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81話 魔王アズラエルの玉座

――カイ視点


薄暮の闇が魔王本陣の玉座の間を包み込む頃、カイは剣ルクスを腰に納めたまま静かに足を踏み入れた。広大な玉座の間は四方を高い石壁が取り囲み、天井には無数の古代紋章が刻まれている。漆黒の瘴気は失われているが、その代わりに喪失感が深い闇を伴っていた。カイは剣先から迸る蒼光をわずかに揺らしつつ、一歩ずつ足元の石畳を確かめる。左腕の傷はまだ疼いているが、その痛みは闘いの名残ではなく、仲間と共に歩んだ日々の証として受け入れている。玉座の間の奥にそびえる漆黒の玉座は、今は静寂を保ちながらも、かつての魔王アズラエルの狂気を想起させた。カイは剣を握りしめ、蒼光を強く滾らせて視界を照らした。


「アズラエルの玉座か……ここからすべてが始まった」

カイは低く呟きながら、玉座の足元に刻まれた古代文字を見つめた。その文字には、漆黒の瘴気をもたらし、全世界を恐怖に陥れた邪悪の意志が古代語で刻まれているという。カイは剣先を揺らし、ルクスの蒼光を文字に当てた。文字は淡く光り、まるでアリウスの魂がその暗闇を解きほぐそうとするかのように輝いた。光が文字を浮かび上がらせると、カイは深呼吸を繰り返し、覚悟を新たにして足を進めた。


そのとき、玉座の背後に仕掛けられた古びた石扉がゆっくりと開き、暗闇の中からかすかな呻き声が漏れ出した。カイは剣先を引きながら、一瞬だけ目を見開いたが、すぐに冷静に構え直した。目の前に立つのは、瘴気を開放した魔王アズラエルが最後に残した怨霊のような存在――瘴気の残滓を吸収し、新たに形作られた影の魔獣だった。

「……まだ、終わっていないのか」

カイは低く呟き、剣ルクスを強く握りしめたまま一歩踏み出した。その背中には、仲間たちがここまでたどり着いてくれるとの想いが力となって刻まれている。カイは剣先から蒼光を迸らせ、我が身を照らした。その光が暗闇を震わせ、影の魔獣は再び呻き声をあげる。カイは剣を構え、覚悟を示すように剣先を揺らした。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイの号令と共に、リリアナは杖を高く掲げた。蒼光の結界を玉座の間全体に張り巡らし、瘴気の残滓すら許さない覚悟で光を放った。玉座の間を満たす薄い暗闇が、その光によって凍結されかけた瘴気の欠片に変わり、白い結晶となって砕け散る。リリアナは左腕の痛みを押し殺しながら、詠唱を続けた。

「瘴気浄化・結界展開! この場に残る闇をすべて凍てつかせ、浄化せよ!」

杖先から溢れた蒼光の波紋は、玉座の間の壁や玉座そのものに触れるたびに瘴気を裂き、凍結させる。瘴気の残滓は一瞬にして白い花のように散り、カイの足元を照らし出した。リリアナは視線を一度仲間に向け、小さく頷くと詠唱を止めずに、さらなる結界強化を続けた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界と共振するように、マギーは巻物を取り出して紋様を広間の床に描き出した。瘴気断裂陣の紋様が白く光り、まるで光の刃が天井から床へと走るかのように瘴気の固まりを裂く。影の魔獣が瘴気の渦から襲いかかろうと飛び出してきたが、その瘴気は裂け目に触れた瞬間に凍結し、黒い影は粉々に砕けて消え去った。マギーはすぐに呪文を続け、瘴気追放陣を展開して残りの瘴気を一気に浄化した。

「瘴気追放陣、発動! この場に残る瘴気の残滓を残さず消し去れ!」

マギーの詠唱に合わせて、瘴気の断片は白い霧となって蒸発し、玉座の間全体に清浄な空気が広がった。マギーは巻物を閉じると剣ルクスを見上げ、深い祈りと敬意を示すかのように微笑んだ。


■   ■   ■


ガロン視点


剣ルクスを肩に担ぎ直したガロンは、蒼光を頼りに玉座の間の奥へと進んだ。玉座の背後に伸びる通路の先で、影の魔獣が再び形を成そうとしている。しかしガロンの剣は揺るがない。

「俺たちの未来を奪おうとする闇がある限り、この剣を止めるわけにはいかねェ!」

ガロンは闇の中で光を放つ剣先を一閃させ、瘴気の固まりごと狙い撃った。その一撃は蒼光の刃として瘴気を切り裂き、影の魔獣を粉砕した。刹那、玉座の台座から漆黒の瘴気が新たに吹き出そうとしたが、ガロンはすぐに剣を振りかざし、蒼光の輝きを増幅させた。


「仲間の背中は俺が守る。この剣がある限り、何者にも渡さねェ!」

その言葉と共に、剣撃は闇を叩き割り、玉座の間に残る最後の瘴気を凍結させた。ガロンは重厚な息を整え、次の攻撃に備えた。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの一撃に続き、ジークは短弓を肩に掛け直し、闇の中に潜む影を探した。片足を固定し、夜の闇に目を凝らす。

「ガロン兄貴の背中は俺が護る……ここで揺らぐわけにはいかない!」

ジークは矢を番え、深い呼吸と共に標的を定めた。その矢先は影の魔獣の脳を狙い撃ち、瘴気をまとった魔獣は呻き声をあげるとゆっくり崩れ落ちた。ジークは素早く矢を番え直し、次の危機に備えた。その瞳には揺るぎなき覚悟が宿っている。


■   ■   ■


セレスティア視点


玉座の間で静かに祈りを捧げるセレスティアは、杖先から淡い祈りの光を放ち続けた。その祈りは仲間たちの背中を包み込むとともに、残存する瘴気の気配を浄化する光の柱を形成している。石壁の古代女神像が微かに光り、闇を拒絶するかのように輝きを増した。

「愛と慈悲の光よ、この地に残る闇の欠片を浄化し、仲間たちの祈りを受け止め給え」

セレスティアの祈りの声が空間を震わせるたびに、瘴気の気配が白い結晶となって砕け散った。セレスティアは目を閉じ、祈りを捧げ続けることで仲間たちに揺るぎなき希望を与えている。


■   ■   ■


ルレナ視点


剣を胸に抱えたまま、ルレナは仲間たちの背中を見つめ続けている。玉座の間には静寂が戻りつつあるが、その足元には瘴気の残滓と思しき黒い影が微かに揺れている。

「皆、私も祈ってる……皆が無事でいられますように」

ルレナは小さな声で呟き、剣先から放たれる蒼光の祈りを仲間へと注いだ。その祈りは仲間の蒼光と共に闇を浄化し、心の奥底に温かい光を灯す。ルレナはその想いを胸に刻み、仲間と共に歩む覚悟を新たにした。


■   ■   ■


――カイ視点クライマックス


仲間の剣戟、詠唱、矢、祈りが一つとなり、玉座の間には清浄な空気が戻りつつある。カイは剣ルクスを腰に収め、深く息を吐きながら仲間に向けて低い声で叫んだ。

「皆、俺たちの光が闇を払った。アズラエルの亡霊も、ここで永遠に消え去る!」

カイは剣先を天へ向け、蒼光を迸らせた。その光が玉座の間全体を包み込み、かつての瘴気の残滓を粉々に砕いていく。まばゆい閃光が天井を照らし出し、暗闇は一瞬にして消滅した。カイは深く頷き、仲間たちは歓声と共に笑みを浮かべた。リリアナは杖を胸に抱え、涙を浮かべて微笑む。マギーは巻物を閉じながら目を潤ませ、ガロンは剣を肩に担ぎ直しながら剣先を見つめた。ジークは矢羽根を整えつつ笑顔を浮かべ、セレスティアは杖先から放たれる祈りの光を天へ向けて解き放つ。ルレナは剣を胸に抱えたまま大きく息を吸い込み、仲間と共に歩み出す覚悟を胸に刻んでいる。


「これで本当に、すべてが終わった……」

カイは剣ルクスを腰に納め、深く頷いた。その背中には仲間と共に戦った誇りと、これから築く平和への希望が強く宿っている。


こうして、「魔王アズラエルの玉座」の章は、魔王の残滓を完全に浄化し、最後に仲間と共に勝利の光を共有する瞬間で幕を閉じた。彼らの旅はこの先も続くが、その先には紛れもなく、平穏と希望が待ち受けている――。


81話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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