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79話 静寂の中で

――カイ視点


魔王アズラエルを打ち倒してから数日が経過した。廃墟と化した神殿の中心に咲いた草木が、静かに命の息吹を取り戻している。カイは剣ルクスを腰に納め、朝靄に包まれた神殿跡地の石畳をゆっくりと歩いていた。かつて狂気と絶望の瘴気で満たされていたこの場所は、今や穏やかな空気が漂い、戦いの爪痕を忘れさせるかのように鳥のさえずりが微かに響いている。

「これが……本当の静寂か」

カイは手を剣の柄にかけたまま、かすかな風に揺れる草の葉先を見つめた。左腕の傷はまだ疼いているが、その痛みはもはや恐怖ではなく、戦いを乗り越えた証として受け入れつつある。カイは深く息を吸い込み、仲間たちが無事かどうか気遣いながら、ゆっくりと石段を降りた。


廃墟の大広間へと続く通路は、かつての戦いで崩れた石壁から漏れた光が淡く差し込み、床に模様のような影を描いている。その影を踏まぬようにカイは歩き、かつてリリアナやマギー、ガロンたちとともに敵と対峙した記憶が蘇る。仲間と交わした誓い、流した涙、そして最後の一撃を思い出すと、心の奥底から温かいものが込み上げてきた。


「皆は……どうしているだろうか」

カイはつぶやきながら広間へと足を踏み入れた。そこには、かつての戦いで損なわれた石像や柱の破片が散乱していたが、今は崩れた石壁の隙間から緑が芽吹き、世界が再生しつつあることを示していた。カイは腰に納めたルクスに触れ、その青白い輝きを確かめた。ルクスの中に宿るアリウスの魂は、今や真の光となってカイと世界を見守っている。


カイは静かに祈りを捧げた。

「アリウスの魂よ、君の導きがあったからこそ、俺はここまでたどり着けた。これからはこの世界を共に歩み、命ある者たちを守る剣となりたい」


その誓いを胸に、カイは仲間たちのもとへ戻ろうと、足を向けた。


■   ■   ■


リリアナ視点


大広間の外に設けられた小さなキャンプ地で、リリアナは杖をそっと地面に置き、大きく息を吐いた。その肩には依然としてリンゴ大の瘴気の残痕が微かにくすぶるが、目の前には穏やかな朝の光が差し込み、仲間たちの姿が柔らかく映っている。リリアナは杖を胸に抱き、静かに瞳を閉じた。


「瘴気が完全に消え去る日が来るなんて、想像していなかった……」

リリアナはつぶやきながら、自分の左腕の傷口を撫でた。かつては痛みや恐怖で何度も心が折れそうになったが、カイや仲間たちの支えがあったからこそ、今の自分がある。リリアナは深く息を吸い込み、顔を上げた。そこにはマギーやセレスティア、ガロン、ジーク、ルレナが、ほほえみながら自分を見つめている。


リリアナは微笑みを返し、杖を持ち直して仲間のもとへ歩み寄った。マギーは巻物を膝の上に置いて、戦いの後片付けをしている。ガロンは剣ルクスを腕に掲げ、青空を見上げている。ジークは短弓を膝に立て、黙々と矢羽根を整えていた。セレスティアは祈りの光を手のひらに宿しながら、静かに歌うように祝福の言葉を口にしている。ルレナは杖をゆっくりと振りながら、仲間の顔をひとりひとり確かめるように見つめていた。


リリアナは杖を揺らし、美しい蒼光を放って笑みを浮かべた。

「皆、本当にお疲れさま。これでやっと安心して眠れるわね」


マギーは巻物を閉じて顔を上げ、穏やかな表情で頷いた。

「瘴気はすべて浄化され、魔王アズラエルの脅威も消え去った。ここからは復興のために力を尽くすだけね」


ガロンは剣を肩に担ぎ直し、疲れた笑顔を浮かべた。

「お前の結界と呪文があったからこそ、ここまで戦えた。これからは新しい世界を共に守ろう」


ジークは矢羽根をひと吹きして笑みを見せた。

「兄貴や皆がいたから、俺は逃げずに戦えた。これからは皆と一緒に笑っていこうぜ」


セレスティアは祈りの光を消し、穏やかに口元を緩めた。

「皆が無事で嬉しいです。これからも命ある者たちが生きやすい世界を、私たちの祈りと光で照らしていきましょう」


ルレナは杖を胸に抱えたまま、はにかんだように頷いた。

「私は……皆と一緒に、新しい未来を歩きたい!」


リリアナはその言葉を聞いて、胸の奥が温かくなるのを感じた。仲間たちと共に、戦いではなく、今度は復興のための歩みを始めるのだという実感が、心の底から湧き上がってきた。


■   ■   ■


マギー視点


小さなキャンプ地で、マギーは巻物を閉じた手を握りしめながら、仲間たちと談笑している。古代神殿の破片を集めて再利用できる素材を選別する作業の合間に、マギーはみんなの顔を見回し、安堵の表情を胸に刻んでいた。


「これで瘴気は完全に浄化された。あとはここに住む人々のために、知識と呪文を活かして土地を癒す必要があるわね」

マギーは小さくため息をついた後、ふと空を見上げて考え込んだ。自分が情報屋として培ってきた洞察力や呪文の知識は、これからの復興に役立てるべきだと改めて思い知った。マギーは決意を新たにし、口元に微笑みを浮かべた。


「私は、ここで知識を伝え、呪文を教え、皆が安心して暮らせる場所を作りたい」

そう呟いてマギーは仲間に視線を向けた。リリアナは笑顔で応え、セレスティアは優しくうなずき、ガロンとジーク、ルレナもそれぞれ頷いていた。その姿を見て、マギーは胸の奥にかすかな希望が溢れるのを感じた。


■   ■   ■


ガロン視点


かつて魔王軍の侵攻を食い止め、仲間を守り抜いた剣を肩に担ぎ、ガロンは石畳の上に腰を下ろしていた。陽光が大きく開いた天井の裂け目から差し込み、剣の柄を金色に照らしている。ガロンは剣を手に取り、剣先をそっと揺らしながら深く息をついた。


「戦いは終わった。でも、これからが俺たちの本当の戦いだ」

ガロンは剣を背中にかけ直し、仲間たちの背中を見渡した。リリアナは杖を休め、マギーは巻物をしまい、セレスティアは穏やかに祈りを捧げ、ジークは矢羽根を整え、ルレナは目を輝かせていた。ガロンはそのすべてを見届け、拳を強く握りしめた。


「俺は剣士として、そして仲間として、この世界を支える。皆が笑える未来を作るために――俺は何としても剣を振るい続ける」


その言葉と共に、ガロンは立ち上がり、剣を腰に収めると、仲間と共に歩み出した。


■   ■   ■


ジーク視点


石畳の上に立ったまま、ジークは短弓を肩に掛けたまま深く息をついた。かつては盗賊として己の命を優先して逃げた弱い自分を思い返しながら、今の自分を支えてくれた仲間たちへの感謝が胸の内に溢れていた。ジークは矢を手に取り、一本の矢先を夜空にかざしながらつぶやいた。


「兄貴やリリアナ、マギー、セレスティア、ルレナ……皆がいたから、俺はここまで来れた。これからは、誰かのために矢を放つ。皆の笑顔を守るために――俺はもう、逃げない」


その想いを胸に、ジークは仲間とともに廃墟の中を歩き始めた。


■   ■   ■


セレスティア視点


仲間たちが再び歩み出す中、セレスティアは杖をそっと地面に突き、深い祈りを捧げていた。花が咲き誇るように復興への光が世界を包むことを願いながら、その祈りは風に乗って仲間たちの背中へ優しく降り注いでいる。


「愛と慈悲の光よ、新たな命の芽吹きを導き給え。そして、この世界が争いではなく平和を紡ぐ場所となるよう、導き給え」

セレスティアは目を閉じたままその祈りを最後まで紡ぎ、微かに目を開くと、穏やかな笑みを浮かべた。その笑みは、すべての命を尊び、癒しの光を信じる聖女としての覚悟を示している。


■   ■   ■


ルレナ視点


神殿跡地の草むらの中で、ルレナは剣を胸に抱えたまま仲間の背中を見つめていた。廃墟の石の隙間から伸びた緑の芽が、ルナの足元で揺れる。ルナは小さく息を吸い込み、目を輝かせながらつぶやいた。


「皆と一緒に笑える未来が、本当に訪れるんだね……!」

ルレナは剣先を揺らし、小さな体を震わせながら、目に涙をにじませたが、その涙は喜びと希望の光を映している。その小さな笑顔は仲間の心にさらなる希望の灯をともした。


■   ■   ■


――カイ視点


廃墟の神殿跡地に吹き渡る穏やかな風が、カイの心にも柔らかな安堵を運んできた。剣ルクスを腰に収め、仲間と共に歩む道にはまだ多くの課題が待ち受けている。しかし、カイはかつてないほど強い決意を胸に抱いていた。


「皆、ここからが新しい旅の始まりだ。共に歩み、共に笑おう。どんな困難も乗り越えられる――仲間とアリウスの光がある限り、俺たちは必ず未来を切り開ける」


カイは剣先を軽く揺らしながら、仲間たちと共に再び歩き出した。鳥のさえずりが遠くから響き、新たな命の息吹が世界を包み込んでいる。静寂の中に流れる希望の光は、カイたちが紡ぐ新しい伝説の始まりを告げていた。


79話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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