77話 ベルナールの最後の挑戦
――カイ視点
朝靄が残る古代神殿の中央部、カイは剣ルクスを腰に収めたまま深呼吸を繰り返していた。祭壇で魔剣の真実を知り、ルクスに宿る英雄アリウスの魂を浄化したことで、蒼光は以前にも増して強く刃先に宿っている。背後には仲間たちの気配があり、その支えを感じながらも、カイはこれから繰り広げられる「ベルナールとの最終決戦」を思い浮かべていた。
「リリアナ、準備はいいか? これからは、奴を倒すための最後の戦いだ」
カイは深く頷きながら剣先を揺らし、蒼光の輝きを確かめた。その光が古代文字に反射し、壁面に淡い光の帯を描き出している。リリアナは杖を強く握りしめ、頷いて蒼光の結界を展開している。
「カイ様、すべての呪文を準備しています。瘴気を消し去り、仲間の盾となる結界を張る準備は万全です」
リリアナの声はかすかに震えていたが、その眼差しには揺るぎなき決意が宿っている。カイは深く頷き、仲間に視線を巡らせた。マギーは巻物を胸に抱え、呪文構成を最終調整している。ガロンは剣を肩に担ぎ直し、鋭い眼光で神殿の奥を見据えている。ジークは短弓を背中に掛け直しながらも、狙いを定める準備を整えている。セレスティアは杖を胸に抱え、祈りの光を壁面に向けて放ち続ける。ルレナは小さく剣を握りしめながら、仲間と共に立つ覚悟を胸に刻んでいる。
■ ■ ■
ベルナール視点
神殿の奥の闇に潜み、ベルナールは漆黒のマントをはためかせながら、冷笑を浮かべていた。瘴気の気配は消え去ったはずのこの場所に、かすかな残香だけが漂っている。しかしベルナールは、魔剣ルクスに宿るアリウスの魂が浄化されたことを知り、なおも強い憎悪を抱えていた。
「愚か者どもが……ルクスは既に光を取り戻した。だが、お前たちの光など知れたもの。瘴気よりもなお深い闇を、お前の心に刻み込んでやろう」
ベルナールは両手で杖を抱え、先端から瘴気の残り火を呼び覚ます呪文を静かに詠唱した。瘴気の残滓が集まり、彼の背後に小さな黒い渦が生まれた。
「カイ……お前はルクスの光を信じている。しかし、その光は時に人を盲目にする。お前の胸にある後悔と憎悪を曝け出せば、光は闇に呑まれるだけだ」
ベルナールは呟き、その声はかすかに壁に反響した。彼の瘴気は黒い塵のように舞い上がり、神殿の天井へと吸い込まれていく。
■ ■ ■
――カイ視点
ベルナールの呟きに反応して、カイは剣先をゆらめかせながら額に皺を寄せた。アリウスの魂が浄化されたと言っても、カイ自身の抱える後悔は消え去っていない。幼少期に守れなかった家族への想い、異世界の自分を知られることへの恐怖、そして仲間の命を賭けてここまで来た責任。
「俺の心にある憎悪と後悔……確かに消えたわけじゃない。だが、だからこそ俺はこの光を信じる。仲間と共に歩むために、俺は光となる」
カイは強く剣ルクスを握りしめ、蒼光を揺らめかせた。その光が壁面の文字を再び浮かび上がらせ、エネルギーを帯びて周囲を照らし出す。ベルナールはその光を見て不気味な笑みを浮かべた。
「フッ……やはり、お前にはまだ迷いがある。ならば、これからお前の心を直接抉り出してやる」
ベルナールは両手で杖を掲げ、呪文を一気呵成に詠唱した。
「黒き瘴気よ、愚かなる光を蝕み、その心を闇へと引きずり込め!」
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リリアナ視点
ベルナールの呪文が炸裂した瞬間、リリアナは杖を掲げたまま深く息を吸い込んだ。瘴気を呼び覚ます呪文に応えるかのように、黒い瘴気の柱が神殿内部に吹き上がった。リリアナは声を張り上げながら詠唱を続けた。
「瘴気浄化・結界展開! お前の瘴気など、この蒼光で粉砕してみせる!」
杖先から放たれた蒼光の結界が瘴気の柱に向かって飛び出し、瘴気を凍結させながら小さく砕きつつ下へ落とした。だが、瘴気の勢いは強く、結界を揺るがして跳ね返そうとする。リリアナは左腕の痛みを押し殺しながら、詠唱をさらに強めた。
「瘴気追放陣! 瘴気の残滓を許さず、完全に浄化せよ!」
リリアナの詠唱に連動して、瘴気の柱が一瞬揺らぎ、結晶化して砕け散った。リリアナは涙をにじませながらも仲間を見渡し、その眼差しに揺るぎなき決意を映し出した。
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マギー視点
リリアナの結界と瘴気追放陣を受け止めたマギーは、巻物を素早く開いて瘴気断裂陣を展開した。地面に刻まれた紋様が白く光り、瘴気の渦を裂くように走る。黒い瘴気の柱は一瞬で散り、瘴気魔獣が影となって神殿奥から飛び出してきたが、断裂陣がその瘴気と魔獣を一気に切り裂いた。
「瘴気断裂陣、発動! 瘴気と魔獣を打ち砕け!」
マギーの詠唱が完了すると、瘴気は痕跡もなく消え去り、魔獣の影は砕け散った。マギーは巻物を閉じて、仲間たちの背中を見上げながら呟いた。
「リリアナの結界と私の呪文があれば……這い上がることはできないはずです」
■ ■ ■
ガロン視点
瘴気と魔獣の影が消え去った神殿内部で、ガロンは剣ルクスを強く握りしめながら一歩前へ踏み出した。壁面には古代文字が淡く光り、ガロンの蒼光がそれを映し出す。ガロンは剣先を揺らしつつ、冷たい戦意を胸に刻んで進んだ。
「カイの背中は俺が護る。この闇を乗り越えた先に、仲間と村の未来が待っている」
ガロンは剣を振るいながら前方を見据え、わずかに揺れる蒼光で足元の罠を切り裂いた。神殿の床に仕掛けられた罠は瘴気の瘤の如く闇を孕むが、ガロンの剣はそれを断ち切り、仲間の進路を確保した。
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ジーク視点
ガロンの猛攻を見届けたジークは、短弓を肩に掛け直しながら暗がりに目を凝らした。神殿の奥には瘴気の気配がわずかに残り、その影の中で魔獣が潜んでいる。ジークは息を整え、矢を番える。
「ガロン兄貴の背中は俺が守る……剣戟の音が近づくたびに、俺の矢が闇を切り裂く」
ジークは狙いを定め、矢を放った。矢は瘴気をまといながらも正確に標的を捉え、魔獣は苦悶の呻き声をあげて崩れ落ちた。ジークは再び矢を番え、次の危機に備えた。
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セレスティア視点
神殿奥で静かに祈りを捧げるセレスティアは、杖先から放たれる淡い祈りの光を尽きることなく放ち続けている。その光は仲間たちの魂を包み込み、瘴気を断ち切る蒼光と共鳴しながら闇を払いのけていた。
「愛と慈悲の光よ、仲間たちの心を揺るぎなきものとし、闇の中でも希望を失わぬ光となり給え」
セレスティアの祈りが古代文字を揺らし、杖先から放たれた光が壁面に走る。古代女神像は微かに目を開き、揺らめきながら闇を拒むように輝きを強めていく。セレスティアは目を閉じたまま祈りを続け、その胸に刻まれた覚悟を新たにした。
■ ■ ■
ルレナ視点
暗がりの神殿内部を照らす祈りの光に包まれながら、ルレナは剣を胸に握りしめて立っていた。その小さな身体には冷たい瘴気の気配が染みついているが、仲間と共に闘う覚悟が胸を支えている。ルレナは小さな声で呟いた。
「皆、ありがとう…私はここで祈り続けるから。あなたたちが勝利することを信じてる」
その言葉が暗闇にこだまし、仲間は一瞬目を向けて深く頷いた。ルレナの想いは、仲間の背中に温かい蒼光を注ぐ。
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――カイ視点
瘴気の源を断ち切り、魔剣の真実を知ったカイは、剣ルクスを腰に収めたまま仲間と共に神殿最深部の間へと足を踏み入れた。そこには祭壇と同じく深い溝のようなひび割れが走る床があり、中央には巨大な円形の扉がそびえ立っている。その扉には、魔王アズラエルの紋章が刻まれており、暗い瘴気の気配が扉の向こうから漏れ出している。
「これが……魔王アズラエルの間への入り口か」
カイは剣先を向けながら扉を見上げ、仲間たちに告げた。リリアナは杖を掲げ、蒼光の結界を扉にかぶせるように展開する。マギーは巻物を胸に抱えながら呪文構成を最終チェックし、ガロンは剣を肩に担ぎ直し、刃先を揺らしながら剣戟の気配を探る。ジークは短弓を肩に掛け直し、矢の羽音を静かに鳴らしながら着弾の瞬間を思い描く。セレスティアは杖を胸に抱え、祈りの光を扉に向けて放ち続ける。ルレナは剣を胸に抱えて、命を賭けて闘う覚悟を胸に刻んでいる。
カイは剣ルクスを強く握りしめ、静かに息を吸い込んだ。
「皆、最後の一撃だ。俺たちの全てをこの扉にぶつけよう。リリアナ、マギー、セレスティアの光と呪文を纏わせて、扉を開くんだ!」
カイの号令と共に、一行は一斉に行動を開始した。リリアナは蒼光の結界をさらに強力に膨らませ、扉の前に光の壁を築いた。マギーは巻物を広げ、瘴気断裂陣を発動し、瘴気の塊を霧散させるように裂け目を走らせた。セレスティアは杖を掲げて祈りの光を天へ解き放ち、その光が壁面に反射して神殿の奥まで届く。ガロンは剣ルクスを振るい、蒼光の刃先が瘴気の残滓を断ち切りながら扉を削っていく。ジークは短弓を構えつつ、一瞬だけ扉に息を吹きかけ、矢を放つ。矢は瘴気を帯びながらも正確に扉の中心部を貫き、そのまま瘴気の塊を断ち割った。ルレナは剣を揺らしながら仲間の背中を鼓舞し続けている。
その刹那、扉を覆う瘴気の層が一気に崩れ落ち、巨大な閃光が扉越しに漏れ出した。次の瞬間、古代文字が躍動し、鉄の扉はゆっくりと開き始めた。中からは不気味な低い唸りと共に、溢れ出す瘴気が一行を襲おうとする。カイは剣先を天へ向け、仲間と拳を固く握りしめた。
「皆、いくぞ! これが……俺たちの光だ!」
カイの声が神殿内にこだまし、仲間たちは剣や杖、矢を構えながら扉の向こうへ一歩を踏み出した。その先には、漆黒の闇が広がっているが、カイの蒼光と仲間たちの祈りは闇を切り裂き、次なる舞台――魔王アズラエルとの最期の対峙へと一行を導くのであった。
77話終わり
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