表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/100

91話 新たなる脅威

――カイ視点


朝靄が薄紅色に染まる頃、カイは剣ルクスを腰に納めたまま、再び荒廃した大地に立っていた。かつて魔王アズラエルの亡霊を討ち果たして以来、この地には平和の兆しが見え始めていたが、カイの胸にはまだ消えぬ不安があった。左腕の傷は癒えつつあるものの、その痕は深く刻まれ、剣ルクスの蒼光の輝きが正しさを再確認する。この剣で仲間と共に未来を守り抜いたが、世界にはまだ試練が残されていることを、カイは鋭い直感で感じ取っていた。


「……何かが、この大地に新たな影を落としている気がする」


彼は視線を大地の隅々まで巡らせた。草叢の隙間からは小さな緑が芽吹き、瓦礫には朝露がキラキラと輝いている。そして遠方には、かすかに黒い瘴気の粒子が舞い上がるように見えた。剣ルクスから漏れる蒼光が、その粒子を裂くように淡く揺れた。


「仲間たちは無事か……リリアナ、マギー、ガロン、ジーク、セレスティア、ルレナ……皆、一緒に戦った。だが今度は、彼らがまた助けを必要とするかもしれない」


カイは剣ルクスを握りしめ、足取りを踏みしめた。大地に残る傷跡は深いが、それでも草は伸び、花は咲き始めている。それらが示すのは再生の兆しなのか、それとも別の何かが覆い尽くす前のわずかな安らぎなのか。カイは手綱を引き締めるように軽く剣を揺らし、胸に新たな決意を刻んだ。


「俺は……誰よりも早く仲間のもとへ向かい、新たな脅威を打ち払う。光がある限り、この世界を守り抜くんだ」


■   ■   ■


リリアナ視点


朝陽が大地を優しく染め始めた頃、リリアナは杖を胸に抱えて祈りを捧げていた。先日の戦いで瘴気は浄化され、かつての瘴気魔獣たちは跡形もなく消え去ったが、リリアナの胸には新たな不安があった。仲間たちがそれぞれの役割を果たし続ける中、かすかな黒い影が遠くの地平線に揺れるのを感じ取ってしまったのだ。左腕の傷は癒えつつあるものの、その痛みは仲間と世界を守り抜いた証として残り、杖を握る指先に微かな震えを伝えていた。


「瘴気は浄化されたはずなのに……何かが、またこの世界を蝕もうとしているように思えて……」


リリアナは深い呼吸を繰り返し、杖先から淡い蒼光を放って周囲を浄化していく。朝靄に混じる土埃すら清らかな光に変え、瓦礫の隙間から伸びた草木に優しく触れるように祈りを捧げる。砕け散った石片には小さな花が咲き始め、その光景にほのかな安堵を覚えつつも、脅威の気配に胸は高鳴る。


「マギーやガロンたちはどうしているのかしら……あの時と同じように、私たちが結束すれば、どんな闇も打ち払えるはず」


リリアナは杖に力を込め、振り上げた杖先をじっと見つめた。その先には、まだ目には見えぬ脅威が蠢いているように感じられたが、リリアナは微笑みを浮かべて祈りを続ける。「愛と慈悲の光よ、世界が再び闇に呑まれることのないよう、私たちに力を与え続けて……」


■   ■   ■


マギー視点


草むらの隙間から瓦礫の上へと駆け上がったマギーは、胸に抱えた巻物を強く握りしめた。瘴気を浄化する呪文の痕跡は大地に残りつつも、そのうねるような気配は薄れた。朝陽に照らされる世界は、かつての荒廃を少しずつ忘却させるかのように優しく輝いていたが、マギーは遠くの草むらに潜む闇の気配を嗅ぎ取ってしまっていた。傷ついた身体はまだ完全に回復していないが、その代わりに研ぎ澄まされた感覚がマギーの全身を駆け巡る。

「何かが再び瘴気を生み出そうとしている……その兆しは小さいけれど、確かに感じる。リリアナの祈りだけでは足りないかもしれない」


マギーは巻物を開き、瘴気封鎧陣の最終詠唱を確認する。その詠唱が大地に映し出されると、白く輝く紋様が瓦礫の隙間に降り注ぎ、瘴気の残滓を再び追放しようとする。しかし、紋様に近づく黒い粒子がどこか生き物のように耐えながら広がっていくことに気づき、マギーは眉間に皺を寄せた。

「瘴気追放陣と瘴気断裂陣だけでは、この闇を封じきれない……」


マギーは詠唱を止め、新たな魔導陣の構築を試みる。夜明けの光が世界を照らす中、彼女の瞳にはかすかな決意が宿っていた。「仲間たちと協力して、この恐ろしい脅威を再び打ち払うために、私は知識のすべてを使い尽くす……」


■   ■   ■


ガロン視点


瓦礫の山と化した戦場の中央で、ガロンは剣ルクスを剣鞘から軽く引き抜き、蒼光を揺らして周囲を警戒していた。朝陽はまだ低く、冷たい風が吹き抜ける中で、剣先から迸る蒼光が闇を照らし出す。かつての瘴気魔獣たちはすべて討ち滅ぼされたはずだったが、ガロンの鋭い感覚は新たな悪意を捉えている。足元の瓦礫を蹴り上げながら一歩進むと、草むらの隙間からかすかな黒い影が這い出そうとしているのを目撃してしまった。

「くそっ……まだ終わっていなかったのか」


ガロンは剣ルクスを強く握りしめ、振りかざすと蒼光の刃先が揺らめきながら暗闇を斬り裂いた。その一撃で黒い影は粉々に砕けて消えたが、周囲には無数の小さな影がうねりを見せている。ガロンは膝を折りつつも剣を構え直し、大地を蹴り上げて再び立ち上がる。

「仲間を守り抜くためなら、この剣を振るい続ける! どんな脅威であっても、俺の刃が止まることはない!」


ガロンは剣を振るいながら、仲間のもとへと確実に進んでいった。その背中には泥と血の跡がくっきりと残っているが、その眼差しは力強く輝いていた。


■   ■   ■


ジーク視点


瓦礫の隙間に残る黒い気配を見極めようと、ジークは短弓を肩に掛け直した。朝陽が差し込む中で、彼の瞳は闇の亡霊を探しながらも、仲間と共に未来を守る覚悟を胸に秘めている。先刻まで戦い続けた身体は疲労が色濃く残り、矢を番える手がかすかに震えている。だが、その震えは恐怖ではなく、闘志の高揚感に由来するものだった。かすかな草むらの揺らめきに目を凝らし、ジークは次の矢を番えた。

「兄貴とリリアナたちの背中は、俺が護る……新たな瘴気が立ち上るなら、この矢で貫いてやる」


矢を放った瞬間、黒い亡霊が一閃して凍結し、白い結晶が宙を舞った。ジークは再び矢を番え直しながら、仲間と同じ鼓動を感じる。遠くからはマギーの詠唱、リリアナの祈りの声、ガロンの剣戟が交錯し、戦場には再び蒼光と祈りの光が響いていた。


■   ■   ■


セレスティア視点


朝靄が薄紅色に染まる中、セレスティアは杖を胸に抱えて小さく息を吸い込んだ。かつての瘴気魔獣の亡霊はすべて浄化されたはずだったが、この夜明けの瞬間に再び闇の気配を感じ取ってしまった。その胸には再び戦いへの恐怖が芽生えつつあったが、セレスティアは深い慈愛の心を取り戻し、杖先から淡い祈りの光を放つ。瓦礫の隙間から夜露が舞い上がり、それが祈りの光に溶け込むように煌めいた。

「愛と慈悲の光よ、再び私たちの祈りを受け入れて……この世界が再び闇に呑まれることのないよう、我が祈りを指南とせよ」


彼女の祈りが空間を震わせると、かすかな黒い気配が光に吸い込まれ、白い結晶となって崩れ落ちる。セレスティアは目を閉じたまま祈りを続け、仲間たちの背中を支えながら静かに呟いた。「未来を守るための祈りは、いつまでも絶やしてはならない」


■   ■   ■


ルレナ視点


剣を胸に抱えたまま、ルレナは大地に立つ仲間たちを見つめ続けている。草むらの向こうに潜む黒い亡霊の気配を感じ取りながらも、胸には揺るぎなき希望が宿っていた。小さな体は震えているが、その眼差しは強く、朝陽の光を受けて銀髪が淡く輝いている。ルレナは深く息を吸い込み、剣先から蒼光の祈りを放つようにそっと剣を振り下ろした。

「私も……ここで倒れたりしない。仲間と共に、この未来を守り続ける!」


その瞬間、蒼光の欠片が闇の亡霊を斬り裂き、白い結晶が揺れて散った。ルレナは頷きながら、仲間の背中に寄り添うように歩みを進めた。


■   ■   ■


――カイ視点クライマックス


仲間たちの剣戟、詠唱、矢、祈りが一体となり、再び夜明けの大地には清浄な蒼光が満ち溢れた。瘴気の亡霊は最後の抵抗として現れたが、カイは剣ルクスを高く掲げ、その刃先から迸る蒼光を闇に叩き込む。月明かりを失った夜空には朝陽が昇り始め、剣ルクスの蒼光と黄金の光が交錯して大地を新たな色で包み込んだ。カイは息を切らしながらも剣を振り下ろし、渾身の力で最後の瘴気の亡霊の中心を貫いた。


「これが――最後の一撃だ!」


剣ルクスから放たれた蒼光は瘴気の亡霊を断ち割り、眩い閃光が炸裂した。黒い亡霊は呻き声をあげながら崩れ去り、白い結晶となって大地に散らばる。カイは剣ルクスを握りしめたまま力尽きそうになりながら、その場に膝をついた。その瞳には勝利の光と仲間への深い感謝が宿っている。


夜の闇が完全に消え去り、朝陽が全身を包み込む中、仲間たちは駆け寄り、互いに支え合って深い安堵の息をついた。リリアナは杖を胸に抱え、涙を浮かべながら微笑み、マギーは巻物を鞄に仕舞いながら満足げに息を整えた。ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、剣先を草むらへと向けたまま誇りの笑みを浮かべた。ジークは矢を背負い直し、静かに頷いた。セレスティアは杖先から放たれる祈りの光を天へ解き放ち、ルレナは剣を胸に抱えたまま涙を拭い、仲間と共に歩む未来を静かに見つめていた。


「闇を断ち、夜明けを取り戻した。これで、新たな夜明けは本当に始まる――仲間たちと共に歩む未来が、今ここにある」


カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷いた。その背中には戦い抜いた誇りと、新たな希望が力強く宿っている。彼らの旅は続くが、その先には紛れもなく、新たな希望と平和が待ち受けている――。


91話終わり

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります!

他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ