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82話 魔王の威圧

――カイ視点


深紅の夕陽が玉座の間の残照を薄く浮かび上がらせる頃、カイは剣ルクスを腰に納めたまま静かに一歩を踏み出した。玉座の間はかつて瘴気と闇に包まれた場所だったが、今はかすかな静寂が漂い、ひび割れた大理石にわずかな草が根を張り始めている。カイは左腕の傷を押さえつつ、剣先の蒼光を確かめた。その光は、アリウスの魂を浄化した今もなお強く輝いている。剣ルクスの蒼光を頼りに一段ずつ階段を下り、カイは玉座の間の中心へと足を進めた。


「……ここが、最後の領域か」

カイがつぶやくと、静寂を切り裂くように低い闇の唸りが響いた。振り返る間もなく、暗闇の奥から漆黒の影が浮かび上がり、瘴気の名残すらない玉座の間を満たした。アズラエルの亡霊かと思うほどに冷たい威圧感が漂い、カイの鼓動を早める。剣ルクスを握りしめたまま、カイは覚悟を固めた。


「お前が……魔王アズラエルの亡霊か」

カイが低く呟いた瞬間、漆黒のマントをはためかせた影がゆっくりと姿を現した。そこにいるのは、瘴気の亡霊として蘇ったアズラエルだった。瘴気はもはや霧状ではなく、身を包む黒いオーラとなって粘りを伴い、その全身を覆っている。アズラエルは玉座に片膝をついたまま、漆黒の瞳でカイを見下ろしている。


「フフフ……よく来たな、カイよ。お前の剣は燦然と輝く光を放っているが、その光は深い闇の前では無力だ」

アズラエルの声は低く響き、まるで深い奈落からの囁きのようにカイの背筋を凍らせた。瘴気の黒いオーラが渦を巻くたびに、玉座の間の空気は歪み、壁に刻まれた古代文字が淡く煌めいた。カイは剣ルクスを強く握りしめ、蒼光を背負うように構えた。


「お前を倒してからも気配が消えない……だが今度こそ、この蒼光でお前の残滓を浄化してやる」

カイは剣先から迸る蒼光を強め、闇の亡霊へと向かって一歩踏み出した。その蒼光はアズラエルの黒いオーラを切り裂くように揺らぎ、壁面に映る影を淡く照らし出し続けた。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイの呼びかけに応じて、リリアナは杖を高く掲げ、蒼光の結界を玉座の間全体に張り巡らした。瘴気の亡霊として蘇ったアズラエルの威圧を前にしても、リリアナの眼差しには揺るぎなき覚悟が宿っている。杖先から放たれた蒼光の結界は、空間に薄い光の膜を描き、瘴気のオーラを緩やかに押し返している。


「瘴気浄化・結界展開! 闇の亡霊をこの蒼光で凍結し、浄化せよ!」

リリアナは詠唱を続け、杖先から放たれる蒼光の蒼波は魔王の亡霊に向かって飛び出し、一瞬だけ黒いオーラを染めた。瘴気の亡霊は呻き声をあげながらその場を揺らしたが、結界は揺るがず、瘴気の気配を徐々に薄めていく。リリアナは左腕の痛みをこらえ、仲間の背中を守る決意を胸にさらに詠唱を重ねた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界を補佐するように、マギーは巻物を広げて瘴気断裂陣を展開した。床に映し出された複雑な紋様が白く光り、瘴気の亡霊を引き裂くように亀裂が走る。魔王の亡霊は瘴気をまとったままアタックしようとしたが、断裂陣に触れるたびに瘴気が一瞬凍結し、黒い霧は細かく砕け散った。


「瘴気断裂陣、発動! 瘴気の亡霊を打ち砕き、瘴気魔獣の残滓を浄化せよ!」

マギーの詠唱とともに、瘴気の亡霊は黒いオーラを纏いながらも一度引き裂かれ、呻き声をあげながら後退した。マギーは次なる瘴気追放陣を準備し、瘴気断裂陣から続く呪文を頭の中で構成している。


■   ■   ■


ガロン視点


瘴気の亡霊を一時的に打ち崩した隙に、ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、一歩踏み出した。玉座の間の闇は深いが、剣ルクスの蒼光はその闇を切り裂く光の刃として冴えわたる。ガロンは剣先を揺らしつつ、鋭い瞳で魔王の亡霊を狙い定めた。


「お前の瘴気は、俺たちの光の前に塵と化す!」

ガロンは剣を振るい、一閃。その刃先から迸った蒼光は、瘴気の亡霊を追い詰めるように刹那的に踊った。瘴気の亡霊は呻き声をあげつつも、黒いオーラを再び膨張させるが、ガロンの剣戟は続けざまに蒼光を放つ。ガロンは全身からみなぎる剣士としての力を注ぎ込み、一撃ごとに闇を断ち割っていく。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの猛攻を受けて瘴気の亡霊が一瞬揺らいだ隙に、ジークは素早く短弓を構えた。暗がりの中に漂う瘴気の影を見極めながら、ジークは冷静に呼吸を整える。球体の瘴気が黒い魔獣のような形に変わり、ジークへ向かって飛びかかろうとした。


「兄貴の背中は俺が護る……一矢でお前を消し去る!」

ジークは矢を番え、放つ。その矢は瘴気の亡霊を貫き、瘴気のオーラを瞬時に凍結させた。魔獣の影は呻き声を上げながら崩れ落ち、瘴気の残滓は細かく砕けて消え去った。ジークは再び矢を番え、次の危機に備えた。その瞳には揺るぎなき覚悟が宿っている。


■   ■   ■


セレスティア視点


玉座の間で静かに祈りを捧げるセレスティアは、杖先から放たれる淡い祈りの光を絶やすことなく放ち続けている。その祈りの光は仲間たちを包み込み、瘴気の亡霊が再生しようとするたびに、その黒い痕跡を浄化する力となっている。古代女神像が微かに輝きを増し、闇を拒絶するかのごとく揺らめいている。


「愛と慈悲の光よ、瘴気の亡霊を滅ぼし、仲間たちの心を揺るぎなきものとせよ」

セレスティアの祈りが空間を震わせるたびに、瘴気の亡霊は呻き声をあげながら痕跡を忘れて消えていく。セレスティアは目を閉じたまま祈りを続け、その心には仲間と世界への深い慈愛が宿っている。


■   ■   ■


ルレナ視点


剣を胸に抱えたまま、ルレナは仲間の背中を見つめ続けている。玉座の間の漆黒の闇は瘴気の亡霊によって何度も形を変えようとしたが、仲間の光がすべてを浄化していった。ルレナは小さく息を吸い込み、目に涙を浮かべながらつぶやいた。


「皆、無事で良かった……私はずっと、皆の祈りを送ってたよ」

ルレナの言葉は暗闇に溶け込みながらも、仲間たちの心に温かい光を注いだ。その想いは仲間の蒼光と祈りに重なり、闇の亡霊を完全に消し去る一助となっている。ルレナはその光景を目に焼き付け、仲間たちと共に歩む覚悟を新たにした。


■   ■   ■


――カイ視点


仲間の剣戟、詠唱、矢、祈りが一つとなり、玉座の間に満ちた漆黒の闇はついに消え去った。カイは剣ルクスを腰に収め、深く頷きながら仲間を見渡した。リリアナは杖を胸に抱え、涙を浮かべて微笑む。マギーは巻物を閉じながら目を潤ませ、ガロンは剣を肩に担ぎ直し、剣先の蒼光を確かめる。ジークは矢を背負い直し、静かに頷き、セレスティアは祈りの光を天へ向けて解き放つ。ルレナは剣を胸に抱えたまま、仲間と共に歩を進める覚悟を胸に刻んでいる。


「これで……漆黒の威圧は完全に消え去った。俺たちの光が、この世界に希望を取り戻したんだ」

カイは剣ルクスを腰に収め、深く頷いた。その背中には、仲間と共に闘い抜いた誇りと、これから築く平和への希望が強く宿っている。


こうして、「魔王の威圧」の章は、魔王アズラエルの亡霊として立ちはだかった瘴気の威圧を仲間の光で打ち払い、真の平穏へと一歩を踏み出す瞬間で幕を閉じた。彼らの旅はまだ続くが、その先には紛れもなく、希望と平和が待ち受けている――。


82話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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