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89話 最後の一撃

――カイ視点


淡い月明かりが夜空を覆う頃、カイは剣ルクスを腰に納めたまま深く息を吸い込んでいた。かつて瘴気と狂気の渦を巻き起こした魔王アズラエルとの決戦の舞台は、今や死霊の残響だけがわずかに漂っている。冷たい夜風に乗って、遠くから仲間たちの呼吸が聞こえ、互いの存在がそれぞれの胸に宿る強い意志となって響いていた。左腕の傷はまだ激しく疼き、その痛みが闘志を研ぎ澄ませるかのように胸の奥で脈打っている。剣ルクスの蒼光はかすかに揺れており、アリウスの魂が最後の刃を求めて囁いている気配をカイは察知した。

「ついに、ここまで来たか……」

カイは静かに呟き、夜空に浮かぶ月影を見上げた。その刃先には、これまでの戦いで失われた多くの命と血が刻み込まれている。彼は剣ルクスを引き抜き、柄に手をかけたまま闘気を高めた。蒼光の刃先が闇に瞬き、かつて仲間と交わした誓い――「世界を救う」という言葉が再び胸中で燃え上がる。

「皆、これが最後だ……アズラエルをこの一撃で倒す!」

カイは剣先を揺らし、一気に暗闇の中へと踏み込んだ。足元の瓦礫を蹴り上げながら、月明かりと蒼光が交錯する中、瘴気の亡霊が再び立ち上がろうとしている。黒い影がうねりを見せ、かすかな呻き声が戦場に響き渡る。カイは剣を大きく振りかざし、蒼光の刃を瘴気の亡霊へと叩き込んだ。刹那、瘴気は白い結晶となって砕け散り、深い轟音が辺りを揺るがした。しかし、それはほんの一瞬の出来事にすぎず、さらに多くの亡霊が這い寄ってくる。カイは膝をわずかに折りながら蒼光の剣を引き抜き、再び振り下ろした。

「ルクス……俺は、お前と共に最後まで戦う!」

剣ルクスの蒼光は闇を切り裂くように強烈な閃光を放ち、瘴気の亡霊を一掃し続ける。剣先に込めたアリウスの魂の声が、カイに力を与える。疲労と痛みに耐えながら、カイは足場を確かめつつ前進を続けた。月光が草むらを淡く照らし、かつての戦いの爪痕を浮かび上がらせるが、カイの眼差しは揺るぎない。彼は、仲間と未来を守るために、この一撃を振るいつづけようとしていた。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイの号令と共に、リリアナは杖を高く掲げた。夜の帳を破るように蒼光が放たれ、瘴気の亡霊を追放する結界が戦場を包み込む。冷たい夜風が吹き抜け、杖先から放たれる蒼光は空気を凍らせるかのように輝いている。リリアナは詠唱を詠いながら左腕の傷を押さえ、かすかな痛みをこらえた。

「瘴気浄化・結界展開! 瘴気の亡霊をこの蒼光の網で捕らえ、闇を凍結し給え!」

杖先から放たれた蒼光の波紋は戦場を揺るがし、黒い影が一瞬硬直してかすかな呻き声をあげた。その隙を突いて、マギーとガロンが瘴気断裂陣を展開し、瘴気の亡霊を断ち裂く。リリアナはさらに詠唱を続け、瘴気追放陣を重ねると、それまで這い回っていた黒い残滓が蒼光の中で白い結晶と化して砕け散った。息をつく暇もなく、リリアナは仲間の背中を見つめながら詠唱の詩句を紡ぎ続けた。足元の蒼光は次第に弱まりつつあったが、彼女の心には揺るぎなき決意が宿っている。

「マギー、ガロンたちが瘴気を刈り取っている間に、私は結界を維持し続ける……仲間を守るために、この祈りの光を絶やさない!」


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界に乗じて、マギーは巻物を抱えて駆け寄った。大地に描かれた布のような紋様を一刻も早く描き上げ、それを動力源に瘴気断裂陣を発動する。刻まれた紋様は白く光り、瘴気の亡霊を引き裂くように走り、黒い暗闇を瞬時に凍結破壊した。さらにマギーは瘴気追放陣の詠唱を追加し、残りの瘴気を大気中へと押し返す。

「瘴気断裂陣、瘴気追放陣……瘴気封鎧陣!」

詠唱が完了すると、白い閃光と共に瘴気は完全に浄化され、瓦礫の隙間からはわずかに夜露が湧き上がる。マギーは巻物を閉じ、僅かに息を整えた。全身の疲労は限界に近かったが、仲間を守るために力を尽くす覚悟は揺るがない。

「これで瘴気を打ち払った……あとは、カイの覚悟の刃だけが闇を断ち切るはず……!」


■   ■   ■


ガロン視点


マギーの呪文が瘴気を裂き払い、リリアナの結界が闇を凍結する間隙を縫って、ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、一気に前へ突進した。剣先に迸る蒼光は暗闇を照らし、瘴気の亡霊を斬り裂くたびに瓦礫が砕け散る。荒れ果てた戦場には幾度となく剣を振るった衝撃が残っており、ガロンはその重みを感じながらも足を止めることなく進んだ。

「俺たちの光は消えない……この剣がある限り、闇は永遠に消し去られる!」

ガロンは叫び声をあげながら剣を振り下ろし、蒼光の渦が瘴気の亡霊を抉り取った。その刹那、ガロンの胸には仲間と共に歩んできた日々の記憶が走馬灯のように蘇り、さらに強い闘志が燃え上がる。膝が震え、筋肉が悲鳴を上げても、ガロンは剣を振るい続けた。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの猛攻に続き、ジークは短弓を肩に掛け直し、闇の中に潜む最後の瘴気の亡霊を探した。小刻みに足を動かしながら、ジークの瞳は黒い蠢きを見逃さず、矢を番えた。

「兄貴の背中は俺が護る……これが、俺の最後の矢になるかもしれない……」

ジークは深く息を吸い込み、一瞬の静寂の中で標的を見定めた。引き絞った弓を放つと、矢は闇の亡霊の核心を貫き、瘴気は白い結晶となって一気に砕け散った。ジークは膝をつきながら矢を背負い直し、何とか息を整えた。その瞳には、仲間と共に歩む未来を守る意志が宿っている。


■   ■   ■


セレスティア視点


玉座の間跡地の中央で静かに祈りを捧げるセレスティアは、杖先から放たれる淡い祈りの光を絶やすことなく放ち続けている。その祈りは仲間たちの蒼光と共鳴し、荒れ果てた地に最後の浄化の光をもたらしている。かつての戦場には死の気配が立ち込めていたが、今はむしろ小さな花が石畳の隙間から咲き始めるように、再生の兆しが芽吹いている。

「愛と慈悲の光よ、仲間たちの苦しみを癒し、完全なる浄化をもたらし給え。この地が永遠に闇に呑まれることのないよう、最後の祈りを捧げしめ給え」

セレスティアの祈りが空気を震わせるたびに、夜露が煌めき、白い結晶は月の光を受けて輝きを放った。セレスティアは祈りを止めず、杖を胸に抱えたまま目を閉じ、一点の曇りもなく希望を信じ続ける。


■   ■   ■


ルレナ視点


剣を胸に抱えたまま、ルレナは仲間たちの背中を見つめ続けている。月明かりが瘴気の亡霊を最後に照らし、その残滓が白い結晶となって散りばめられていく中、ルレナの銀髪は淡い光に揺らめいている。眼差しには恐怖ではなく、揺るぎなき覚悟が宿り、剣先に込めた少女の祈りがほのかに蒼光を灯していた。

「私も……ここで倒れはしない。皆と共に未来を歩むために、私の祈りを剣に込める……」

ルレナは一歩踏み出し、蒼光の剣を軽く振った。その刹那、蒼光の欠片が闇の亡霊を断ち切り、草むらに凛とした光を撒き散らした。ルレナの剣が放つ蒼光には、小さな体からは想像もつかないほどの強い想いが宿っている。


■   ■   ■


――カイ視点クライマックス


仲間たちの剣戟、呪文、矢、祈りが一つとなり、最後の瘴気の亡霊が完全に消え去った瞬間、カイは剣ルクスを高く掲げた。月明かりと蒼光の刃先が交錯し、まるで天地を貫くかのような閃光が戦場を満たす。カイは渾身の力を込めて詠唱を始めた。

「ルクスよ、アリウスの魂と共に――この一撃で永遠の光となれ!」


その言葉と共に、剣先から放たれた蒼光は大地を突き抜け、夜の帳を裂き、瘴気の亡霊の心臓部を貫いた。眩い閃光が炸裂し、瓦礫が宙を舞い、戦場は一瞬の静寂に包まれた。瘴気の亡霊は呻き声をあげながら崩れ去り、青白い結晶となって砕け散った。カイは剣ルクスを握りしめたまま力尽き、膝をついたが、その眼には勝利の光と仲間たちへの感謝が宿っている。


草むらの向こうに揺れる月明かりが、彼らを優しく包み込む。仲間たちは互いに駆け寄り、傷ついた身体を支え合いながら深い安堵の息をついた。リリアナは杖を胸に抱え、涙を浮かべて微笑み、マギーは巻物を鞄に仕舞いながら安堵の息を漏らした。ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、満足げに笑みを浮かべ、ジークは矢を背負い直し静かに頷いた。セレスティアは杖先から放たれる祈りの光を天へ解き放ち、ルレナは剣を胸に抱えたまま涙を拭った。


「ついに、すべてが終わった……覚悟の刃が、仲間と世界を救ったんだ」

カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷いた。その背中には戦い抜いた誇りと、これから紡ぐ未来への希望が力強く宿っている。


こうして、「最後の一撃」の章は、仲間と共に戦い抜き、剣ルクスの覚悟の刃によって永遠の光をもたらす瞬間で幕を閉じた。彼らの旅はまだ続くが、その先には紛れもなく、新たな希望と平和が待ち受けている――。


89話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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