恥晒し?いやいや、やらかした事の後始末ですからこのくらいはやらせていただきます!
「学園で特別講師をしないか?ですか?」
「はい。本当に失礼な話ではありますが、貴方の最初の婚約にまつわる騒動は私くらいの年頃だと知らない者はいない有名な話です。…主に教訓としてですが。」
こうまではっきり言われると苦笑いするしかない。だが話を持ってきた学園長はいたって真面目な顔をしている。
「ですが、ここ数年無茶な婚約破棄を行うものが出てきましてね。"いじめや嫌がらせをするような奴とは婚約破棄だ!"と言って片方の言い分でもって断罪を行うのです。」
ほとんどの場合、冤罪というのも問題なんですよ。ととんでもないことを呟いている。
…まあ私も片方の言い分に乗っかって断罪しようとした側なので偉そうな事は言えないのだが。
「最初は伯爵令嬢が侯爵家嫡男に冤罪をふっかけられました。…爵位の差があったためあまり大っぴらになる事はありませんでしたが」
苦々しい顔で学園長が話し出す。
んん?どこかで聞いたことのある話のような気がするが、誰の話だったか…。
「そんな馬鹿なことをやらかすような者ですから、自身の婚姻の意図するところは全く理解していなかったようでしてね。実際には傾きかけた侯爵家が伯爵家からの援助を受けるための縁組だったのですよ。
これまた愚かなことに、侯爵家が言い出したなら伯爵家は逆らえないだろうと思ったのか、計画も非常に杜撰でして。冤罪であることもあっさりと証明されてしまいました。
その結果縁談が無くなるのは当然のこと、恥をかかされた伯爵の怒りは凄まじく、表沙汰にしたくないなら誠意を見せろ、となりましてね。
侯爵家嫡男は交代となり一緒に冤罪を企てた令嬢の男爵家へと婿入りとなりました。
伯爵令嬢はそもそも政略によるこの縁談に乗り気ではありませんでね。これ幸いとばかりに破談話に乗り、隣国に留学へと向かいました。ええ。侯爵家にトドメを刺すくらいの慰謝料を分捕ってね。まぁ、表向き伯爵令嬢が冤罪を否定することなく収めましたからね。口止め料も高くなるというものですよ。」
「そして当の本人たちですよ。婿入りとはいえ男爵家にはしっかりした嫡男がおりましたのでね。実際は侯爵家のみならず力のある伯爵家にまで喧嘩をふっかけたバカ夫婦ということで。領地でほぼ平民と変わらない生活を送っているようです。男爵家もまた莫大な慰謝料を払うことになりましたからね。嫡男からは相当恨まれてるんだそうで。代替わりした際には今ある温情さえ残るかどうか。」
今はまだ衣食住が保証されているだけでも幸せというものですよ。なのに不平不満ばかり募らせているらしいですが。
小さく呟くのが聞こえた。そうか、詳しくは知らなかったが、件の侯爵家の嫡男交代にはこんな事情があったのか。
「ですがね」
眉間の皺を更に深くして学園長が続ける。
「学園内では侯爵家嫡男の立場は失ったが、男爵領内で2人仲睦まじく暮らしている、要するに断罪は成功!望むものを手に入れて万々歳!という話になっていましてね。」
はあ、とため息と共に続ける。
「同じような婚約破棄が年に2,3回は起こるようになったんですよ。」
「そ、それは大変ですね。なんだか申し訳ない」
「いえ、あなた方の場合はちゃんと罰を受けましたからね。ですから今さら蒸し返すのは非常に忍びないのですが。」
確かに私たちの場合はそれなりにキツい罰となった。実刑となったのはエステルだけだったが、我が家は責任を取る形で父が隠居したし、後継の兄は数年まともな社交もできなかった。どうにか爵位だけは死守できたが、苦しい思いをさせた兄夫婦には未だに頭が上がらない。
エステルに至っては処刑か重労働か、というところを母親の嘆願で修道院に入ることができた。できたが、非常に戒律の厳しい修道院であったため、清貧と言えば聞こえはいいがかなり厳しい生活を送っていると聞く。
なるほど。侯爵家はこの件を外に出したくはない、と。莫大な金をかけたが、伯爵令嬢との話し合いで冤罪をふっかけたことについては表沙汰にはならなかった。だから侯爵家が隠せば隠すほど、学園内では都合の良いハッピーエンドと考えるものが増える、と。
学園長は非常に申し訳なさそうにしているが、これは!
結局罰らしい罰を受けずに幸せに暮らしてしまった私にできる、せめてもの償いではないだろうか。
そう、父や兄は私の愚かさで大変な目に合わせた。クリスティーネ様や当時の侯爵様は、何も瑕疵が無いのにしばらくは噂の的になってしまったし、エステルは未だに修道院だ。
…では私は?
当時は"いばりんぼうの家付き娘にこき使われる入婿"と陰でせせら嗤う声も聞こえたが、数年もするとマーラーの悪評も消えてしまい(そりゃそうだ、元からそんな人間ではないのだから)いつの間にかおしどり夫婦と呼ばれるようになってしまった。
10年ほど経った頃、
アレ?結構酷いことしたはずなのに、オレ幸せじゃない?
と気づいてしまい、なんだか申し訳ないと思っていたのだ。
これは良い機会なのではないだろうか…?
「学園長、お話はよく分かりました。私としてはお引き受けするのは問題ないです。しかしながら、この話が今さらでも広がるとそれなりに迷惑を被る方々がいらっしゃるのです。ですので、私からまずは影響を受けそうな方々に承諾を取ってからお受けするということでも良いでしょうか。」
学園長はまさか引き受けてもらえるなんて!と手を握ってブンブン振り回してきた。
まだ各所の承諾が必要なんだから、喜びすぎではないだろうか。
マーラーにはまた迷惑をかけてしまうかもしれないなぁ。だが彼女ならきっとこう言ってくれるはずだ。
「失敗談を学生の前で講演?まぁ!ちょうど良いじゃない。貴方、いばりんぼうマーラーのお陰で楽しい人生だったでしょ?そのくらいの恥はかいて来なさい!」
ふふ、久しぶりにいばりんぼうマーラーに尻を叩かれるのも良いか。




