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【一般】現代恋愛短編集 パート2

墓参りしていたら亡くなった家族の声が聞こえて来て、クラスメイトの女子とくっつけようとしてくるんだけど!

作者: マノイ

「今年も暑いなぁ、汗だくだくだよ」


 まるでサウナに入っているかのように蒸し暑く、油断しているとすぐにでもぶっ倒れてしまいそうだ。もちろん帽子や水分塩飴などの熱中症対策はしっかりしてあるが、辛いことには変わりはない。


「今日は曇りだったんじゃなかったのかよ~」


 だから予定を今日にしたのに、天気予報が外れて太陽が顔を出してしまっている。とはいえ明日以降も晴天予報となっているため予定をズラすことも出来そうにない。


 恐らく同じ考えだった人が他にも多いのだろう。周囲を見渡すと人が結構多い。

 お盆期間中、唯一の曇りの可能性があるとされていた日なのだから当然かもしれない。


「お墓参りは熱中症の危険が高いらしいし、念のため気を配っておこうかな」


 家族で来ている人がほとんどではあるが、中にはお爺ちゃんお婆ちゃんも混じっている。

 他の誰かが見てくれているかもしれないが、俺が追加で心配しても損にはならないだろう。


 そんなことを考えながら歩いていたら、目的のお墓に到着した。


「おいおい、雑草が暑さで枯れそうになってるとかやばすぎだろ」


 先祖代々のお墓は軽石で敷き詰められた土の部分があるため雑草が生える。夏になるとそれがかなり凄いことになっているのだが、今年はその雑草が少なめに見えた。


 とはいえ大変なことには変わりない。


「うし、やるぞ」


 雑草を抜き、古いミニ塔婆を捨て、お墓全体を水拭きし、造花を入れ替え、線香をあげる。


 やることが多くて大変なので気合を入れてから作業に取り掛かろうとした。


 その時。


道長(みちなが)君?」

榑沢(くれさわ)さん?」


 声をかけられたので振り返ったら、クラスメイトの榑沢さんが立っていた。


 大きな麦わら帽子を被っていて裾が長い白いワンピースを着た彼女は、まるでどこぞのお嬢様かといった清楚な感じがする。可愛い系であり男子からも人気がある彼女の素敵な私服姿を見れただなんて、このクソ暑い中でお墓参りに来たかいがあったと言うものだ。


可憐(かれん)、学校の知り合いなのか?」


 そう彼女に問いかけたのは、父親らしき人物。

 どうやら彼女は家族でお墓参りに来ているらしく、ご両親が傍に居た。


「あ、うん、クラスメイトの道長君」

「はじめまして。道長です。榑沢さんのクラスメイトです」


 キランと父親の瞳が怪しく光ったのを俺は見逃さなかったぞ。

 年頃の娘の同級生男子。

 色々と勘ぐってしまうのは仕方ないことだろう。


「あなた」

「あ、ああ。父さん達は先に行ってるぞ」

「うん」


 だがその父親は母親に促されて行ってしまった。


「道長君、一人なの?」

「いつも叔父さんと一緒に来るんだけど、今年は叔父さん風邪ひいちゃってさ。だから一人で来たんだ」

「叔父さん?」

「うん。俺の家族はあの中(・・・)だから」

「!?」


 お墓に軽く視線を向けながらそう告げたことに対し、榑沢さんが凄い驚いている。

 もしかして知らなかったのか。


「ご、ごめんなさい!知らなかったとはいえ……」

「大丈夫大丈夫。気にしてないから。そもそも家族が亡くなったのは俺が五歳の時だし」

「そう、なんだ」

「今はとても幸せだから、そんな悲しそうな顔しないで。困っちゃう」

「……うん、そうだね。道長君はいつも楽しそうにしてるもん」


 ふぅ良かった。

 辛気臭いのは苦手なんだよ。


「でも俺のことを知らないだなんて、もしかして榑沢さんってこの辺り出身じゃないの?」

「この辺りで生まれたけれど、中学まではお父さんの仕事の都合で別の県で暮らしてたの。でもどうしてそんなことを聞くの?」

「俺って小さい頃に交通事故に巻き込まれて、俺以外の家族が死んでしまったんだ。そのことがニュースでも取り上げられて、可哀想だってことでこの街ではかなりの有名人になっちゃったんだ」

「そんなことがあったんだ……」

「おっと悲しむのは禁止ね。街の人が超優しいし、叔父さんも超優しいし、街ごと家族みたいに感じて育ったからありがたいことに本当に幸せに過ごせてるんだ」


 そりゃあ小さい頃は家族がいないことを寂しく思ったこともある。

 でもそれを軽々乗り越えられるくらいに多くの人から大量の愛情を注いでもらった。


 だから俺は笑って生きていられるんだ。


「分かった。もう絶対に悲しまない。道長君に失礼だもんね」

「あはは、榑沢さんって良い人だね」

「そうかな?普通じゃない?」


 クラスでも性格が良い人だって評判だった。

 俺の気持ちをしっかりと汲み取って望み通りにしてくれるだなんて、やっぱり評判通りの人だったんだな。


「あれ、待って。でもそれじゃあ道長君、このお墓を一人でお掃除するの?」

「叔父さんが来れないから仕方ないよ」

「こんなに暑いのに大変でしょ。手伝おうか?」

「流石にそれは申し訳ないって」

「気にしないで、私が手伝いたいだけだから」

「やっぱり良い人じゃないか」

「そうかな?普通じゃない?なんちゃって」


 あははと笑う榑沢さんの様子に胸が少し高鳴ってしまったのは、熱中症の兆しという訳では無いだろう。


 でもここでその善意に甘えてはいけない。


「やっぱりお断りします」

「どうして?」

「榑沢さんは自分の御先祖様のお墓を掃除しなきゃ。ご先祖様はそれを毎年待ってるはずだよ」

「あ」


 優しい榑沢さんの御先祖様なら許してくれるかもしれないけれど、同時に寂しくも思ってしまうだろう。一年に数回しかないお墓参りの機会なんだ、家族の時間を蔑ろにさせたくはなかった。


「…………うん、そうだね」


 榑沢さんは少し悩んで、俺から離れる。

 正直なところ、炎天下の元での作業が辛いので人手が喉から手が出るほど欲しかったのだが、その気持ちはぐっと堪えた。


 そんな俺の気持ちが見透かされていたのだろうか。


「それなら自分のお墓参りが終わったら手伝いに来るね!」

「え?」


 その言葉に俺が答える間もなく、彼女は俺の前から小走りで去って行った。




「おまたせー!」

「本当に来たんだ」

「当然でしょ!」


 草むしりをしていたら笑顔の榑沢さんがやってきた。

 しかも援軍はそれだけではなかった。


「娘から話を聞いたよ。俺達も手伝いたいんだけど、良いかな」

「是非手伝わせて頂戴」


 彼女のご両親も手伝いを申し出てくれたんだ。


 なるほど。

 間違いなく榑沢さん一家はこの街の住人だ。

 皆のように温かい。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 こういう申し出は断らないようにしている。

 それが生きる術だったってのもあるけれど、断るよりも受け取った方が相手が喜んでくれるから。


「よぉ~し、頑張るぞ」

「ちょちょっ、その格好で草むしりするの!?汚れちゃうよ!」


 綺麗な白いワンピース姿の彼女が、座って草を抜こうとしたではないか。

 その服を土で汚すなんて許されざる行為だ。


「気にしない気にしない。服なんて洗えば綺麗になるし、そもそも私はこんな格好でお墓参りに来るつもりなかったんだもん」

「え?そうなの?」

「光を吸収しない白い服にしろとか、ご先祖様に成長した姿を見せて喜んでもらうために綺麗な服を着て行きなさいとか、紫外線で肌が焼けないように露出が少ない服装にしなさいとか、お父さんとお母さんに言われて無理矢理着せられたの……」


 お墓を水拭きしてくれているご両親の方をチラっと見たら目を逸らされた。

 娘の可愛い姿を見るために方便を使ったな。


 ありがとうございます。

 おかげで良い物見れました。


「だからそんなあざとい麦わら帽子被ってるんだね」

「あざといって言わないでよ。恥ずかしいんだから」

「あれ、大丈夫?顔が赤いよ?熱中症?」

「道長君って結構いじわる!」


 なんて抗議されたけれど笑ってくれているから好感度が下がったなんてことはないだろう。

 むしろ心の壁が薄くなり、無関係なクラスメイトから仲の良いクラスメイトにグレードアップしそうな雰囲気だ。


 楽しく会話できそうな榑沢さんが彼女だったら嬉しいんだけどな。


 あの、榑沢さんのお父さん。何かを察して俺の方を睨まないで貰えませんか。

 ほら手が止まってるからお母さんに小突かれちゃった。


 そんなこんなで三人が手伝ってくれたおかげでお墓掃除はかなり短時間で終わった。

 感謝感謝だ。


「重ね重ねありがとうございました」

「なぁに、気にしなくて良い」

「そうよ。困った時はお互い様でしょ」


 その理屈だと、榑沢家が困っている時に俺が助けに行かなきゃならないってことかな。

 頑張るぞ、なんてね。


「それでお線香ですが、先にあげてもらえないでしょうか」

「どうして?」


 榑沢さんが不思議そうに尋ねてくる。

 家族の俺が先にあげるのが普通だと思っているのだろうが、こればかりは仕方ない。


「俺って毎年、家族への報告にすごい時間をかけるんです。だから俺が先にあげると相当待たせてしまうので」


 その長さは一分や二分程度ではない。

 十分やニ十分は普通にかかるのだ。


 だったら先に線香をあげてもらって、その後に俺が線香をあげて家族と対話している間に帰ってもらうのが良いだろう。だから帰れるように先に感謝の〆の言葉を改めて伝えたのだ。


「分かったけれど、熱中症には気を付けるんだよ」

「ご家族の前で倒れたら元も子もないからね」


 心配してくれる気持ちがとてもありがたい。


「ありがとうございます。気をつけます。途中で水分補給や休憩を挟む予定ですので大丈夫です」


 それならばと榑沢さんのご両親は先に線香をあげることを認めてくれたようだ。


 ご両親、榑沢さんと順番に線香をあげて、俺の番になる。


 線香をあげて、両手を合わせて目を瞑る。


 父さん、母さん、多磨姉(たまねぇ)、爺ちゃん、婆ちゃん、今日も俺は元気に楽しく生きてるよ。

 街の人は相変わらず優しいし、将司(まさし)叔父さんもこっちが心配するくらい過保護で困っちゃうくらいだ。そうそう、その将司叔父さんなんだけど悪い夏風邪ひいちゃって、俺に絶対にうつさないためにだなんて言ってビジネスホテルに泊まろうとしたんだよ。絶対にやりすぎだよね。


 最近の事から始めて、前回お墓参りに来てから今まであったことをゆっくりと報告する。


 話は続き、やがて榑沢さんの話になった。


 さっきお墓掃除を手伝ってくれたのはクラスメイトの榑沢さん。彼女とここで出会ったのはびっくりだったけど、ご両親と一緒に掃除を手伝ってくれるなんて更にびっくりだったよ。皆も感謝してあげてね。


『してるしてる』


 あれ、今、俺の脳内の報告に対して答えるような声が聞こえて来たような。

 気のせいだよな。


真人(まさと)、すぐに彼女に告るんだ』

『絶対逃しちゃダメよ!』

『お姉ちゃん的に、成功する可能性は高いと思うわよ』


 は?


 え、ちょっと待って。

 真人って俺の名前なんだけど、まさか本当に誰かが話しかけてきてる!?


 俺は慌てて目を開けて周囲を確認した。


 すると隣に榑沢さんが立っていた。


「あれ!?榑沢さんどうしてそこにいるの!?帰ったんじゃなかったの!?」

「やっぱり心配で帰れなかったの。お父さんとお母さんは日陰で休憩中」


 俺が熱中症で倒れないように気になって帰れないとか、優しすぎるでしょ!

 

 いや今はその話じゃない。


「あの、さっき俺に何か話しかけた?」

「ううん。何も言ってないよ」

「じゃあ他に俺に話かける声とか聞こえなかった?」

「ううん。何も聞こえなかったよ」


 彼女は俺の質問の意味が分からないという感じで可愛らしく首をかしげた。

 嘘をついている様子は全く無い。


 彼女が俺の家族の声真似したのではとも考えたが、流石にあの父親らしき男声は出せないだろう。


 じゃあなんだ。

 まさか……まさか本当に家族が俺に話しかけてきているのか!?


 心臓がバクバクする。

 だって亡くなった家族と会話できるかもしれないんだぞ。


 幽霊?

 超常現象?


 恐れと、期待と、不安と、喜びと、困惑と、様々な感情が入り乱れてどうにかなってしまいそうだ。


「大丈夫?顔色悪いよ?」

「あ、うん。水飲むわ」


 水を飲み、塩飴を口にして気持ちを落ち着かせる。

 もしかしたら熱中症になりかけていて幻聴が聞こえているだけかもしれないからな。


 しばらく休憩して気持ちが落ち着いて来たので、再度トライだ。


 線香を追加であげて、両手を合わせて目を閉じる。


『いけー!告れー!』

『彼女は絶対に良いお嫁さんになるわ!何が何でも捕まえなさい!』

『お姉ちゃん知ってるわ。彼女は真人の好みでしょ』

『ひ孫が出来るのも時間の問題かのう』

『あらまぁ、気が早すぎるわよお爺さん』


 なんか増えてるー!

 というか榑沢さんに告れとかそんな話しかしないのなんで!?


 せっかくお話し出来るなら、もっと話すことあるでしょ!


『だって俺達、ずっと真人のこと見てたから全部知ってるし』

『真人が幸せに生きているって分かってるわ』

『でも真人、お姉ちゃん思うの。少しオ〇ニーしすぎだって』

『そうか?ワシが真人くらいの年のころはあんなもんだったぞ』

『お爺さん、ちゃんと私を使ってくれてたんでしょうね』


 待て待て待て待て!

 お母さんの台詞で感動しそうだったのに、姉ちゃんの台詞から変な方向に向かってるぞ!


 というかマジでそんなとこまで見られてたの!?

 恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうなんだが!


『お、榑沢さんだ!』

『真人をよろしくお願いします』

『少しえっちいけど、凄い優しい子なの。お姉ちゃんが保証するわ』

「え!?」


 隣から驚きの声が聞こえて来たので慌ててそちらを確認すると、両手を合わせた榑沢さんが驚愕で眼を見開いていた。


「み、みみ、道長君、い、いい、今のって!」


 待っているのが退屈だった彼女がなんとなく再び手を合わせてみたら繋がって(・・・・)しまったのかもしれない。幽霊に話しかけられたのかと思って顔が青ざめている。


「落ち着いて榑沢さん。俺も良く分かってないんだけど、落ち着いて」

「お、おお、落ち着いてなんていられないよ!だってこの辺りには誰もいないし、まさか、ゆ、ゆゆ、幽霊」

「かもね」

「どうしてそんなに落ち着いてるの!?もしかして今までもずっと幽霊とお話ししてたの!?」

「いや俺も今日初めてこんなことが起きて超困惑してる」


 榑沢さんの反応の方が正常なのだろう。

 俺が彼女ほどパニックになっていないのは、幽霊達の会話の内容がぶっ飛んでいて感情がそっちに引き摺られてしまっているからだ。


 マジで俺のあの行為が全部見られてたの?

 本気で凹むんだが。


「うう……困惑しているようには見えないんだけど……」

「もしかして榑沢さんって幽霊とか苦手?」

「普通の人は得意じゃないよ!?」


 そりゃそうか。

 幽霊ネタが好きな人でも、本当に会ったらビビるだろうしな。


「じゃあ俺はもう少し話をするから」

「ええ!?大丈夫なの!?」

「分からない。でもせっかく話せるならしときたいし」

「あ……」


 アレな内容しか話してくれないけれど、それでも俺にとっては貴重な機会だ。


「何があるか分からないし、榑沢さんはもう話さない方が良いよ」


 嘘です。

 本当は話の内容がアレなので付き合わせたくないだけです。


 さて、目を閉じて会話を再開するか。


『悲しいよ。俺の息子がこんなにもチキンに育ってしまったなんて』

『そうよ。そこは押し倒すくらいの甲斐性を見せなさいよ』


 何言ってんの!?

 ここお墓だぞ!?


『お墓プレイ。お姉ちゃんは良いと思うよ』


 姉ちゃんのそんな歪んだ性癖なんて知りたくなかった!

 というか亡くなった時、姉ちゃんまだ小学生だったのに、どうしてそんなに歪んでるんだよ!


『そりゃあこっちでも真人と同じだけの時間が経過してるからよ』


 だとしても歪み方がおかしい。

 お墓プレイとか罰当たりにも程があんだろ。


『榑沢さんは普通のプレイの方が嬉しいとワシは思うが』

『そうよね榑沢さん』


 ちょっと待って婆ちゃん。

 どうして榑沢さんがこの話を聞いているかのような問いかけをするのかな。


 慌てて再び目を開けて横をチラ見すると、榑沢さんが両手を合わせて目を閉じていた。

 忠告したのにどうして!


 しかも顔が真っ赤になっている。

 熱中症だよね!そうだよね!そうだと困るけどでもそうだと言って!


『榑沢さん、息子は本気で貴方の事を愛しているんだ』

『そうよ。それに真人は街の人に愛されているから、結婚してこの街に住んだら沢山フォローしてもらえるわよ』

『もちろん真人も本気でたっぷり愛してくれるってお姉ちゃん保証するわ』

『目指せ大家族、じゃな』

『あらまぁ、気が早すぎるわよお爺さん』


 うわああああ!

 ちょっと会話に参加して無かった間に、家族が余計なこと榑沢さんに吹き込んでるうううう!


 違う!違うんだ榑沢さん!全部家族の悪ふざけなんだ!

 チクショウ!俺の心の声は彼女に聞こえないのか!


『そんなに恥ずかしがることはないさ。俺達は君の気持ちを知っているからな』

『そうよ。真人のことが嫌だったらこんなこと言ってないわ』

『榑沢さんがいつも教室で真人のことを眼で追ってるの、お姉ちゃん知ってる』


 え、あれ、それって?


『真人の屈託のない笑顔に惚れたんじゃろうなぁ』

『きっかけは確か同じクラスになって……』

「わーーーー!わーーーー!聞いちゃダメーーーー!」

「ぐぇ!」


 榑沢さんが突然俺の両耳を塞いで顔を前後に揺らし始めた。

 脳が……脳が揺れる……


「忘れて!今のは全部忘れて!」


 それを言うなら、僕だって忘れて欲しいんだけど。


「それと道長君はしばらく家族との会話禁止!」

「ええ……」

「私が目を開けるまで絶対に入って来ないこと!」

「わ、分かったよ」


 そういって顔を超真っ赤にさせた榑沢さんが、また俺の家族と会話し始めた。

 怖いんじゃなかったのか?


 いや会話の内容的にそれどころじゃないか。

 俺もそうだったし。


 でも気になる。

 すごく気になる。


 だって家族の話が正しいとするならば榑沢さんは俺のことを……


 こっそり聞いちゃおうかな。

 だって榑沢さん、目を閉じてるからバレないし。


 いやあの家族の事だ。

 絶対にバラすに違いない。


 ここはぐっと堪えよう。


 しかし榑沢さんの顔の赤さがひかないな。

 きっとセクハラされまくってるんだろうな。

 俺の家族がごめんなさい。


 やがて榑沢さんはゆっくりと眼を開けて、俺の方を向いた。


「あ、あの、道長君」

「は、はい!」


 おかしいな。

 ここってお墓だったよな。


 どうしてこんなピンク色の空気が流れているのだろうか。


「私達ってクラスメイトだけど、まだ全然お話ししたこと無いよね」

「そ、そうだね」

「それなのに、その、いきなり付き合うっていうのは変かもって言うか、その……」

「榑沢さん?」

「…………まずはお友達からお願いします」

「…………喜んで」


 友達になったのは良いけれど、彼女の気持ちを察してしまっているからすげぇやりにくそうな気がする。


『付き合ったようなものだぞ!一気に攻め倒せ!』


 目を閉じてないのに父親の声が聞こえてくる気がするが、気のせいに違いない。


 いや、ある意味正しかった。


「か、可憐!?」


 確かに父親の声が聞こえて来たのだ。

 榑沢さんの父親だったけれど。


 顔を真っ赤にして友達宣言する彼女の様子は、傍から見ていると告白しているようにしか見えないだろう。そんな彼女の様子を娘を溺愛してそうな父親に見られてしまった。


 日陰で休憩していたご両親が一番最悪のタイミングで戻って来てしまったのだ。


「これはどういうことだい道長君!」

「あなた。こういう時は空気を読んで気付かないふりして静かに離れるものよ」

「出来るわけないだろう!さぁ帰るぞ可憐!」

「あ・な・た」

「ひい!だ、だが!」


 ほらぁ。

 大混乱になっちゃったじゃないか。


 全部俺の家族のせいだ。


「…………道長君。これからよろしくね」


 でも、もじもじと照れながらそう言ってくれる榑沢さんの姿が見れたのだから、少しばかり感謝しよう。




 その後、俺達はすぐに付き合うことになるのだが、可憐(・・)は頻繁に俺の家族のお墓に通い色々とアドバイスを貰っているようだ。そして俺は、全ての行動が見られていると知り、恥ずかしくて一人で性欲の発散が出来なくなってしまった。ならどうしているのか、なんてことは聞かないでほしい。あいつら可憐にナニをアドバイスしてるんだよありがとうございます!


あれ、エロ落ちにするつもりなかったんだけどどうしてこうなった。

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― 新着の感想 ―
そっちを見られている方が恥ずかしいようなw
エロ落ちは、姉がけっこうなブラコンだったせいなのでは?
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