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9話「決戦の前夜」


迷宮を抜けた三人の背に、昇りかけた太陽の光が差し込んでいた。

灰色の雲が裂け、わずかにのぞく金色の光が、長い旅路にひとときの温もりを与える。

ヴァルトは双剣の柄をそっと握りしめ、そのぬくもりを胸に刻むように深呼吸をした。


リオンは振り返り、ヴァルトの横顔を見やった。

「……迷宮を超えたな。」

「……ああ。だが……すべてはまだ始まったばかりだ。」

ヴァルトの声は静かだが、その奥底には決して折れない決意があった。


セレスティアは二人のそばで、白銀の髪を風に揺らしながら微笑んだ。

「お二人の剣が、世界の闇を切り裂く……その光景を、私はこの目で見届けます。」


その言葉に、ヴァルトはそっと頷く。

この剣はもう、自分だけのものではない。

仲間と共に、想いと共に進む剣――それが、彼にとってのすべてだった。


歩みを進めると、荒野の向こうに見えてくる王都の城壁が、朝日に赤く染まっていた。

血に濡れた決戦の舞台は、すぐそこに迫っている。


「……レイヴンも、待っているだろうな。」

リオンが剣を指先で弾き、小さく笑う。

「奴に、俺たちの想いをぶつけてやろうぜ。」

「……ああ。必ず、終わらせる。」


ヴァルトの瞳に浮かぶのは、血塗られた戦場の光景。

だがその奥に、小さな光を確かに感じていた。

セレスティアがそっと手を伸ばし、ヴァルトの肩に触れる。

「どうか……自分を見失わないでください。」


その柔らかな声に、ヴァルトは深く頷く。

「……ありがとう。お前の言葉が、俺の剣を支えてくれる。」


小さな光が、胸に静かに灯る。

呪われた双剣が、確かにその光を抱くのを感じた。


夜が訪れる前に、三人は野営の用意を始めた。

焚き火を囲む赤い光が、冷たい空気をかすかに温める。

薪がはぜる音と共に、リオンが口を開いた。

「……明日には、決着がつく。」

「……ああ。」

ヴァルトの声に、焚き火の光が彼の横顔を照らす。


リオンは笑いながらも、その瞳に深い影を宿していた。

「昔のお前は、戦いの前でも冗談を言ってたよな。」

「……今は、笑いを忘れちまったかもしれない。」

ヴァルトが呟くと、リオンは力強く言った。

「なら、俺がお前に笑わせてもらう。どんな夜でも、笑顔は戦いの灯になるからな。」


セレスティアは焚き火の向こうで、そっと目を伏せる。

「明日の戦いで、すべてが変わるのですね。」

「……ああ。だが……どんな結末になろうと、俺は信じている。お前の祈りも、リオンの言葉も……俺の剣に刻む。」


セレスティアは静かに微笑んだ。

「ええ……私は、あなたの剣が道を切り拓くと信じています。」


夜空に星が瞬き始める。

血と灰の匂いを帯びた空気の中、それでも星は変わらず輝いていた。

ヴァルトはその光を見上げ、静かに呟く。

「……仲間の声も、想いも……俺は全部、この剣で守る。」


リオンが焚き火に薪をくべると、赤い光が大きく瞬いた。

「なら……明日を信じろ。信じることが、剣を強くする。」

「……ああ。」


その時、遠くで雷鳴が小さく響いた。

空の奥に潜む運命の影が、確かに動き出している気配を伝えていた。


夜の静寂の中、ヴァルトは双剣をそっと握りしめる。

血塗られた刃に映るのは、明日へと続く光の道。

そしてその光は、決して一人ではないと教えてくれる――そんな確信があった。


「明日……必ず、あの男を超えてみせる。」

その言葉を胸に、ヴァルトは目を閉じた。

焚き火のぬくもりと、仲間の声が、冷たい夜の空気に小さな光を灯していた。




夜の帳が深まり、焚き火の灯りだけが三人の顔を赤く照らしていた。

リオンは火の粉を見つめながら、小さく息を吐く。

「……思えば、長い旅だったな。」

「……ああ。」

ヴァルトの声は低く、だがその瞳には確かな光が宿っていた。


セレスティアは静かに微笑み、焚き火の向こうで目を細めた。

「お二人の歩んだ道は……血と痛みに満ちていた。ですが……そのすべてが、今に繋がっているのですね。」


リオンが肩をすくめ、笑みを浮かべる。

「そうだな。無駄な痛みなんてない。すべてが……明日を照らす糧になる。」


その言葉に、ヴァルトは深く頷く。

「……この剣に刻まれた想いも……誰かの祈りも……すべて無駄にはしない。」


冷たい夜風が頬を撫でる。

ヴァルトはそっと双剣の柄に触れ、静かに目を閉じた。

血の呪いにまみれた刃。

だがその奥には、仲間たちの声が生き続けている。


(お前の剣は……お前の命だ。信じろ、ヴァルト。)

(俺たちは……いつだって、お前の背を押す。)


仲間の幻影が、微かに笑いかける。

その声が、胸の奥に小さな光を灯す。


「……ありがとう。お前たちの想いが……俺を支えてくれる。」

誰にでもないその言葉が、焚き火に吸い込まれていった。


セレスティアがそっと手を伸ばし、ヴァルトの肩に触れた。

「ヴァルト……あなたはもう、一人ではありません。」

その言葉の優しさに、ヴァルトはゆっくりと目を開く。

青い瞳に映る自分の姿――それは、弱さではなく、光を宿す剣士の姿だった。


「……ああ。俺は……もう迷わない。」

ヴァルトは双剣を握りしめ、はっきりと告げた。

「明日……必ず、レイヴンを超える。俺自身の意志で。」


リオンは笑い、剣の柄を軽く叩いた。

「その意気だ。お前が立ち止まらない限り……俺も共に戦う。」


焚き火がパチパチと音を立てる。

それはまるで、剣戟の音のように二人の決意を祝福しているかのようだった。


やがて夜が深まり、三人は焚き火の傍で静かに目を閉じた。

それぞれが明日を思い、胸に宿す想いを確かめるように。


ヴァルトの夢には、血塗られた戦場の光景が広がっていた。

灰色の空、冷たい風、そしてレイヴンの氷の瞳。

だが、その中で確かに光が瞬いていた。

リオンの声、セレスティアの祈り、そして――仲間の幻影。


「……俺は、一人じゃない。」

夢の中で呟いたその言葉は、静かに夜空へ溶けていった。


そして――夜明けが訪れた。

朝の光が、冷たい空気を切り裂くように差し込む。

三人は焚き火の跡を踏みしめ、ゆっくりと立ち上がる。


「……ついに来たな。」

リオンが言い、剣を抜く。

その銀の刃が、朝日に淡く光った。


ヴァルトは深紅の瞳を細め、双剣を背に手を添える。

「……ああ。これが……俺たちの戦いだ。」


セレスティアは白銀の髪を風に揺らし、静かに祈りを捧げる。

「どうか……あなたの剣が、運命を超えますように。」


その声に、ヴァルトの胸は熱くなる。

血と呪いに塗れたこの剣が――運命を超える光であると信じて。


王都の城壁が遠くに見える。

その向こうに待つのは、血と氷に彩られた宿敵レイヴン。

だがヴァルトの歩みに、もはや迷いはなかった。


「行くぞ、リオン。お前となら……俺は恐れない。」

「当然だ。どんな地獄でも……共に進むだけだ。」


二人の剣が、朝日に向かって光を放つ。

セレスティアは青い瞳に決意を宿し、二人の背を見つめていた。


そして――三人は再び歩き出した。

決戦の朝、血塗られた運命を超えるために。

その足取りは、確かに大地を刻む。

それがどれほど冷たく、険しい道でも……彼らの想いは折れない。


――決戦の前夜は終わり、光と影の物語が新たに幕を上げる。

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