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93話 封印の残響

――カイ視点


淡い朝靄が消え始めた頃、カイは剣ルクスを腰に納めたまま、見慣れたはずの大地を見つめていた。かつて魔王アズラエルを打ち倒したあの戦場が今、静かに息をついている。だが、その静寂の奥底には、先刻まで感じなかった違和感が漂っていた。足元に残る草の隙間から、わずかに黒い瘴気の残滓が揺らめき、冷たい風に乗ってカイの頬をかすめる。左腕の傷は確かに癒えつつあるが、その疼きが新たな危機を告げているようだった。

「瘴気は完全に消えたと思っていたが……封印の残響か?」

カイは刃先からかすかに漏れる蒼光を頼りに、一歩一歩進み始めた。その蒼光はアリウスの魂が宿る刃の証であり、闇を断ち切った記憶そのものを映し出している。だが今、その光が闇に飲み込まれかけていることをカイ自身が感じていた。

遥かなる山岳地帯の向こうから、断続的に響く地鳴りのような音が伝わってくる。大地が軋むような低い振動は、封印されたはずの古代魔法が再び動き出したことを示していた。カイは剣ルクスをしっかりと握りしめ、心の中で誓いを新たにした。

「仲間たちを呼び寄せなければ……リリアナ、マギー、ガロン、ジーク、セレスティア、ルレナ。世界を救うと誓った仲間たちと共に、この封印の残響を断ち切る」


■   ■   ■


リリアナ視点


封印の残響を察知し、リリアナは杖を握りしめながら走り出した。薄明かりが差し込む草原の向こうに、見慣れた仲間たちの姿を見つける。剣ルクスを腰に収めたカイ、巻物を抱えたマギー、剣を肩に担いだガロン、短弓を背負ったジーク、祈りを捧げるセレスティア、そして剣を胸に抱えたルレナ。それぞれが戦いの疲れを帯びた姿勢であるものの、眼差しには揺るがぬ決意が宿っている。

「カイ様、ここに来られたのは、封印の残響を感じたから……?」

リリアナは杖先から淡い蒼光を放ち、周囲の瘴気を凍結させる。草叢の闇が一瞬凍り付き、僅かな黒い粒子が白い結晶として砕け散った。それを見て、カイは深く頷いた。

「封印の残響だ。世界各地の封印が崩れ始め、魔族の残党が暴れ出している。俺たちは今すぐ対応しないと、またあの瘴気に飲み込まれてしまう」

リリアナは息を整え、杖を握りしめながら詠唱を口ずさんだ。蒼光の結界は薄雲をも凍らせ、その光が廃墟の中に広がる。仲間たちは互いに視線を交わし、剣や呪文の準備を整える。リリアナの胸には、再び仲間と共に戦える喜びと不安が入り混じっていた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界が瘴気の残滓を凍結させる中、マギーは巻物をそっと取り出し、古代文字を踏襲するように床に映し出した。瘴気追放陣と瘴気断裂陣の複合詠唱を解き放つと、地面に浮かぶ白い紋様が淡い輝きを放ち、草木に潜む瘴気を一気に引き剥がした。瘴気の残滓は白い霧となって蒸発し、やがて蒼光の結界と重なり合うように消え去っていった。

「封印の残響を抑えるためには、ただ蹴散らすだけでは足りない……古代神殿にある封印石が再び力を失いつつあるらしい」

マギーは冊子を開き、古代の文献に記された封印石の在り処と、再封印の儀式方法を確認した。だが、それには強力な呪文と仲間の協力が不可欠であり、時間との勝負でもあった。マギーは視線を仲間たちに移し、覚悟を固めた。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーの報告を受け、ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直した。剣先から蒼光が溢れ、瓦礫の隙間に潜む瘴気を切り裂くように力強く揺らめいた。草むらの向こうには古代神殿の跡地が見えており、その前には魔族の残党と思しき影が蠢いている。

「古代神殿か……ここに封印石があるなら、まずは奴らを排除しないとな」

ガロンは剣ルクスを引き抜き、一気に駆け出した。瘴気魔獣の亡霊が姿を表し、剣戟と蒼光の閃光が夜明けの静寂を切り裂く。ガロンの剣は瘴気を浄化しつつ、敵を次々と打ち倒していった。身体は疲弊しつつあったが、その背中には仲間を護るという不動の決意が刻まれている。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの猛攻をフォローするかのように、ジークは短弓を肩に掛け直し、ゴツゴツした石畳の上を駆け抜けた。瘴気魔獣の亡霊が迫る中、ジークは矢を番え、的確に狙いを定めた。矢先には瘴気を貫く白い結晶が宿り、黒い亡霊はかすかな呻き声を残して消え去っていく。

「兄貴、リリアナたちの背中は俺が護る……ここで倒れるわけにはいかない!」

ジークは再び矢を番え、次の標的を見定める。眼前の古代神殿の石柱には魔族の残党が陣取り、何やら不気味な呪文を唱えているのが見えた。ジークは射程を計り、鋭く矢を放つ。矢は呪文を中断させ、魔族の残党を怯ませた。その隙を突き、仲間たちはさらに前進した。


■   ■   ■


セレスティア視点


セレスティアは杖を胸に抱え、大地に手をかざしながら祈りを捧げた。草木が揺れるたびに、杖先から放たれる淡い祈りの光が瘴気の残滓を浄化し、仲間たちの背中を優しく包み込む。古代神殿の入り口には不気味な黒い瘴気が渦巻き、魔族の残党が封印石を取り囲んでいる。

「愛と慈悲の光よ、今この地にある相克を和らげ、封印石の力を高め給え。仲間たちが再封印を成し遂げる手助けとなる光を注ぎ給え」

セレスティアは目を閉じ、ごくわずかな祈りの言葉を紡ぎ続ける。その祈りが夜明けの風と共鳴し、封印石に触れた瘴気を凍らせ、一瞬の静寂が古代神殿を包み込んだ。


■   ■   ■


ルレナ視点


剣を胸に抱えたまま、ルレナは仲間に寄り添いながら古代神殿の入り口へと一歩踏み出した。草むらの隙間から差し込む朝陽が、手にした剣を淡く照らし、蒼光が揺らめく。魔族の残党は不気味に呻き声をあげ、封印石に向かって呪文を唱え続けている。ルレナは剣先から放たれる蒼光を闇に向かって投じ、瘴気の粒子を断ち切る。

「仲間と共に、この封印を取り戻す。私は……私も戦うんだ!」

ルレナは小さく頷き、剣を強く握りしめたまま古代神殿の階段を駆け上がる。その背中には仲間への信頼と、この世界を守り抜く覚悟が強く刻まれていた。


■   ■   ■


――カイ視点クライマックス


仲間たちが封印石の元へと迫る中、カイは剣ルクスを握りしめ、杖先から放たれる祈りの光と呪文の力を見守っていた。不気味な呪文を唱えている魔族の残党は、封印石の真なる力を奪おうと狙っている。カイは深呼吸を整え、剣ルクスを強く握りしめたまま一歩前へ踏み出す。

「ルクスよ……この一撃で封印石の真の力を呼び覚ませ!」

剣ルクスを高く掲げた瞬間、蒼光が闇を切り裂き、瘴気の粒子を断ち切った。その刹那、封印石は淡い光を放ち始め、古代文字が刻まれた表面全体が輝く。魔族の残党は呻き声を上げつつも後退し、瘴気の闇は蒼光の中で白い結晶と化して砕け散った。カイは剣を深く振り下ろし、最後の一撃を封印石へと叩き込んだ。

「これで……封印は再び力を取り戻す!」


封印石からあふれ出した光が戦場を包み込み、瓦礫の隙間から芽吹く草木は一斉に揺れた。仲間たちは安堵の息をつき、リリアナは杖を胸に抱え、涙を浮かべながら微笑んだ。マギーは巻物を閉じ、満足げに息を整えた。ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、剣先を揺らしながら新たな世界を見据えている。ジークは矢を背負い直し静かに頷き、セレスティアは杖先から放たれる祈りの光を天へ解き放った。ルレナは剣を胸に抱えたまま涙を拭い、仲間と共に歩む未来を見つめていた。


「封印の残響は消えた……けれど、世界にはまだ多くの謎が残されている。俺たちはこれからも歩みを止めない」

カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷いた。その背中には仲間と共に戦い抜いた誇りと、新たに築く希望が力強く宿っている。彼らの旅は続くが、その先には紛れもなく、新たなる真実と光に満ちた未来が待ち受けている――。


93話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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