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私には前世の記憶なんてない!…と思うんだけどなぁ。  作者: ハシドイ リラ


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兄たちの思い その3

このお話は本日2話目です!一つ前にその2があります!そしてこの後もう1話で完結です!


「師匠には大変申し訳ないのですが、わたくしは卒業と共に平民になる予定です。我が家には伯爵位と子爵位がありますが、伯爵位は嫡男である兄に、子爵位はひとつ下の弟に、と考えております。私は師匠のおかげで商才は得ることができましたが、文字通りの裸一貫のスタートなのです。お嬢さんを苦労させぬほどの男になれるかどうか…。ですので謹んでお断りをさせていただきたく。」



彼のお断りの返事を聞いた時、私はあまりの衝撃に目を見開いたまま何も話せなくなってしまった。

え、私あなたの師匠の娘…。え、師匠として紹介したのは娘の私…。え、私ってばお断りされてる…?


彼とは学生時代から確かな絆を作り上げていたと思っていた。思ってたのにいー!!

キーって言いそうになった私の横で師匠、つまり私の父が急に笑い出す。デカい声でガハハと。


えーっ笑い事じゃないんですけど…?んん??

今のお断りって、もしかして拒否されてる訳ではない?要するに嫁に貰うには自分では養えないってこと?

なにそれ!この人なんでもチャチャっとやっちゃう人だから伝わってると思ってたのに。

そっか!あなたは私の幸せを考えてくれているのね!


そう思ったら私も笑っていた。流石にガハハじゃないけど、大きな口を開けて。


父も私も、呆気に取られる彼を尻目に笑いたいだけ笑って。やっと笑いの治まった父が言う。


「いや、君のことはもうわしも娘も手放せそうにないよ。」


私だって!言わなきゃ伝わらないならちゃんと言うわよ!


「そうよ。わたしと結婚したい人なんて星の数ほどいるのよ。それを断るなんて!ね、お父様。私の見る目は確かだったでしょう?」


「確かにその通りだな。あーよく笑った。君の無欲さには驚かされるね。」


目尻の涙を拭いながら父が言った。だが、突然師匠の顔になり


「早とちりは商売で1番ダメだと言ったろう?…誰が嫁にやると言った?君が!我が家に来るんだよ!」


そうだよ!君ほどの人材、我が家が手放す訳ないじゃない。

父と声を揃えて言ってやったわ!


"伯爵?子爵?そんなもん要らないよ!君が欲しいんだ!"


その後は大変だった。彼は目を見開いた後ポロッと涙を溢したと思ったら号泣したのだ。

男の人がうぉんうぉん言いながら泣くの初めて見た。その声に驚いて従業員が覗きに来て、私と父はひどい奴!と言われる羽目になったのだった。


※※※※※※※※


「あの頃さ、多分いっぱいいっぱいだったんだよね。俺。」


無事婚姻を済ませ、もう間も無く1人目が産まれる頃。こちらも無事に子爵位を継いだ弟と話したことがある。


「子爵位をお前に譲った事は後悔してないし、今もやっぱり間違ってなかったと思ってるよ。けどあの当時は正しい判断だと思ってても、平民になることや家を出ることが怖くて堪らなかったんだろうな。」


「そうだったんだ。兄ちゃんいっつも明るいから気が付かなかったよ、ごめん。」


「そりゃそうだよ。俺だって自分の不安に気が付いてなかったんだから。金銭面とか、身の回りのこととか。気を引き締めなければと思ってたよ?けどそこまで心の底から不安だったなんて自分でも驚きだったよ。」


「そうよ。一緒に仕事してた父だってそんな風に思ってるなんて気が付きもしなかったし、私だって。」


一旦言葉を切って、お茶を淹れるのに少し気を取られた後続ける。


「だからあの時号泣したのを見てびっくりしたわ。」


うわーその話は!弟の前ではやめてくれよー!


「えっ!兄ちゃん号泣だったの⁈」


ニヤニヤしながら言う弟にひと言文句を言ってやろうとしたら、先を越された。


「サラ義姉さん、アザルフィ兄さんが泣ける場所になってくれてありがとう。…兄ちゃんはいっつも周りのことばっかりで自分は二の次だから。これからもよろしくお願いします!」


結局俺は3年ぶり2度目の号泣を家族の前でしてしまったのだった。


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