表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/100

71話 魔王軍本陣への侵入

――カイ視点


夜明け前の薄闇が辺境の門を覆う中、カイは剣ルクスを腰に収め、静かに息を整えた。古びた大扉の向こうに続く広間は、闇に沈む巨大な空間のように見える。燭台がほとんど消えかけた炎を揺らし、石畳に光と影を刻み込んでいる。仲間たちが潜む出口は、大扉の脇に隠れる側扉だった。今夜が裏口からの侵入のチャンスだと判断し、カイは深く頷くと仲間たちに号令をかけた。


「皆、ここからだ。リリアナ、先導を頼む。瘴気を封じながら進もう」

カイの低い声に反応し、仲間たちは静かに周囲を見渡して身構えた。背後には岩肌を這う瘴気がわずかに揺らめいている。カイはルクスを軽く揺らし、刃先に宿る蒼光を確認した。いよいよ魔王軍本陣への最終侵入が始まる。


カイは大扉に刻まれた古代の紋様を凝視し、内側に手をかけると、側扉の錠を外す音がかすかに響いた。リリアナが杖を掲げ、蒼光の結界を大扉の周囲に展開して瘴気の侵入を阻む。マギーは巻物を開き、瘴気断裂陣の紋様を地面に薄く浮かび上がらせた。ガロンは剣を肩に担ぎながら、目を細めて暗闇を見据え、ジークは短弓を抱えつつ仲間の背後を警戒している。セレスティアは両手で杖を抱え、祈りの光を大扉の向こうへそっと放つ。ルレナは剣を小さく握り締め、緊張の面持ちでカイの動きを見守っている。


「行くぞ」

カイは静かに呟き、大扉を押し開いた。一瞬だけ腐食した鉄の軋む音が鳴り響き、重厚な扉がゆっくりと開いた。中から流れ出る瘴気の気配に、リリアナの結界が一瞬揺らぎ、カイは剣を振るって瘴気を切り裂いた。暗闇の奥に続く廊下には、無数の影が蠢いている──魔王軍の誇る衛兵や魔獣たちだ。カイは仲間と視線を交わし、その背後に並んで一歩ずつ廊下へ足を踏み入れた。


■   ■   ■


リリアナ視点


大扉の開放と共に瘴気の奔流が襲いかかり、リリアナは杖を両手で抱いて祈りを唱えた。蒼光の結界が大扉を覆い、瘴気の黒い霧を押し返す。壁に刻まれた古代文字が淡く輝き始め、リリアナは左腕の傷の痛みをこらえながらも詠唱を止めない。


「瘴気浄化・結界展開……仲間を守る光を、この場に燃え立たせる」

リリアナは杖先から放たれる蒼光を廊下の天井へ向け、瘴気を断ち切る楔を描くように輝かせた。黒い瘴気は瞬く間に凍りつき、細かく砕け散って白い結晶となり、床に落ちて消えた。リリアナはゆっくりと息を吐き、仲間の背中を見据えながら詠唱を続けた。


廊下の奥には複数の影が蠢き、一体は甲冑に覆われた衛兵、一体は瘴気魔獣の暗影だ。リリアナの結界がある限り、瘴気は消え続けるが、油断すればすぐに再び濃密な瘴気の壁が立ち込める。リリアナは決意を込めて杖を握り、次の呪文を心に構えた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界に続き、マギーは巻物を広げて瘴気断裂陣を詠唱した。地面に浮かんだ紋様が白く輝き、瘴気を断ち割るように裂ける。瘴気魔獣の咆哮が闇にこだまし、霧状の瘴気の塊が一瞬揺らめいたが、すぐに断裂陣の光が襲いかかり、魔獣の姿は黒い影のまま崩れ落ちた。マギーは次に瘴気追放陣を展開し、瘴気の残余を結界から押し返す。


「瘴気追放陣、発動! 瘴気をこの場から消し去るのです」

マギーの詠唱に合わせて、瘴気は白い霧となって蒸発し、冷たい空気だけが廊下に残った。マギーは巻物を閉じて視線を仲間に向け、深く頷いた。カイたちはマギーの援護を受けながら、一段ずつ石畳を踏みしめる。


■   ■   ■


ガロン視点


リリアナとマギーの援護を受け、ガロンは剣ルクスを握りしめ、重厚な足取りで先陣を切った。甲冑の衛兵が配する瘴気の槍が廊下を横切るも、ガロンの剣撃は蒼光の刃となって瘴気を伴う槍を両断した。瘴気魔獣が襲いかかろうと跳びかかるも、ガロンは一閃でその巨体を蹴散らした。


「この扉を越えれば、禁忌の祭壇を経て魔王本陣だ。俺たちの誇りを賭けた一撃を、今、この場所で示す!」

ガロンは剣を振るうたびに蒼光を迸らせ、瘴気の残余を断ち切りながら仲間を導く。彼の剣戟は闇を切り裂く音を立て、無数の瘴気魔獣や衛兵を打ち倒していった。ガロンの胸には仲間と村の希望が灯っている。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの猛撃で通路が安全になりつつある中、ジークは短弓を構えて暗がりに潜む敵影を探した。狭い廊下には石灯籠が並び、ジークの瞳にはわずかな闇の揺らぎが映る。彼は息をゆっくり吸い込み、狙いを定めた。


「ガロンの背中は俺が守る。盾となる矢を放つぞ!」

ジークは迷いなく矢を放ち、瘴気を纏う衛兵の胸を貫いた。瘴気の炎が一瞬揺らめき、衛兵は呻いて倒れた。その先でも次々と影が襲いかかってくるが、ジークの一矢が闇を切り裂く。


「次の標的は瘴気魔獣だ!」

ジークは短弓を肩に掛け直し、狙いを魔獣に定める。弓弦が弾く音と共に放たれた矢は、瘴気の塊を切り裂きながら魔獣の一撃を防ぎ、その巨体を地面に沈めた。ジークは再び矢を番え、次なる危機に備えた。


■   ■   ■


セレスティア視点


ガロンとジークが先導する中、セレスティアは杖を胸に抱え、祈りを捧げた。狭い廊下の天井に貼られた古代の女神像が薄く浮かび上がり、その女神の慈悲深い瞳に向かってセレスティアは声をかける。


「愛と慈悲の光よ、我らを導き給え。瘴気の闇を払い、仲間の祈りを受け止め给え」

セレスティアの祈りが天井の女神像へ吸い込まれ、杖から放たれた光が仲間の背中を包み込む。その光はリリアナとマギーの結界と共鳴し、瘴気の断片を清らかな光へと変えていった。


(私の祈りが彼らの盾となる。誰一人欠けさせはしない)

セレスティアは目を閉じ、仲間たちへ祈りと光を送り続ける。


■   ■   ■


ルレナ視点


セレスティアの祈りに照らされながら、ルレナは剣を小さく握り締めた。夜明け前の闇に浸る廊下は冷たく、苔むした石畳が濡れているが、仲間と共に歩む足取りは揺るがない。ルレナは目を輝かせながら、小さくしかし力強く呟いた。


「皆、頑張って……私は遠くからでも祈っているから」

ルレナの一言が仲間の背中に温かい真珠の光を注ぎ、暗がりに潜む不安を押し返す。仲間は再び一層強い意志を胸に、魔王本陣への道を進み続けた。


■   ■   ■


――カイ視点


セレスティアの祈りとリリアナの結界、マギーの呪文、ガロンの剣戟、ジークの矢、ルレナの想い──それらすべてが一つとなり、闇深い魔王軍本陣の内部を切り裂きながら進む。一行は最後の階段を登り切り、広大な大広間の片隅へと辿り着いた。


大広間の中央には巨大な鉄格子の門がそびえ立ち、そこから先に魔王アズラエルの間がある。鋭い瘴気が門の向こうから吹き出し、一行を阻む。カイは剣ルクスを強く握り、最後の覚悟を胸に告げた。


「これが最後の扉だ。明日の夜明けに、俺はお前と最後の勝負をする。仲間の光と祈りを信じ、必ずこの闇を切り裂いてみせる」


カイは剣先を門へ向け、蒼光を強く滾らせた。その光が鉄格子の影を白く照らし出し、仲間たちの祈りと誓いが一つになって闇を切り裂く瞬間を迎えようとしている――。


70話終わり

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります!

他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ