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86話 決戦の夜明け

――カイ視点


薄紅色に染まる東の空が、荒れ果てた戦場に徐々に明るさをもたらす頃、カイは剣ルクスを腰に納めたまま、静かに呼吸を整えていた。かつて魔王アズラエルとの死闘を繰り広げたこの場所は、一度は静寂を取り戻したように見えたが、今はなお生じた深い爪痕が大地を裂き、かすかに残る瘴気が夜明けの霧に混ざって漂っている。カイの左腕の傷はまだ疼き、その痛みが彼の意識を覚醒に導くように胸の奥で響いている。剣ルクスの蒼光は、暗闇を切り裂くように一瞬だけ強く揺らめき、まるでアリウスの魂が昼の到来を告げているかのようだった。


「これが、決戦の夜明けか……」

カイは低く呟き、かつて剣を交えた無数の瘴気魔獣や魔王兵の死骸、砕け散った遺跡の断片を見下ろした。瓦礫の隙間からは、わずかに緑の新芽が顔を出し、世界が少しずつ再生へ向かっている証を見せる。だが、その平穏はまだ遠く、再び闇の脈動が大地の奥底から伝わってくる。カイは剣先を揺らしながら深呼吸を繰り返し、仲間たちの無事を願った。いつしか、夜明けの霧が仲間の姿をぼんやりと浮かび上がらせる。リリアナは杖を胸に抱え、マギーは巻物を閉じ、ガロンは剣を肩に担ぎ直し、ジークは短弓を背に掛け、セレスティアは祈りの光を微かに放ち、ルレナは剣を胸に握りしめている。カイは仲間たちを見渡し、深い覚悟を胸に打ち固めた。


「皆、おはよう。夜は明けた。だが、まだ闇は消え去っていない。最後の攻防がこれから始まる」

カイは剣ルクスを軽く振って蒼光を揺らし、仲間に呼びかけた。その刹那、薄紅の朝陽に照らされて蒼光がきらめき、仲間の瞳には新たな力と決意が宿った。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイの声に呼応して、リリアナは杖を高く掲げた。杖先から蒼光が放たれ、朝靄に溶け込むように淡い結界が戦場を覆う。瘴気の臭気はすでにほとんど影を潜めているが、まだわずかな黒い痕跡が霧の中に漂う。リリアナは深く息を吸い込み、左腕の傷の痛みを押し殺しながら詠唱を始めた。


「瘴気浄化・結界展開! この蒼光の網で、瘴気の残滓を凍結し、再び闇が這い上がるのを阻み給え!」

杖先から放たれた蒼光は、かすかに漂う瘴気の残滓を瞬時に凍結し、白い結晶と化して地面へ落とした。そのたびに、戦場の霧が徐々に晴れていき、大地に覆いかぶさっていた瘴気の影が薄れていく。リリアナは詠唱を続けながら仲間を見渡し、誰一人として表情を緩めないその姿に涙を浮かべつつも力強く頷いた。


「マギー、瘴気追放陣を重ねて。瘴気の根まで引き剥がすのよ!」


リリアナは仲間を鼓舞し、新たな決戦の幕開けに備えた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界が瘴気を凍結させた瞬間、マギーは巻物を取り出し、瘴気追放陣の紋様を大地に映し出した。地面に刻まれた紋様は白く光り、瘴気の残り火を引き寄せるように吸い込み、一気に浄化していく。瘴気らしき小さな黒い粒子が紋様を触れると、白い霧となって消え去った。マギーはさらに瘴気断裂陣を詠唱し、次の段階へ移行する。


「瘴気追放陣、瘴気断裂陣! 瘴気の残滓を断ち切り、この地を清浄化せよ!」

詠唱が完了すると、瘴気は床に浮かび上がっていた紋様に流れ込むように一閃し、白い閃光を伴って消え去った。薄紅の朝陽が紋様を照らし、まるで新たな命が芽吹くかのように光の波紋が広がった。マギーは巻物を閉じ、仲間の背中に深く頷いた。


「これで瘴気は完全に払われた。あとは、ルクスの刃と仲間の力で、再び闇を断ち切るだけ……!」

マギーは静かにそう呟き、詠唱の余韻を胸に刻みながら次の行動を待った。


■   ■   ■


ガロン視点


瘴気が完全に浄化された広大な戦場で、ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、ゆっくりと前へ進んだ。瓦礫となった石畳の隙間からは小さな草が芽吹き、鳥のさえずりが聞こえるが、その足元にはかつての戦いの痕跡が深く刻まれている。ガロンは剣先から迸る蒼光を頼りに足元を確かめ、唇を引き結んで闘志を燃やした。


「瘴気はもう消えたが、ここにはまだ魔王アズラエルの残滓が眠っているはずだ。だから、俺は剣を振るい続ける」

ガロンは剣ルクスを掲げ、高く蒼光を揺らした。その光が廃墟を照らし、影となって潜んでいた瘴気魔獣の亡霊が一瞬だけ姿を現したが、ガロンの剣戟が一閃するたびに闇は切り裂かれ、白い結晶となって崩れ落ちた。ガロンは荒々しい呼吸を続けながら歩を進め、仲間の背中を固く守る覚悟を胸に刻んだ。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの猛攻が瘴気魔獣の亡霊を浄化する中、ジークは短弓を肩に掛け直し、草むらの隙間に潜む影を探していた。瘴気の亡霊はすでに大半が浄化されたはずだが、ジークの瞳は最後の一体を捉えようと鋭く闇を見据えている。


「兄貴の背中は俺が護る……最後の一体が潜んでいる限り、俺の矢は休まねェ!」

ジークは深く息を吸い込み、矢を番えた。草むらの奥でかすかに黒いオーラをまとった瘴気の亡霊が再び形を成し、ジークへ向かってうねりながら迫ってくる。ジークは冷静に狙いを定め、矢を放った。矢先は瘴気の亡霊の頭部を貫き、瘴気は煌めく氷のように砕け散った。ジークは勢いよく矢を番え直し、仲間の背中を護るために決して歩みを止めなかった。


■   ■   ■


セレスティア視点


玉座の間跡地の中央で静かに祈りを捧げるセレスティアは、杖先から放たれる淡い祈りの光を絶やすことなく放ち続けている。その祈りの光は仲間たちの蒼光の剣刃と共鳴し、廃墟に潜む瘴気魔獣の亡霊を浄化する光の柱を形成していた。古代女神像の破片が朝陽に照らされ、祈りの光を映しながら微かに煌めいている。


「愛と慈悲の光よ、仲間たちの魂を支え、最後の闇の残滓を浄化し給え。この地が永遠に平穏に満ちるよう、導き給え」

セレスティアの祈りが空間を震わせるたびに、瘴気魔獣の亡霊は呻き声をあげながら白い結晶となって崩れ落ちた。セレスティアは目を閉じたまま祈りを続け、その胸には仲間と世界への深い慈愛が宿っている。


■   ■   ■


ルレナ視点


剣を胸に抱えたまま、ルレナは仲間たちの背中を見つめ続けている。廃墟にはかつての戦いの激しさが深く刻まれているが、今や朝陽の光がすべてを優しく包み込み、草木が新たな命を芽吹かせている。ルレナは小さく息を吸い込み、目を潤ませながらつぶやいた。


「皆と一緒に歩む未来を、私は絶対に守りたい……」

その言葉は仲間たちの胸に届き、剣先から蒼光の祈りを放つルレナの想いが仲間の勇気に変わる。その光は闇の亡霊を完全に消し去り、平穏への道を照らし出していく。


■   ■   ■


――カイ視点


仲間の剣戟、呪文、矢、祈りが一つとなり、決戦の夜明けはついに終わりを告げた。かつて瘴気に覆われた大地には、新たな命の芽吹きを象徴する白い結晶が散りばめられている。カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷きながら仲間に向かって低い声で告げた。


「皆、この地に新たな夜明けをもたらしたのは、紛れもなく俺たちの光だ。ルクスの覚醒と仲間の祈りがあれば、どんな闇も消し去れる。これからは、この平和を守り続けるために歩みを止めない」

カイは剣先を天へ向け、蒼光を再び強く滾らせた。その光が戦場を包み込み、草木は陽光とともに揺れ、鳥のさえずりは希望の調べのように響き渡った。仲間たちは剣や杖、矢を胸に抱え、笑顔を浮かべながらカイの言葉を受け止めた。


「はい、カイ様!」

「私たちの光が、この世界を永遠に照らし続けます!」

「兄貴の背中は俺が護る――これからも闇を恐れず突き進む!」

「愛と慈悲の祈りを、この地に永遠に宿し続けましょう!」

「私は皆と共に、生きる未来を歩み続ける!」


その声が草むらの隙間から差し込む朝陽にこだまし、カイたちは再び歩み出した。朝靄に包まれた世界には希望の光が差し込み、彼らの存在が闇を照らし続ける約束となっている。どんな困難が訪れようとも、カイたちの光は決して消えることなく、この世界を守り抜く――。


86話終わり

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