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83話 戦いの火蓋

――カイ視点


朝靄が淡く残る魔王本陣跡地に、再び戦いの気配が立ち込めていた。剣ルクスを腰に納めたまま、カイは瓦礫と化した石畳の上を慎重に歩いた。かつての瘴気が完全に浄化されたはずのこの場所に、再び黒い影が差し込む。剣先から迸る蒼光が、草むらから潜む敵の気配を探り当てる。左腕の傷はまだ微かに疼くが、その痛みはカイを軋ませることなく、むしろ心を引き締める役割に変わっていた。


「……ここは、かつて戦場と化した場所。だが、仲間とともに乗り越えたからこそ、俺は今この剣を握って立っている」

カイは深く息を吸い込み、蒼光を強く揺らしながら近くの廃墟の影を見据えた。その先には、小規模な瘴気魔獣が二体、黒い瘴気を纏いながら潜んでいる。カイは剣ルクスを抜き放し、蒼光の輝きを一瞬に鋭く高めた。


「リリアナたち、準備を――」


その声と同時に、仲間たちの気配がいっせいに動き始めた。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイの号令を受け、リリアナは杖を両手でしっかりと握りしめた。蒼光の結界を足元に展開しながら、草むらの向こうに潜む瘴気魔獣を探る。瘴気は完全に消えたと信じていたが、その残滓がわずかに黒い影となって蠢いている。リリアナは左腕の傷を押さえつつも、詠唱を始めた。


「瘴気浄化・結界展開! どんな瘴気も、この蒼光の網で包み込み、凍てつかせる!」

杖先から放たれた淡い蒼光は、地面にひび割れた痕を埋めるように拡散し、小さな光の壁を形成した。その光は蒼白に揺らめきながら広がり、瘴気魔獣が放つ黒い瘴気を一瞬で凍りつかせる力となって跳ね返した。リリアナは息を整え、仲間を見渡しながら詠唱を止めずに結界を維持した。


「マギー、瘴気追放陣を重ねて。瘴気の残滓を完全に払うのよ!」


リリアナは蒼光の結界を強化しながら、マギーに合図を送った。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界を受けて、マギーは巻物を開き、瘴気追放陣の紋様を石畳に描き出した。紋様は白く浮かび上がり、瘴気魔獣の背後から広がっていた瘴気の残滓を引き裂くように吸い込み、空間を清浄化していく。瘴気の層は細かく砕けて白い結晶として砕け散り、マギーは次に瘴気断裂陣の詠唱を唱えた。


「瘴気断裂陣、発動! 瘴気の奔流を断ち割り、魔獣の影を抑え込め!」

マギーの詠唱とともに、床に浮かび上がった紋様が光を帯び、瘴気魔獣を取り囲む瘴気の層を一瞬で裂いた。その刹那、魔獣は怯えた咆哮を上げ、一歩後ずさった。マギーは巻物を閉じ、仲間へ視線を送って呼応を促した。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーの呪文が瘴気を斬り裂くとともに、ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、一気に前へ突進した。剣先から迸る蒼光が草むらの中の魔獣を一閃し、瘴気の塊ごと切り裂く。黒い瘴気は凍結され、白い霜のように粉々に砕け散った。ガロンは咆哮を上げる魔獣をさらに剣で薙ぎ払い、蒼光の刃先が闇を断ち割るたびに鋭い音が玉座の間までこだました。


「俺の剣が、お前たちの瘴気を打ち砕く!」

ガロンは蒼光の輝きを研ぎ澄ませながら、目の前の魔獣を蹴散らし、一秒たりとも隙を与えなかった。その剣戟の連続はまるで波濤となって瘴気を押し戻し、仲間の進路を確保した。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの猛攻に続き、ジークは短弓を肩に掛け直し、暗がりの中に潜む次の魔獣を探しながら矢を番えた。周囲には瘴気の残滓がかすかに揺れ、ジークの瞳は黒い影を捉える。


「兄貴の背中は俺が護る……ここで手を緩めるわけにはいかない!」

ジークは深く息を吸い込み、一瞬の静寂の中で狙いを定めた。次の瞬間、矢は瘴気の残滓を貫き、魔獣の黒い体を貫通した。魔獣は呻き声をあげながら崩れ落ち、その瘴気の痕跡は白い氷の結晶となって粉々に砕け散った。ジークは再び矢を番え直し、仲間の背中を護る覚悟を示した。


■   ■   ■


セレスティア視点


玉座の間の廃墟で祈りを捧げるセレスティアは、杖先から放たれる淡い祈りの光を絶やさずに放ち続けている。その祈りは仲間たちの蒼光の結界と共鳴し、瘴気の残滓を浄化する力となって場を満たしていた。古代女神像が微かに輝きを増し、闇の欠片を拒絶するかのごとく揺らめいている。セレスティアは目を閉じ、祈りの言葉を静かに紡ぎ続けた。


「愛と慈悲の光よ、仲間たちの魂を支え給え。瘴気の亡霊を打ち払い、平穏への道を照らし続け給え」

セレスティアの祈りが響くたびに、残留する瘴気の残滓は凍結し、白い結晶となって崩れ落ちた。セレスティアは目を開け、祈りの光が仲間の背中に注がれているのを確認して微笑んだ。


■   ■   ■


ルレナ視点


ルレナは剣を胸に抱えたまま、仲間たちの背中を見つめ続けている。かつては小柄で可憐だった彼女も、今は仲間と共に戦う戦士としての覚悟を胸に刻み込んでいる。廃墟の玉座の間に差し込む蒼光が、ルレナの銀髪を淡く照らし、剣先に秘められた光の祈りを感じ取っている。


「皆がいてくれて、本当に心強い。私は……ずっとみんなの祈りを送っていたから、力を合わせて闇を払うことができたんだね」

ルレナは小さく頷き、仲間と共にこの場を後にする決意を胸に刻み込んだ。


■   ■   ■


――カイ視点クライマックス


仲間の剣戟、呪文、矢、祈りが一つとなり、玉座の間には清浄な蒼光が満ち溢れていた。カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷きながら仲間に向かって低い声で告げた。


「皆、俺たちの光が闇を払った。再びこの地に平穏が訪れたんだ」

カイは剣先を天へ向け、蒼光を強く滾らせた。その光は玉座の間全体を包み込み、最後の瘴気の残滓を瞬時に浄化していく。まばゆい閃光が天井を突き抜け、闇は一瞬にして消滅した。


仲間たちは歓声と共に笑みを浮かべた。リリアナは杖を胸に抱え、涙を浮かべてほほ笑み、マギーは巻物を閉じながら目を潤ませ、ガロンは剣を肩に担ぎ直しながら蒼光を確かめた。ジークは矢を背負い直し、深く頷き、セレスティアは祈りの光を天へ解き放つ。ルレナは剣を胸に抱えたまま笑顔を浮かべ、仲間と共に歩み出す覚悟を胸に秘めている。


「これで……また一歩、未来へ進める。俺たちの剣と光は、この先もずっと世界を照らし続けるはずだ」

カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷いた。その背中には仲間と共に戦い抜いた誇りと、これから築く平和への希望が強く宿っている。


こうして、「戦いの火蓋」の章は、再び訪れた脅威を仲間の光で打ち払い、新たな未来へ向けた一歩を踏み出す瞬間で幕を閉じた。彼らの旅はまだ続くが、その先には紛れもなく、希望と平和が待ち受けている――。


83話終わり


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