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97話 神殿の試練

――カイ視点


うっすらと霧が立ちこめる神殿の入り口前で、カイは剣ルクスを腰に納めたまま立ち尽くしていた。扉は崩れ落ち、石の階段だけがかろうじて往時の栄華を偲ばせる。刻まれた古代文字はかすれ、瘴気の残響を封じた痕跡がかすかに瓦礫に残っている。左腕の痛みはすでに癒えつつあるが、その傷跡が今でも時折疼き、剣ルクスの蒼光が揺れるとき、アリウスの魂が囁きかけるような声が聞こえてくる。カイは息を吐き、静かに目を閉じた。


「ここからが、本当の試練かもしれない……聖女セレスティア様の想いを胸に、仲間と共に乗り越えなければ」


カイは剣先から蒼光をわずかに放ち、周囲を照らし出した。そこには細長い石柱が並び、廃墟の奥へと続く通路が見えた。草木に覆われた足元には黒い瘴気の欠片がわずかに残り、森の奥で見たものよりも濃度は低いものの、依然として異様な気配を漂わせている。カイは剣ルクスを握りしめ、剣先を地面に軽く突き立てた。


「まずは、神殿内部の魔力反応を探らなければ……祭壇の間に至るまで、多くの罠と幻影が待ち受けているはずだ」


その刹那、階段の上方からわずかに地鳴りのような音が響き、石壁がかすかに震えた。カイは剣ルクスを構え直し、慎重に一歩を踏み出した。階段を下りるたびに足元からは微かなひんやりとした冷気が立ち上り、剣先の蒼光が揺れると、遠くから不気味な呻き声にも似た響きが微かに聞こえてきた。


「よし……仲間は近くにいるはずだ。リリアナ、マギー、ガロン、ジーク、セレスティア、ルレナ、みんなの力を合わせて、この神殿の試練を乗り越えるんだ」


■   ■   ■


リリアナ視点


カイから距離を取り、リリアナは杖を胸に抱えたまま神殿内部へと踏み込んだ。壁には苔と蔦が絡まり、その合間から古代文字がかすかに見え隠れしている。杖先から放たれる蒼光が廃墟の奥を照らし、石畳に残る黒い瘴気の欠片を凍結させている。リリアナの左腕の傷は完全には癒えていないが、聖女としての祈りの力が杖を通じて剣ルクスの蒼光と共鳴し、仲間たちを支えている。


「ここが、神殿の試練の入り口……封印の泉へ続く道と、呪術を掛けられた幻影が待ち受けているはず。私の祈りが続く限り、瘴気は浄化される」


リリアナは杖を振り下ろし、詠唱を紡ぎ始めた。蒼光の結界が周囲を包み込み、瘴気の欠片を凍結しながら薄氷のように白い結晶へと変えていく。壁に刻まれた古代の文様がゆらゆらと揺れる中、リリアナは視線を前方の通路へと向け、深く息を整えた。


「マギーとガロンたちは大丈夫かしら……この試練を乗り越えれば、封印の泉へたどり着けるはず。みんな、きっと無事でいて……」


杖先の蒼光が揺れ、廃墟の奥からかすかな囁きにも似た声が聞こえてきた。リリアナは目を閉じ、深く祈りを捧げる。心の中に流れるセレスティアの遺言が、杖を通じて彼女の全身に力を与えている。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの祈りの光を背にしながら、マギーは巻物を抱えたまま石柱の隙間を通り抜けた。地面には古代文字が描かれた円形の紋様がほのかに浮かび上がっており、その中心には黒い瘴気の核が小さくうごめいている。剣ルクスの蒼光が揺らめき、瘴気の核は一瞬凍結したかに見えたが、すぐに力を取り戻し、より強く膨張しようとする。


「この瘴気の核は封印されたはず……しかし、再生の兆しがあるということは、それを抑え込む新たな呪文が必要になる」


マギーは巻物を開き、呪文を解読しながら視線を文字に走らせた。そこには、瘴気の核を完全に断ち切り、封印の泉へと導くための古代呪文が記されている。だが、その呪文を唱えるには強大な魔力と、仲間全員の力を合わせる必要があった。マギーは深く息を吸い込み、剣ルクスの蒼光を引き継ぐように手を伸ばし、仲間たちへ向けて震える声で伝えた。


「リリアナ様、剣ルクスを通じて私たちの力を融合させる呪文を唱えます。瘴気の核を断ち切り、封印の泉へと繋げるには、全員の力が必要です!」


マギーの青い瞳は真剣そのもので、気迫が漲っている。剣ルクスから蒼光が滲み出し、古代文字の紋様をかすかに浮かび上がらせていた。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーの声を聞きつけ、ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直しながら駆け寄った。剣先から蒼光が迸り、瘴気の核を取り囲むように光の壁が形成される。ガロンは膝を屈めて剣を構え、剣ルクスの赫い紋様を見つめた。


「瘴気の核を断ち切るための儀式か……仲間の力を結集する必要があるということだな」


ガロンは剣ルクスを引き抜き、力強く刀を掲げた。その姿はまるで夜明けの戦士のようであり、背中には一族の誇りと、仲間を守るための覚悟が刻まれている。


「俺は剣を振るう。魔力の流れを形にするために、ルクスを操るんだ。マギー、リリアナ、みんなの力をこの剣に――」


ガロンの言葉が途切れた瞬間、剣ルクスは強烈な蒼光を放ち、瘴気の核を包み込むように光を迸らせた。黒い瘴気はまるで生き物のように蠢き、凍結したかに見えたが、再生を試みて毒々しい影となってガロンの眼前へと迫る。ガロンは膝を折りそうになりながらも、剣を強く握りしめ、蒼光をさらに高める。


「ここで引くわけにはいかねェ……仲間と共に、瘴気を祈りの光で浄化する!」


ガロンの一喝が剣ルクスを伝い、蒼光が瘴気の核に触れると、黒い影は白い結晶となって砕け散り始めた。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの蒼光と同時に、ジークは短弓を構えて走り寄った。剣ルクスが瘴気の核を抑え込む隙に、ジークは矢を番え、狙いを定める。黒い結晶の欠片が白い霜のように散らばる中、ジークの矢は呪文の力を帯びて飛翔し、瘴気の再生を試みる小さな塊を貫き、白い結晶へと変えた。


「兄貴を始め、みんなを守るために、この矢は最後まで飛び続ける!」


ジークの叫びは厳かで、その矢が放たれた瞬間、封印の泉の力を呼び覚ます風が森の奥から吹き上がった。黒い瘴気の核は一瞬にして揺らぎ、瘴気魔獣の亡霊が再び形を成そうとしたが、蒼光の結界と祈りの光に阻まれて崩れ落ちた。ジークは膝をつきながら矢を番え直し、疲労で震える手を押さえつつ仲間たちに視線を向けた。


■   ■   ■


セレスティア視点


ガロンとジークの力が瘴気の核を断ち切る中、セレスティアは杖を胸に抱え、一歩前へ進んだ。杖先から放たれる淡い祈りの光が、封印の泉を呼び覚ますように空気を震わせる。剣ルクスの蒼光と祈りの光が共鳴し、古代文字の紋様を包む気配が強まり、石板の刻印がわずかに浮かび上がった。


「愛と慈悲の光よ、聖なる泉を呼び醒まし、瘴気の核を永遠に封じ給え」


セレスティアの声はかすれながらも強く響き、杖先から放たれる祈りの光が瘴気の核に触れると、一瞬凍結したかのように黒い影が静止した。その直後、瘴気の核はゆっくりと白い結晶へ変わり、光の波紋が神殿跡地全体に広がった。


■   ■   ■


ルレナ視点


剣を胸に抱えたまま、ルレナは仲間たちの背中を見つめながら静かに歩を進めた。霧の中に見える剣ルクスの蒼光と祈りの光が交錯し、封印の泉への道を照らしている。ルレナは深く息を吸い込み、剣先から蒼光の祈りを放つかのように剣を揺らし、瘴気の残滓を断ち切ろうとした。


「みんなの祈りと剣戟が、神殿を浄化し、嵐のような試練を乗り越えてきた。この一歩を踏み出すために――私はここにいる」


ルレナの祈りの光が瘴気の核へ向かって放たれると、黒い影は一瞬凍結し、白い結晶として砕け散った。草木の隙間からは新たな芽が顔を出し、風が軽やかに吹き抜けていった。


■   ■   ■


――カイ視点


仲間たちの祈り、呪文、剣戟、矢が一つとなり、神殿の試練は最高潮を迎えた。瘴気の核は白い結晶となって大地に砕け散り、その欠片は封印の泉へと向かってゆっくりと沈んでいく。カイは剣ルクスを高く掲げ、蒼光を極限まで高めて最後の一撃を放った。


「これで……試練は終わった。聖女セレスティア様の遺言を果たし、封印の泉を再び目覚めさせる!」


蒼光の刃先が光の柱となって神殿内部を貫き、封印の泉からは白い光が溢れ出した。その光はゆっくりと廃墟の影を洗い流し、草木は一斉に芽吹き、小鳥のさえずりが再び森に響き渡った。カイは剣ルクスを握りしめたまま力尽きるように膝をついたが、その瞳には勝利の光と仲間たちへの深い感謝が宿っている。


仲間たちは駆け寄り、傷ついた身体を支え合いながら深い安堵の息をついた。リリアナは杖を胸に抱え、涙を浮かべながらほほ笑み、マギーは巻物を鞄に仕舞いながら静かに頷いた。ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、剣先を揺らしながら新たな未来を見据えている。ジークは矢を背負い直し、静かに頷き、セレスティアは杖先から放たれる祈りの光を天へ解き放ち、ルレナは剣を胸に抱えたまま涙を拭った。


「神殿の試練を乗り越えた。封印の泉は再び目覚め、瘴気の核は完全に断ち切られた。俺たちは、世界に新たな光をもたらしたんだ」


カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷いた。その背中には仲間と共に戦い抜いた誇りと、新たに築く希望が力強く宿っている。彼らの旅はまだ続くが、その先にはさらに深い真実と光に満ちた未来が待ち受けている――。


97話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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