受け継いでいくもの
本日3話目!飛ばしてもなんとなく繋がるような気もしますが、やっぱり全部読んで欲しい!ので"兄たちの思い その2"から読んでいただけると嬉しいです。
そしてこれで完結です!
「そうか、そんなことがあったんだね。」
泣きそうな顔であの人が言う。
「そうよ。あなたはね、とんでもなく酷いことをやっちゃったの。なのに!こんなにたくさんの人があなたのことを幸せになってほしい、って願ってるのよ。それはきっとあなたがもともといい人だったからだと思うの。」
目に力を込めて続ける。
「あなたには考え足らずなところがあるし、物事を見極める目もちょっと…足りないわね。でも、やり方はともかく、最初の出発点が善意だった事はみんな分かっているの。だからね。」
「だから…か。だからみんな私のことを気にかけてくれていたんだな。なのに私は不平不満が顔に思い切り出ていたよ。」
顔から火が出そうだ!恥ずかしい…。
「でもね、あの出来事であなたが善良な人だと知っていて幸せになれるよう尽力してくれた人たちはね」
しっかり彼の目を見て告げる。
「あなたの事を心配する気持ちや助けてあげよう、って気持ちはあの時にほとんど使い切ってしまったの。分かるかしら。無償の愛なんて言葉があるけど、やっぱり愛情って補給が無ければいつかは枯れてしまうのよ。」
「ああ。ああそうだ。私の今の態度は!自分がした事がどれだけ酷かったか分かってるつもりだった。…けど、まだどこかで"あんなふうに騙されなければ"ってつい思ってしまってたんだ。」
こうしてはいられない!今すぐみんなに謝罪に、いや!感謝の気持ちを伝えにいかなければ!
その時、マーラーが右手を振りかぶった。
コーン!
「あいたたた!マーラー!何をするんだ!」
扇子で額を打ち抜かれた。!思い出した。あの日も母に。こんな風に額を打ち抜かれたんだった。
呆気に取られていると兄が笑い出し、父が、母が。
結局自分も笑い出してしまったんだったな。
あの時の母は扇子一つで被害者になろうとしていた私を諌めてくれたのだ。
なのにまたこうやって人から諌められないと分からなくなるなんて。
でも思い出せて良かったよ。やっと、本当の意味で反省して謝罪できる気がする。
「ソルビタン!あなたが今ようやく心から謝罪する気持ちになったのは分かったわ。けどね、今更謝罪行脚なんて、余計に腹立たせてしまうわよ。」
今まで理解してなかったのかっ!てね。
「その気持ちを忘れないで、態度で示していきなさい。あなたの周囲の人はそれだけで許してくれるわよ。」
それから彼は、何にでも真摯に取り組むようになった。
そして夜遅く寝室に入って来て
「マーラーには一生頭が上がらないなぁ。」
寝てるフリをしている私の頭を撫でながら呟くのだ。
彼がやり直すことができて本当に良かった。
※※※※※※※※
「まあ!そんなことがあったのね!だからあの頃急に目が覚めたみたいに変わってしまったのね。」
クリスティーネ様とのお茶会だ。
お互いの子供がよちよちの頃から始まった。覚醒したソルビタンを見て、心からの謝罪を受け取ってくださった時に"全て水に流して良いお付き合いを"と仰ったのだが、それがこんなに長いお付き合いになるだなんて当時は思ってもみなかった。
子供たちが小さな頃は、私たちは優雅にお茶を飲ませてもらい、夫たちが全力で遊んでくれていた。
流石に子供たちはもうお守りが必要な年頃ではないんだけど、お茶会だけはいまだに続いている。
「今日はお久しぶりのお茶会だったでしょう?しくじり先生はいつまで続けるのかしら?ってお聞きしたかったの。」
「でもそんな風に思っているのなら。やめる気はないんでしょうね。」
「はい。もうあの人のライフワークみたいなものですから。…それに彼が伝えたいのは馬鹿なことをするなってことだけではないようなんです。あ、もちろん馬鹿なことをやらかさないように罰についても話すんですけど。」
「必ずね、最後は感謝の話になるんですよ。そしてね。」
"俺のようにはなるな!って言ったけど、もしもうすでにやらかしてしまったことがあって絶望している人がいても、助けの手を求めなさい。きっと間に合うから。そして俺のように失敗してもやり直せるってことも覚えておいてほしい"
で締めるんですよ。多分あの最後の締めの言葉があるからこそバカをやらかす人が減ったんじゃないかと思うんですよ。
そう言って犬と戯れる(押し倒されてべろべろに舐めまわされてる!)ソルビタンを優しい眼差しで眺めるマーラーだった。
※※※※※※※※
あれからもう20年だ。父もすっかり好々爺だし、私も随分と丸くなった。後継の息子も娘も優秀に育ってくれている。
…憎しみを抱えて生きるには長すぎる時が経ってしまった。
ソルビタンが急に変わってしまった理由も分かったし、マーラー様とは相変わらず仲良くさせてもらっている。
ソルビタンの兄、ラシミッツ様のお陰でセスキオレイン伯爵家もどうにか盛り返した。
お父上も長年の夢だった画家として活躍されているし、これが物語なら大団円よ。
そろそろ私も次の世代にバトンタッチできるし、長年見ないふりをしてきたあれに取り掛からないとね。
「ねえ貴方。私久しぶりにテルニアに会いに行こうと思うの。付き合ってくれる?」
本当はここから章立てして別の物語を作っていこうと思ってたんですけど、何故かソルビタンの家族の物語になってしまいました。
ここから全く別な人をメインに置いて話を進めるのはちょっと難しいかなぁ…と思ったので一旦完結にします。
そしてまた別のお話に繋げていこうかと。
またお付き合い頂けると幸いです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。




