84話 ルクスの覚醒
――カイ視点
薄紅の朝陽が魔王本陣跡地に差し込む頃、カイは剣ルクスを腰に納めたまま深い呼吸を繰り返していた。かつて瘴気に染まっていた大地は今や緑に覆われ、鳥のさえずりが静寂を破る。だが、カイの胸には再び戦いの予兆が湧き起こっていた。剣ルクスに宿る蒼光は以前にも増す輝きを放ち、どこからか囁くようにアリウスの魂が応える。カイは左腕の傷を押さえながら蒼光を揺らし、その輝きが戦意を呼び覚ますことを確かめた。
「……ルクスよ、お前の覚醒のときが来たのか」
カイは低く呟き、剣先を天へ向けると深呼吸を整えた。その瞳には揺るぎなき決意が宿っている。仲間を守り抜いたはずの世界に、再び闇の気配が忍び寄っている。カイは剣ルクスを抜き放し、蒼光を一閃させた。それは単なる光ではなく、アリウスの魂が宿る刃が覚醒しようとする予兆だった。
その刹那、かすかな轟音が辺りを震わせた。大地の奥底から瘴気の塊が湧き上がり、かつて魔王アズラエルが遺した瘴気の断片が集まりつつある。カイは剣先を揺らしながら、その瘴気の塊を見つめた。蒼光の刃が震えるたびに、瘴気の頂点が一瞬だけ揺らぎ、黒い影がうねりを見せる。カイは剣ルクスを握りしめ、仲間たちを呼び寄せるように短く口を鳴らした。
「リリアナたち、準備をしろ。ルクスが覚醒すれば、この瘴気を一掃できるかもしれない」
■ ■ ■
リリアナ視点
カイの号令を受け、リリアナは杖を高く掲げた。蒼光の結界を辺り一帯に張り巡らし、瘴気の塊を一瞬でも凍結させる覚悟で光を放つ。瘴気の塊は前よりも濃く、黒い渦となって辺りを覆おうとしている。リリアナは左腕の傷を押さえつつ詠唱を始めた。
「瘴気浄化・結界展開! 瘴気の渦をこの蒼光で凍結し、前進を阻む闇を霜へと変えよ!」
杖先から放たれた蒼光が瘴気の渦を包み込み、凍てついた瘴気は白い氷の結晶となって砕け散った。しかし瘴気はすぐに再生し、黒い塊の集合体として再び形を持とうとする。リリアナは呼吸を整え、次なる詠唱へと心を集中した。
「瘴気追放陣! 瘴気の残滓を吸い取り、一切の爪痕を浄化せよ!」
蒼光の結界が瘴気の残滓を吸い込み、瘴気の塊は白い霧となって蒸発していく。リリアナは仲間の背中を見守りながら、詠唱を止めずにさらに光を強めた。その光が辺りを高潔な蒼光で満たし、瘴気の塊が一度に崩れ落ちるように浄化された。
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マギー視点
リリアナの結界と瘴気追放陣を受けて、マギーは巻物を開き、瘴気断裂陣の最終詠唱を唱え始めた。地面に浮かび上がった白く光る紋様が、瘴気の頂点を裂くように走る。瘴気の塊はたちまち裂け目に吸い込まれ、黒い霧は音を立てて粉々に砕け散った。マギーは巻物を畳み、仲間を見渡しながら次なる瘴気抑制策を思考している。
「瘴気断裂陣は瘴気を断ち切るだけではなく、その源を浮かび上がらせる効果もある。この一撃でルクスの覚醒を導こう」
マギーは小さく呟くと、巻物を鞄に仕舞い込み、次の詠唱準備を万全にするために詠唱の構成を頭に描き続けた。
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ガロン視点
瘴気断裂陣が瘴気を断ち切ると同時に、ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、一気に前へ踏み込んだ。蒼光の刃先が瘴気の塊を次々と切り裂き、黒い塊は白い霜のように砕け散る。ガロンは剣先を揺らしつつ、瘴気の残滓を完全に払うために剣を振るい続けた。
「俺たちの光が、再び闇を打ち破る――カイの背中は俺が護る!」
ガロンは荒々しい呼吸を繰り返し、剣戟を止めなかった。剣ルクスの蒼光が瘴気の揺らぎを断ち切り、仲間の道を切り開いていく。その一撃一撃には、村と仲間を守る覚悟が込められている。
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ジーク視点
ガロンの猛攻を受けて瘴気の塊が崩れ落ちた隙に、ジークは短弓を肩に掛け直し、次の標的を探した。朽ちた石柱の向こうに瘴気の黒い影が漂い、その影がじわりと動く。ジークは矢を番え、的確に狙いを定めた。
「兄貴の背中は俺が護る! この一矢で、残る瘴気の影を消し去る!」
ジークは引き絞った弓を放つと、矢先は瘴気の影を貫き、瘴気の塊は白い結晶となって砕け散った。ジークは再び矢を番え直し、仲間の背中を護る覚悟を胸に刻んでいた。
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セレスティア視点
玉座の間跡地で静かに祈りを捧げるセレスティアは、杖先から放たれる淡い祈りの光を絶やすことなく放ち続けている。その祈りは仲間の蒼光の結界と共鳴し、瘴気の塊が生まれそうな空間を清浄化している。古代女神像の破片が薄紅の光に包まれ、闇を拒絶するかのように煌めいた。セレスティアは目を閉じ、祈りを深く紡いだ。
「愛と慈悲の光よ、瘴気の残滓を浄化し、仲間たちの魂を揺るぎなきものとせよ」
セレスティアの祈りが空気を震わせるたびに、瘴気の塊は凍結し、白い結晶となって砕け散った。セレスティアは祈りを止めず、仲間の背中を照らし続ける光の柱となっている。
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ルレナ視点
剣を胸に抱えたまま、ルレナは仲間たちの背中を見つめ続けている。朝陽に照らされた草むらの隙間から見える蒼光が、ルレナの銀髪を淡く染めた。ルレナは小さく口を開き、つぶやいた。
「皆がここにいてくれるから、私は一人じゃない……」
ルレナの言葉は暗闇に溶け込みながらも、仲間たちの心に温かい光を注ぐ。その想いは仲間の蒼光と祈りに重なり、瘴気の塊を完全に消し去る一助となっている。ルレナは仲間と共に歩む覚悟を胸に刻み込み、再び剣を胸に引き寄せた。
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――カイ視点
仲間の剣戟、呪文、矢、祈りが一つとなり、玉座の間跡地には蒼光が満ち溢れていた。瘴気の残滓は最早姿を現さず、清浄な空気が辺りを包んでいる。カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷きながら仲間に向かって低い声で告げた。
「皆、今こそルクスの覚醒のときだ! 蒼光の刃を天へ突き立て、瘴気を払う最後の一撃を放つ!」
カイは剣先を天へ向け、蒼光の輝きを極限まで高めた。その光が大空へと迸り、刹那、蒼光の閃光が玉座の間跡地を満たした。草むらはその光に染まり、瘴気の残滓は一瞬で凍結され、白い結晶となって地面に落ちた。大地は震え、鳥のさえずりが加速し、世界は新たな光を受け入れた。
まばゆい閃光の中で、カイは剣ルクスを高く掲げ、仲間たちは手を取り合って歓声をあげた。リリアナは涙を浮かべつつ杖を胸に抱え、マギーは巻物を閉じながら目を潤ませ、ガロンは剣を肩に担ぎ直し、達成感に満ちた笑みを浮かべた。ジークは矢を背負い直し、深く頷き、セレスティアは祈りの光を天へ解き放つ。ルレナは剣を胸に抱えたまま歓喜の涙を流し、仲間と共に歩む覚悟を胸に秘めている。
「これで……ルクスが真に覚醒した。アリウスの魂は完全に浄化され、この剣は永遠に世界を照らす光となるだろう」
カイは深く頷き、その背中には仲間と共に闘い抜いた誇りと、これから紡ぐ平和への希望が強く宿っている。
こうして、「ルクスの覚醒」の章は、剣ルクスが完全に覚醒し、瘴気を一掃する光となった瞬間で幕を閉じた。彼らの旅はまだ続くが、その先には紛れもなく、希望と平和が待ち受けている――。
84話終わり
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