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私には前世の記憶なんてない!…と思うんだけどなぁ。  作者: ハシドイ リラ


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前世?なにそれ?

新連載始めました!こちらから読んでいただいてもそれなりに読めるとは思うのですが、"ちょっとは疑ってみましょうよ"や"私には前世の記憶がある"を読んでいただけると話しが繋がって面白いと思います。

あれだけポンコツだったソルビタンが時を経て人の良いオッサンに進化してますよう!

前世の記憶?なんだそれは?そもそも前世っていうのはなんだ?

字面からして前の世、ということは今生きている世界より前の記憶ということか?


ふーん。世の中には変わった人がいるもんだなぁ。



前世とやらがあるのはどんな気分なんだろう?

…前の世にも大切な人たちが沢山いたんだろうな。その人たちを思って寂しくなるのか、懐かしく思うのか。全く想像もつかない。

そもそも生まれる前の記憶ということは、この国の民であったかも分からないということか?

…ちょっと興味はあるけど、なかなか厄介な事のような気もする。まあ私にはそんな記憶なんぞ欠片もないからな。今度その前世持ちとやらに会う機会があれば色々と根掘り葉掘り聞いてみたいものだな。


などとのんびり構えていたが、事はそう簡単でもなかった。

その話の元ネタがなんとかつての婚約者、そして世間を騒がせたお家乗っ取り事件の主犯エステルだったからだ。


※※※※※



「ソルビタン、何をぶつぶつ言っているの?もうじき学園に到着するわよ。ちゃんと原稿は確認したの?」


「ああ。マーラー。大丈夫だよ。しっかり読み込んだし、何よりもう5年目だからな。"しくじり先生"も。」


そう、私は今"しくじり先生"と呼ばれている。

最初に言い出したのは一番最初の婚約者、現セスキオレイン侯爵のクリスティーネ様だ。

お互い別の相手と婚姻、子を設けた後クリスティーネ様から

「私たちの悔恨が次代に引き継がれる事は本望ではありませんから」

というありがたいお言葉のもと、家族ぐるみでの交流が始まったのだ。



もうあの出来事から20年以上経ってしまった。当時幼かったマーラーと前子爵の間の息子、セトニードも成人し、予定通り家督を譲った。

子爵家を傾かせる事なく、ほんの少しだが領内の景気も上向きになった。だから無事に家督を譲った後は気ままに旅にでも出るかな、と思っていたのだが。大幅に予定が狂っている。それは…


※※※※※



"いばりんぼうの家付き娘"

妻、マーラーは陰でこう呼ばれていた。だが実際はただただ情の深い、そして懐の深い人物であった。

あんな大問題を起こした私を婿に取ってくれたが、口先では


「私はいばりんぼうの家付き娘で前夫をいびり殺したと言われているの。そのせいで息子が家督を継ぐまでの繋ぎが必要なのにみつからないのよ。

…貴方、あれだけやらかしたらもう婚家に逆らう気力なんてないでしょ?平民になる覚悟があるなら我が家で馬車馬のように働きなさい。そのかわり子爵にしてあげる。」


と、実にいばりんぼうらしい偉そうな口調で婿入りの提案をしてきたのだが。

実のところ、前の夫である幼馴染は病弱だった。昔から本人たちは仲睦まじかったし、お互いに添い遂げるならこの人しかいないと思っていたそうだ。

だから両家の親も前子爵の健康面で懸念はあったものの、2人の思いを汲み取り婚姻を許したのだ。

当然、好意的な者ばかりではない。ここぞとばかりに口出しをしてくる親戚も当然いた。だから病弱をカムフラージュするために、何でもかんでも子爵夫人がしゃしゃり出て子爵のお尻を叩く姿を見せるようにしたのだ。病気のことを悟られ侮られないように。

幸いにも子爵は体こそ弱かったが統治能力は高く、子爵領はすこぶる安定していた。だから事情を知らない人々は顔色の悪い子爵を見ても"いばりんぼうの家付き娘の尻に敷かれて可哀想に"と思っていたのだ。


そんな事情で病弱で長くは共にいられないと覚悟していた2人だったが、子供にも恵まれ短いながらも幸せな時間を過ごしたという。

要するに、いばりんぼうマーラーは巷の噂とは違い真っ当な愛に溢れる家庭を築いていたのである。そしてまた愛情を持って両親に育てられた嫡男のセトニードもまたきちんと真っ当に育った。中継ぎだからと私のことを侮ることもなく、真摯に教えを乞うことのできる良い子だ。


マーラーはマーラーで、あれほど前子爵を愛していたが、

「あの人がね、"自分のこと忘れたら化けて出てやる!"って言ってたの。けどね"もしもう1人愛する人を見つけてからこっちに来たとしても、その人と2人で君のことを愛してあげるから。だから僕がいなくても愛が溢れる生活を送ってほしい"って」

という遺言を守るべく、私にもちゃんと向き合ってくれた。おかげでこんな私でも愛のある温かい家庭を築くことが出来たのだ。

そして私もまた燃えるような激しいものではないが、彼女と向き合い愛のある家庭の一員として過ごすことが出来た。


その後娘と息子が続けて産まれ、セトニードと3人、あちらに行っても前子爵に胸を張って報告できるくらい立派に育て上げた。

成人したセトニードに家督を譲り肩の荷が降りた私は、婚姻当初の心づもりのまま一人旅に出ようかと思っていたのだったが、その予定はあっさりと壊されてしまった。


「1人ですって!20年も添い遂げた私を置いてくなんて!お仕置きが必要かしら!」


と、久々にいばりんぼうマーラーが出現して慌てたものだ。

結局ひとり旅はふたり旅となり、夫婦水いらずの1年を過ごすことができた。

そしてその旅から戻った私に、とんでもない依頼が来たのだった。


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