辺調査をすることもできたのだ。

全ては愚かで物知らずだった自分が招いた事態だったのだ。


そう素直に思えるようになったのは、マーラーのお陰だ。

いばりんぼうと呼ばれても相手にせず、前子爵との日々を精一杯守っていたマーラー。

そんなマーラーとの婚姻でさえ"落ちぶれた私にはこのくらいの相手がちょうどいいんだ"などと自嘲気味に考えていた。

だが、いばりんぼうのカケラも見せないマーラーと過ごし、少し後悔の気持ちが過るようになった頃。


「貴方もそろそろ自分を見直しなさい。」


とマーラーに諭されたのだ。


「貴方は被害者ではないのよ。周りをご覧なさい。エステルさんの嘘に騙されていた人の方が少ないでしょう?そもそもクリスティーネ様のご友人方なんて疑うどころか、ちゃんと正確な情報を掴んでいたじゃない。」


それでも唇を噛んで悔しげな表情をしている私に対して、ふうとため息をつきながらも


「クリスティーネ様が全く傷付かなかったとでも?お義兄様やお義父様がやらかした貴方を即見捨てたとでも?貴方の普段の言動からある程度覚悟していたとしても女性が、しかも全くの冤罪で人前で貶められたのよ。何も感じない人なんかいるわけないじゃない。お義兄様やお義父様だってそう。確かに伯爵家を守ることを優先したと思うわ。それに家に傷をつけた貴方を厳しく叱責もしたと思う。でも一方では貴方のことをどれだけ案じていたことか。どうにか刑罰は免れたけど、伯爵家でそのまま過ごさせるわけにもいかない。…貴族の子息が独りで放り出されたらまともに生きていけるはずがない。貴方をどうにか生かす為にどれだけの知恵を絞ったことか。」


「…私との婚姻は、お義兄様のアイデアよ。」


突然の話に言葉を失いマーラーに視線を向ける。


「貴方のお義兄様はね、とても聡明な人だったの。私がいばりんぼうなんて呼ばれることに甘んじていることも、理由をちゃんと知っていたの。だからこそ。」


とても優しい眼差しでマーラーは続ける。


「お義兄様は私に頭を下げに来たの。"アイツが悪くないなんて全く思ってない。でもやっぱり家族の情というものがあって、切り捨てられないんだ"ってね。」




本日の更新はここまでです。明日からは1話ずつアップの予定です。

明日もどうぞよろしくお願いいたします。

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