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98話 黒き邪神の復活

――カイ視点


深い闇がまだ森を包み込んでいる夜明け前、カイは剣ルクスを腰に納めたまま、荒れた大地を見つめていた。先の神殿の試練を乗り越え、封印の泉を再び目覚めさせたはずのこの世界に、異様な空気が漂っている。瘴気の核を断ち切った後に訪れたはずの平穏は、まるで蜃気楼のように儚く消え去り、この瞬間、カイの胸には再び緊張が走っていた。左腕の傷は完全に癒えつつあるが、その傷跡の奥底で再び疼きを感じ、剣ルクスの蒼光はかすかに震えている。


「……封印の泉は再生したはずだが、瘴気の影が再び蠢いているようだ。あの黒い核が砕けた瞬間、何かが目覚めた――」


カイは深呼吸をして剣先から蒼光を放ち、周囲を慎重に見渡した。草叢にはかすかな黒い影が揺れ、夜露に濡れた草葉が白々と輝いている。その中に、今まさに復活しようとする何かの気配があった。カイは剣ルクスを引き抜き、闇の奥へと一歩踏み出した。足元には先ほどまで消え去ったはずの瘴気が再び黒い粒子となって漂い、蒼光に触れるたびに凍結しては粉々に砕け散る。


「奴らはまだ諦めていなかった……魔王アズラエルの力を生み出した邪神の残滓が、暗闇の中で復活しようとしているのか」


カイは剣先を揺らしながら木々の隙間を進み、その闇の奥から聞こえる遠鳴りにも似た低い振動を感じ取った。振動は次第に強まり、まるで大地そのものがうねり、呼吸をしているかのようだった。カイは剣ルクスを腰に納めかけたが、すぐにそれを引き抜き直し、揺らめく蒼光を最大限に高めた。その光が闇を裂くと同時に、黒い瘴気の渦が渾身の力で噴き上がり、巨大な影の塊として姿を現した。その姿はかつてアズラエルを創造した古代の邪神そのものであり、身体の一部が瘴気と闇で構成された異形の化身だった。


「……これが、黒き邪神か。魔王アズラエルの力を生み出した根源、その影が今もこの世界に牙を剥くとは」


カイは剣ルクスを高く掲げ、大地に輝く蒼光の柱を放った。黒き邪神は地面からその身を起こし、深い唸り声を上げた。その声はまるで世界を飲み込むような圧力を伴い、木々の枝を震わせ、草むらの瘴気を再び膨れ上がらせる。カイは剣先を大地に突き立て、深く息を吸い込んだ。


「俺は、ここで止まらない。聖女セレスティア様の祈りを胸に、仲間たちと共にこの邪神を打ち砕き、世界を再び解放する!」


■   ■   ■


リリアナ視点


夜闇が深い森の奥、リリアナは杖を胸に抱え、剣ルクスの蒼光と連動するかのように淡い蒼光を放っていた。先刻まで封印の泉を再生させるための祈りを捧げたはずの場所から、この闇の存在が再び立ち上っていることに、リリアナの胸は激しく締め付けられた。足元の石畳には先ほどまでなかった古代の文字が浮かび上がり、瘴気とともに揺れている。その文字は、黒き邪神の復活を告げる呪いの言葉だった。


「リリアナ様、来たのか?黒き邪神が復活した……」


カイの声を聞きつけたリリアナは浮き足立つ心を抑え、杖先の蒼光をさらに広げた。瘴気の粒子が凍結し、白い結晶となって砕け散るその光景は、一瞬だけ森全体を蒼白く染め上げた。そこへ、カイは剣ルクスを高く掲げた姿で現れた。カイの決意がそのまま蒼光となって彼女に届き、リリアナは杖を握る手に力を込めた。


「カイ様……私も、剣ルクスの蒼光と共に祈りの光を注ぎます。聖なる祈りで瘴気を封じ、仲間と共に闇を打ち砕きましょう」


リリアナは目を閉じ、深い祈りを捧げた。その祈りは細かい呪文となって杖を通じて蒼光を強め、瘴気の粒子を凍結させながら黒き邪神の足元へと向かっていく。静謐な森の中で流れる彼女の祈りは、まるで世界を清める慈愛の川のように響き渡った。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの祈りの光を後ろから支えつつ、マギーは巻物を小脇に抱えたまま駆け寄った。蒼光が暗闇を切り裂き、古代文字の呪いが浮かび上がる。その文字は、黒き邪神の復活とともに世界に再び瘴気を蔓延させるための契約を示しているかのようだった。マギーは巻物を広げ、新たに学んだ呪文を復唱しながら文字を解析した。


「瘴気の核に宿る邪神の契約書か……この呪文を解き明かして、再び瘴気の核を断ち切る呪文を完成させなければならない!」


マギーは巻物を胸に引き寄せ、杖先の蒼光を引き継ぐかのように手を伸ばした。すると巻物の文字がゆらゆらと揺れ、新たな呪文の詠唱を口ずさむように促してきた。その詠唱は、黒き邪神を再び封印するための特別な呪文であり、それを唱えるには仲間全員の魔力を一つに束ねる必要があった。マギーは深く息を整え、仲間たちへ向けて震える声で伝えた。


「カイ様、リリアナ様!黒き邪神を完全に封じるには、この呪文が必要です。みんなの力を一つにして唱えなければ、瘴気の核は再び復活してしまいます!」


マギーの言葉に、仲間たちは互いの顔を見つめ合い、深く頷いた。それはまさに、かつて聖女セレスティア様の遺言を胸に秘めた一瞬と同じ覚悟を示すものだった。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーとリリアナの報告を聞いたガロンは、剣ルクスを肩に担ぎ直しながら駆け寄った。剣先から迸る蒼光が闇を断ち切り、草むらや瓦礫の隙間に潜む瘴気の欠片を凍結させる。その光線が黒き邪神の足元に照らし出されると、瘴気の核はかすかに震え、黒い筋が爬虫類の鱗のように渦巻いて蠢いている。


「瘴気の核に宿る邪神……かつてアズラエルを創り出した古代の存在。奴が復活しようとしているのか……」


ガロンは剣ルクスを引き抜き、蒼光を極限まで高めた。剣先にはアリウスの魂が揺らめき、瘴気の根源を断ち切るための力が宿っている。その刹那、黒き邪神は呻き声を上げ、強大な瘴気の衝撃波を放った。ガロンは剣ルクスを振るい、その衝撃波を断ち切りながら前進した。


「俺は剣士として、仲間と共に闇を断ち切る!この剣で、お前を二度と目覚めさせない!」


ガロンの叫びと共に、蒼光の刃は闇の塊に叩き込まれ、眩い閃光が炸裂した。瘴気の核は呻き声をあげながら白い結晶となって砕け散ろうとしたが、黒き邪神はその欠片を再び吸い込み、より大きな瘴気の塊として再構築しようとする。ガロンは膝をつきそうになりながらも剣を振り続け、仲間たちと共に戦いの意志を交錯させた。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの猛攻に続き、ジークは短弓を肩に掛け直し、木漏れ日の中を駆け抜けた。草むらに潜む瘴気の残滓は再び黒い雲となって渦巻き、ジークの腕に絡みつこうとするが、ジークは矢を番え、引き絞った弓を放った。矢先には瘴気を貫く白い結晶が宿り、黒き瘴気の欠片を粉々に砕いた。


「兄貴、マギー様、リリアナ様……みんなを守るために、俺はこの矢を尽くす!」


ジークは再び矢を番え、瘴気の核を狙い撃つ。矢は瘴気を貫き、黒い欠片を凍結させ、白い結晶となって砕け散った。その衝撃で黒き邪神の姿が揺らぎ、かすかな呻き声が遠のいたかに思えた。ジークは拳を握りしめ、仲間たちと共に再度矢を番え直した。


■   ■   ■


セレスティア視点


跪くカイを見守りつつ、セレスティアは杖を胸に抱えて静かに祈りを捧げた。かつて世界を浄化した聖女としての最後の力を振り絞り、瘴気の核を完全に封じるための祈りを空気に紡ぐ。杖先から放たれる淡い蒼光は、光の柱となって瘴気の核へと向かい、その闇を凍結させる。しかし、黒き邪神は瘴気の奥深くに隠れて抵抗し、再び瘴気を再構築しようとする力を放つ。セレスティアは目を閉じ、深い慈愛の言葉を心の中で紡いだ。


「愛と慈悲の光よ、この邪神の根源を永遠に封じ給え。聖なる祈りの光で瘴気を払い、世界を偽りなき光で満たし給え」


祈りの光が杖から放たれると、瘴気が一瞬硬直し、黒き邪神の体が白い結晶のように砕け散る。しかし、その瞬間、黒き邪神はさらに大きな瘴気の塊となって再構築しようとした。セレスティアはその姿に涙をにじませながらも、祈りを止めずに力を込め続けた。


■   ■   ■


ルレナ視点


剣を胸に抱えたまま、ルレナは仲間たちと共に黒き邪神の前へと歩を進めた。蒼光と祈りの光が交錯する中、瘴気の核はまるで生き物のようにうねり、再び身体を構築しようとしている。ルレナは剣先に宿る蒼光を高め、瘴気の残滓を断ち切るように踏み出した。


「私も戦う……仲間と共にこの邪神を倒し、世界に再び光をもたらす!」


ルレナの一歩は揺るぎなく、剣先から蒼光が放たれる。その蒼光は瘴気の核を切り裂き、白い結晶の欠片が舞い上がる。ルレナは深呼吸をし、剣を強く握りしめたまま仲間たちの背中を見つめた。


■   ■   ■


――カイ視点クライマックス


仲間たちの祈り、呪文、剣戟、矢が一体となり、神殿跡地の闇を完全に打ち払おうとしている。その中心で、黒き邪神の瘴気の核は最後の抗いを見せようと、巨大な瘴気の塊を再生させようとしていた。しかし、剣ルクスの蒼光と仲間たちの祈りの光が闇を裂き、カイは剣ルクスを高く掲げたまま叫んだ。


「ルクスよ、アリウスの魂と共に――世界を縛る邪神の闇を断ち切れ!」


その叫びとともに、剣ルクスから迸る蒼光は瘴気の核を貫き、大地を震わせるほどの眩い閃光が炸裂した。黒き瘴気の核は呻き声をあげながら崩れ去り、白い結晶となって砕け散り、世界は一瞬にして再び平穏を取り戻した。カイは剣ルクスを握りしめたまま力尽き、膝をついたが、その目には勝利の光と仲間たちへの深い感謝が宿っている。


草木には新たな緑が芽吹き、小鳥のさえずりが再び森に響き渡った。仲間たちは駆け寄り、傷ついた身体を支え合いながら深い安堵の息をついた。リリアナは杖を胸に抱え、涙を浮かべながらほほ笑み、マギーは巻物を鞄に仕舞いながら静かに頷いた。ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、剣先を揺らしながら新たな世界を見据えている。ジークは矢を背負い直し、静かに頷き、セレスティアは杖先から放たれる祈りの光を天へ解き放ち、ルレナは剣を胸に抱えたまま涙を拭った。


「黒き邪神の復活は阻止された。世界は再び光を取り戻し、草木は芽吹き、小鳥の歌が響いている」


カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷いた。その背中には仲間と共に戦い抜いた誇りと、新たに築く希望が力強く宿っている。彼らの旅はまだ続くが、その先にはさらに深い真実と光に満ちた未来が待ち受けている――。


98話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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