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96話 古代神殿への道

――カイ視点


雲間から差し込む朝陽が薄紅色に森を照らし始めた頃、カイは剣ルクスを腰に納めたまま、深い森の奥へと足を踏み入れていた。先の戦いで黒い瘴気の残響を打ち消したはずの大地だが、森の空気はまだ少し冷たく、草木の葉先にはわずかに滴が光っている。封印の泉から流れ出した清浄な水は、この先にあるとされる古代神殿への導きの一部だと信じている。左腕の傷はほぼ癒え、ルクスの蒼光は安定しているが、その刃先が時折かすかに震えるのをカイは感じていた。まるで、未だ語られぬ試練を予感しているかのように。


「ここが……封印石を再生した聖女の祈りによって示された、古代神殿への道か」


カイは深呼吸をしてから、草むらをかき分けて進んでいった。足元には小さな花々が咲き、蜘蛛の巣に朝露が揺れている。だがその中に紛れ込むように、古びた石柱の欠片が顔を出しているのを見つけた。かつて神々によって作られた神殿の遺構であり、瘴気との戦いで大きく崩壊した痕跡だ。カイは剣ルクスの蒼光を剣先に集め、石柱の破片に光を当てた。その瞬間、破片に刻まれた古代文字が淡く浮かび上がった。先日、封印の残響に導かれて見つけた文字と同じ文様が、この場所にも残されている。


「古代文字……神々の力が宿る場所であることに違いない。ここを抜ければ、きっと神殿の入り口が見えるはずだ」


カイは剣先の蒼光を強めながら、石柱の間をくぐり抜けて先へと進んだ。背後には森の静寂が広がり、鳥の鳴き声すらもかすかに遠くで聞こえるだけだ。この先に何が待ち受けているのか、カイの胸には高鳴る期待とわずかな不安が入り交じっていた。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイからの報告を受け、リリアナも杖を胸に抱え、僅かな調和を感じながら森を進んでいた。先ほどの封印再生の儀式を終えてから、大地には穏やかな光が満ちているものの、森の奥へと近づくにつれて空気が再び鋭く冷たくなっていくのをリリアナは感じていた。草木の隙間からかすかに漂う黒い瘴気の欠片はほとんど無色透明で、杖先の蒼光によってかろうじてその存在を確認することができる。


「この先が古代神殿への道……聖女セレスティア様が祈りを捧げた泉から流れる水が示すはずよね」


リリアナは杖を軽く振り、蒼光の結界を広げながら歩を進めた。すると足元のぬかるみに小さな足跡が続き、森の中へと続いているのが見えた。獣とも魔族ともつかない足跡だが、大きさからして人間のものではなさそうだ。リリアナは目を細めて足跡を辿りながら、深い森の奥へ身を潜めるように進んだ。


「きっと、ここには神殿の守護者がいるはず……封印の泉を守り、瘴気の再生を阻止しようとする存在が」


リリアナは杖から蒼光を放ちながら、足跡のそばにある草むらを注意深く観察した。その瞬間、突如として草むらが揺れ、小動物のような影が飛び出してきた。リリアナは驚いて杖を構えたが、それは狼のような毛並みをした魔族の亡霊だった。蒼光の結界が瞬時に展開し、魔族の亡霊は凍結されて白い結晶となり、やがて砕け散った。リリアナは深く息を吸い込み、杖先から蒼光を揺らしながら微かに頷いた。


「魔族の亡霊か……でも、私たちの光があればどんな闇も浄化できる。カイ様、きっとこの先に聖なる神殿への入口があるわ」


リリアナは再び足跡を辿り、仲間たちのもとへ向かう決意を新たにした。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナと行動を共にしながら、マギーは巻物を胸に抱えて足元に広がる瘴気の残滓を観察していた。先ほどリリアナが示した魔族の亡霊は、瘴気の再生を試みる存在だった。だがその程度の亡霊は、瘴気追放陣と瘴気断裂陣の前では無力であり、蒼光の結界を浮き立たせれば一瞬で浄化できる。マギーは巻物を取り出して数行の呪文を確認した。


「古代神殿には、瘴気を根源から断つための秘術が隠されている。聖女セレスティア様が封印を再生する際に使った呪文と同じ力が、この場所に眠っているはず……」


マギーは杖先の蒼光を引き連れ、慎重に石柱の破片を調査した。そこには薄く刻まれた古代文字が点在し、瘴気の欠片を封じ込めるための呪文の一部が残されていた。マギーは巻物を手に取り、その呪文と照合しながら一部を解読した。文字が示すのは――「瘴気の核を断ち切り、聖なる泉へと導け。再び封印されし者を目覚めさせ、その力を正しき者へ託せ」。マギーは深く息を吸い込み、仲間たちへと近づいた。


「リリアナ様、カイ様。この文字を見てください。古代神殿には、瘴気の核を断ち切る秘術が書かれています。封印の泉を発動させるには、ここで見つけた呪文の一節を唱える必要があるようです」


マギーは巻物を胸にしまい、仲間たちの顔を見つめながら再び深い決意を抱いた。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーとリリアナの報告を聞きつけたガロンは、剣ルクスを肩に担ぎ直しながら木々の陰から現れた。剣先から迸る蒼光が暗がりを照らし、足元の瘴気を凍結させる。ガロンの背中には、これまで共に戦い抜いた仲間たちへの信頼が強く刻まれている。マギーが示した古代文字を見て、ガロンは剣先を大地に突き立てた。


「瘴気の核を断ち切る――聖女セレスティア様が封印の泉の力を再生させた呪文と同様のものか。ならば、俺たちで協力して封印を発動させよう」


ガロンは剣ルクスをゆっくりと腰に納め、仲間たちを見渡した。そして、深呼吸をしてから剣先を地面に突き立てる。すると蒼光が大地に広がり、瘴気が溶けるように消え去る。ガロンは微かに息を整え、仲間たちと共に古代文字の解読に協力する決意を抱いた。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの蒼光が瘴気を浄化する中、ジークは短弓を肩に掛け直し、森の入口から現れた。彼の瞳には恐れではなく、仲間たちと共に戦う覚悟が宿っている。かすかに揺らめく草むらの黒い粒子を狙いながら、ジークは矢を番えた。


「瘴気の核を断ち切る――その言葉が示すのは、世界の真実に深く迫ることでもある。俺たちは兄貴とリリアナ様、マギー様と共に、この試練に立ち向かうんだ」


ジークは矢を放った。矢先は瘴気の核へと向かう小さな光の粒子を散らし、白い結晶として砕け散らせた。その瞬間、封印の泉を目指す仲間たちの道が少しだけ明るく照らされたように感じられた。ジークは深く頷き、仲間の後を追いかけた。


■   ■   ■


セレスティア視点


森の奥深くへと進むカイたちを見守りながら、セレスティアは杖を胸に抱えて立ち尽くしていた。かつて封印の泉を通じて世界を浄化した聖女としての使命は果たしたが、新たに示された古代文字が意味するところは、封印の力をさらに高めなければならないということだった。かすかに寝返る風に乗って、セレスティアは深く祈りを捧げた。


「愛と慈悲の光よ、仲間たちにさらなる力を与え給え。瘴気の核を断ち切り、世界に再び平安をもたらし給え」


セレスティアの祈りの光は、草木に潜む瘴気を再び浄化し、古代文字を解読する仲間たちを支えるように揺らめいた。彼女の胸には深い慈愛と希望が満ちていた。


■   ■   ■


ルレナ視点


剣を胸に抱えたまま、ルレナは仲間たちの背中を見守り続けた。緑の影に紛れる黒い瘴気の粒子が、北へ向かう川の流れに乗って薄れていくのを見て、ルレナは小さく息をついた。木漏れ日が彼女の剣先を黄金色に染め、蒼光と交錯して神秘的な光景を描き出している。


「私は……一歩でも多く、この世界を守るために歩み続ける。どんな試練が待ち受けていても、仲間と共に負けるわけにはいかない――」


ルレナは深呼吸をしてから斬りかかる構えを取り、小さな剣先から蒼光の祈りを放った。それは仲間たちに届き、瘴気の核を封じるための激励となった。


■   ■   ■


――カイ視点クライマックス


仲間たちの祈り、呪文、剣戟、矢が合わさり、再び森の奥深くに潜む瘴気の核が姿を現した。黒い瘴気は巨大な影となり、木々の間を揺らめきながら襲いかかる。カイは剣ルクスを高く掲げ、蒼光を極限まで高めて一歩前へ踏み出した。


「ルクスよ、アリウスの魂と共に――この一撃で瘴気の核を断ち切れ!」


カイの言葉とともに、剣先から放たれた蒼光の刃は闇の核を貫き、大地を震わせるほどの閃光が炸裂した。黒い瘴気の核は呻き声と共に白い結晶となって砕け散り、その欠片は朝陽に照らされてきらきらと輝きながら大地に降り注いだ。


大地は再び静寂に包まれ、草木は一斉に芽吹き、鳥のさえずりが新たな希望を歌い上げるように響き渡った。カイは剣ルクスを握りしめたまま膝をつき、その目には勝利の光と仲間たちへの深い感謝が宿っている。


仲間たちは駆け寄り、肩を寄せ合いながら深い安堵の息をついた。リリアナは杖を胸に抱え、涙を浮かべながらほほ笑み、マギーは巻物を鞄に仕舞いながら静かに頷いた。ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、剣先を草むらに揺らしながら新たな世界を見据えている。ジークは矢を背負い直し、静かに頷き、セレスティアは杖先から放たれる祈りの光を天へ解き放ち、ルレナは剣を胸に抱えたまま涙を拭った。


「黒い瘴気の正体は、神々の敗北の残滓を宿す強大な存在だった。だが、俺たちはそれを乗り越えた。世界は再び光を取り戻し、草木は芽吹き、小鳥の歌が響いている」


カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷いた。その背中には仲間と共に戦い抜いた誇りと、新たに築く希望が力強く宿っている。彼らの旅は続くが、その先には紛れもなく、さらに深い真実と光に満ちた未来が待ち受けている――。


95話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

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