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80話 魔王の気配

――カイ視点


朝靄が淡く消えゆく頃、カイは剣ルクスを腰に納めつつ、かつての戦場だった神殿跡地を歩いていた。大地に根を張った草が揺れ、鳥のさえずりが静寂を破る。だが、その静寂の中に微かに闇の残響がかすかに漂っている。カイは左腕の傷を押さえながら、目を細めた。

「まだ……何かの気配が残っている」

ルクスに宿るアリウスの魂から送られてきた微かな感覚が、魔王アズラエルとの決戦後にもなお緩むことなく胸の奥に響く。カイは剣先を揺らし、蒼光を灯しながら足元の草むらに潜む瘴気の残滓を断つ。劫火のごとく黒く広がる瘴気の名残が、かつての魔王の力を彷彿とさせる。だが、カイは剣ルクスの蒼光があれば、どんな闇も浄化できると信じていた。

「仲間と共に歩む新たな日々を脅かすものなら、この剣が必ず断つ」

カイは胸に誓いを刻み、仲間を呼び寄せるために短く口を鳴らした。遠くからリリアナの足音が近づき、マギーの静かな詠唱の気配、ガロンの重厚な呼吸が重なる。アズラエルの亡霊が呼び覚まされるような微細な震えを感じながら、カイは蒼光の剣を握り直した。険しい瞳の奥に揺れるのは、仲間とともに平和を守るという揺るぎなき決意である。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイの呼びかけに応じてリリアナは杖を手に駆けつけた。薄明かりに照らされる草むらの間から、まだくすぶる瘴気の残滓が漂い、胸元の懐かしい恐怖を呼び覚まそうとする。リリアナは杖を掲げ、蒼光の結界を周囲に張り巡らせた。光の壁が瘴気の残りを凍結させるたびに、リリアナ自身の左腕の痛みが一瞬痛烈に走るが、すぐに祈りの力が痛みを和らげる。

「カイ様、この地にまだ瘴気が残っていますね」

リリアナは小声で告げると、杖先から放たれる蒼光を強めた。光は瘴気を振るいながら地面へ流れ落ち、白い結晶となって砕け散る。リリアナは深く息を吸い込み、仲間の背中を照らし続けた。アズラエルとの戦いを終えたはずのこの世界に、新たな脅威が芽吹こうとしている。リリアナの心には不安と同時に、仲間を守る覚悟が強く宿っていた。


■   ■   ■


マギー視点


マギーは巻物を胸に抱え、瘴気の残滓を完全に浄化するための詠唱を呟き続けた。かつての魔王本陣の瘴気とは比べものにならぬほど微かな瘴気だが、その黒い影はアズラエルの残滓と結びついている可能性がある。マギーは巻物をそっと開き、瘴気断裂陣の最終詠唱を地面に映し出した。紋様は白く光を帯び、瘴気を引き裂くように亀裂が走る。瘴気の残滓は揺らぎながら砕け散り、やがて消え去った。

「これで斥候できました。瘴気の根はもう消えたはずです」

マギーは巻物を閉じると、仲間たちを見渡した。ガロンは剣を肩に担ぎ直し、冷静な眼差しで周囲を警戒している。ジークは短弓を肩に掛け、夜間の襲撃に備える構えを崩していない。セレスティアは杖を胸に抱え、淡い祈りの光を廃墟の石碑や柱へ優しく注ぎ続けている。ルレナは剣を胸に抱いたまま、小さく頷き、仲間に寄り添っていた。マギーは仲間の背中に安心を送りながら、次なる詠唱準備を頭の中で組み立てた。


■   ■   ■


ガロン視点


瘴気が消え去った廃墟の一角で、ガロンは剣ルクスを握りしめ、かつての激闘の傷跡を押さえながら周囲を見渡していた。石壁に刻まれた古代文字は今もかすかに輝いており、大地に刻まれた亀裂からはわずかに黒い瘴気の残滓が立ち上っている。ガロンは剣の蒼光を揺らし、周囲の影を断つように剣先を動かした。

「静寂の中にこそ、まだまだ危険は潜んでいる。油断は禁物だ」

ガロンは低く呟き、仲間たちに目線を送った。カイは深く頷き、剣先を天へ向けて瞑目している。ジークは短弓を構え、暗がりに潜む可能性のある敵影に目を凝らした。ガロン自身は剣戟の気配を探しながら、仲間を護る覚悟を胸に再び戦闘態勢を整えた。


突如、草むらの奥からかすかな足音が響いた。ガロンは剣を剣鞘から半ば抜き、剣先の蒼光を強めて音の出どころを見極める。ジークも矢を番えつつ構えを強化し、リリアナは結界をさらに強く張り巡らせた。周囲の空気が一瞬凍りつくように沈黙が訪れ、ガロンの胸には不穏な予感が走った。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの驚きに続き、ジークは暗闇から現れるはずの敵影を鋭い視線で探していた。短弓を肩に掛けたまま息を殺し、足音の先に潜む何かを探る。ルクスの蒼光が暗がりをかすかに照らし、ジークの瞳に黒い影が浮かび上がる。

「……あれは?」

ジークはそっと矢を番え直して狙いを定めた。暗がりからゆっくりと現れたのは、古代神殿の石像に似た巨岩の影だった。ジークは矢を手放すと同時に足音を鳴らし、仲間へ警戒を促す。

「ガロン兄貴、何かが来る!」

ジークの声に、ガロンは剣先を一閃させて岩の影を斬り裂いた。そこから飛び出してきたのは瘴気を帯びた古の魔獣だった。ジークは反射的に矢を放ち、魔獣の眼を射抜いて止めを刺す。魔獣は呻きながら崩れ落ち、瘴気の塊は一瞬で消え去った。ジークは矢を背負い直し、次の危険に備えた。


■   ■   ■


セレスティア視点


暗がりで繰り広げられた戦闘の音を捉えたセレスティアは、杖を胸に抱えて淡い祈りを捧げた。祈りの光は仲間の背中を包み込み、瘴気の気配を感知すると瞬時に光を強めて浄化する。廃墟の石畳にはかすかな瘴気の陰が揺れたが、セレスティアの祈りはそれを白い霧へと変えた。

「愛と慈悲の光よ、仲間を護り、闇の残滓を浄化せよ」

セレスティアの祈りが空間を震わせると、瘴気の残滓が一気に凍結し、白い結晶となって消え去った。セレスティアは目を閉じ、小さな微笑みを浮かべた。


(これで……仲間の背中をまた護れた。これからも、祈りを絶やさずにこの世界を守り続ける)


■   ■   ■


ルレナ視点


セレスティアの祈りが響く中、ルレナは剣を胸に握りしめたまま立っていた。草むらの隙間から差し込む陽光を浴び、薄い蒼光が剣先に揺れる。ルレナは目を輝かせながらつぶやいた。

「皆がここにいてくれて、本当に良かった……!」

ルレナの言葉は暗闇に溶け込みながらも、仲間たちの心に暖かい光を注ぐ。ルレナは小柄な体ながらも、揺るぎなき決意を胸に、再び仲間とともに未来へ歩き出す覚悟を固めた。


■   ■   ■


――カイ視点


瘴気を断ち切り、仲間と共に何度も立ち向かって得た静寂。だが、その静寂の中には魔王アズラエルの残滓がわずかに残り、依然として油断ならぬ気配が漂っている。カイは剣ルクスを腰に収めると、仲間を振り返り深く頷いた。

「皆、この地にまだ魔王の気配が残っている。しかし、我々は共に歩んできた。これからも、どんな闇が訪れても必ず光を灯し続ける」

カイは剣先を揺らし、蒼光を強く滾らせた。その光は廃墟と化した神殿を包み込み、暗闇を振り払う。仲間たちは一斉に剣や杖、矢を構え、笑顔を浮かべながらカイの言葉を受け止めた。

「はい、カイ様!」

「私たちが闇を打ち払います!」

「俺の矢も、皆の笑顔を守る盾だ!」

「愛と慈悲の光を、この地に永遠に宿すのです!」

「私は皆と共に、生きる未来へ歩み続ける!」


その声が神殿の石壁にこだまし、カイたちは再び歩き出した。朝靄に包まれた世界には鳥のさえずりが響き、束の間の静寂を祝福するかのように草木が揺れている。魔王アズラエルは倒されたが、その気配はわずかに残り続ける。だが、仲間がいれば恐れるものは何もない。彼らの蒼光は、闇を永遠に打ち破る光として世界を照らし出すだろう。


こうして、「魔王の気配」の章は、魔王を倒した後にもなお残る闇の気配を仲間と共に打ち消しながら、新たな未来へ歩き出す瞬間で幕を閉じた。彼らの旅は静かに続き、希望の光は永遠に消えることなくこの世界に宿る――。


80話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

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