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69話 ベルナールの罠

――カイ視点


薄明かりの山頂に、一行は疲れを隠さぬ足取りで到達していた。荒々しい岩場を越え、小さな峠を越えた先には、霧に包まれた盆地が広がり、その中央には廃墟と化した古代の祭壇が横たわっている。ここが「禁忌の祭壇」へ続く最後の分岐点であり、ベルナールが待ち受ける可能性が高い場所だ。カイは剣ルクスを背に担ぎ直し、鋭い蒼光を放つ刃先をわずかに揺らしながら仲間を見渡した。


「皆、警戒を緩めるな。ベルナールの罠がここに仕掛けられている可能性が高い。リリアナ、結界を展開してくれ。瘴気を封じ込められるだけ封じ込めておこう」

カイの低い声に、リリアナは杖を高く掲げ、淡い蒼光の結界を立ち上げる。蒼光の壁は岩肌に反射し、霧の中に青白い光の帯を描き出した。マギーは巻物を胸に抱え、次の呪文構成を心の中で反芻しつつ、仲間を囲む瘴気を断絶する準備を進める。ガロンは剣を肩に担ぎ直し、手の甲で額の汗を拭いながら険しい表情で前方を見据える。ジークは短弓を肩に掛け、横眼で周囲の茂みを警戒し、セレスティアは杖を胸に抱えながら、鉱石のように冷たい風に逆らって小さな祈りの光を繰り返し放つ。ルレナは数歩後ろで、幼いながらも湛えた強い眼差しを仲間に向け、「頑張って」と口にする。


霧がわずかに晴れ、祭壇へと続く石段が姿を現した。その石段には崩れた痕と、かつての戦いの痕跡が点々と残っており、どこか違和感を覚えさせる。カイは剣先を階段の最奥へ向け、静かに言葉を続けた。


「ここを登った先にベルナールがいる。奴は瘴気を巧みに操り、我々を散り散りにしようと罠を仕掛けるはずだ。皆、指示に従って行動する。ルクスの力を信じ、リリアナとマギーの結界に守られながら進むんだ」


カイの号令と共に、一行は石段へ足を踏み出した。リリアナの蒼光が瘴気を抑え込み、石段を下から少しずつ浄化していく。マギーは下段で「瘴気断裂陣」を展開し、瘴気の塊を照らされた光が裂けて砕けるたびに、小石が数粒崩れ落ちた。ガロンは重厚な足取りで先行し、ジークは数歩後ろから矢を番えながら、暗がりに潜む影を見逃さぬよう目を凝らしている。


■   ■   ■


ベルナール視点


祭壇の奥の影に潜むベルナールは、淡い瘴気の渦を緩やかに操りながら、薄く笑みを浮かべていた。かつてカイを追い詰めたときとは違い、今は完全に優位に立っている。周囲には細かく張り巡らされた瘴気の罠が仕掛けられ、石段を登る者たちを一網打尽にする準備が整っている。ベルナールは水晶のような碧眼を鋭くカイへ向け、心の中で呟いた。


(カイよ、私の術を解く者はもういない。お前が信じる仲間の結界も、私の瘴気の洪水には抗えぬだろう)


ベルナールは杖をゆっくりと掲げ、瘴気を濃密な層へと変化させる。崩れかけた祭壇の奥からは古代の呪文詠唱が低くこだまし、周囲の瘴気が振動しながら膨張していく。ベルナールは囁くように次の詠唱を始めた。


「漆黒の瘴気よ、宿る怨嗟を解き放ち、我がもとへ来る者を濁流の底へ沈めよ」


その瞬間、祭壇の周囲を囲む瘴気の結界が一気に瘴流となり、石段を3段目まで覆い尽くした。カイたちは足を止め、リリアナは必死に結界を強化しようとするが、瘴気の濃さに蒼光の結界が揺らぎ、マギーの呪文が一瞬だけ停滞した。ガロンは剣を握る手元に揺らめく瘴気を払おうとして刃を振るうが、瘴気の刃が彼の剣を引き裂こうと迫り、思わず身を引かざるを得ない。


■   ■   ■


リリアナ視点


ベルナールの呪文が炸裂した瞬間、リリアナの蒼光は瘴気層の前で一度はね返された。杖を抱きながら再度詠唱を試みるが、指先がわずかに震え、左腕の痛みが走り、杖を支える力が一瞬だけ揺らいだ。


「瘴気浄化・結界展開!」

リリアナは全身の力を振り絞り、杖から放たれた蒼光の結界を瘴気の層へ突き立てる。結界は瘴気の半分を跳ね返したものの、瘴気の奔流はなお猛威を振るい、石段の下にまで黒い渦を落としていく。リリアナは呻き声をあげながらも、仲間の顔を見据えた。


(このままでは……)

リリアナは深く息を吸い込み、左腕に走る痛みをさらに抑え込むように握りしめた。仲間を守るためにも、何としても結界を維持しなければならない。


「マギー、瘴気追放陣を今すぐ発動して!」

リリアナは声を張り上げ、マギーに合図を送った。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの号令を聞いたマギーは、地面に巻物を広げ、「瘴気追放陣」の紋様を一気に描き出した。揺れる瘴気層が紋様に触れるたびに、瘴気が凍結するかのように固まり、小さく砕け散って消えていく。マギーは更なる詠唱を続け、瘴気の奔流を一層抑え込む。


「瘴気追放陣、発動! 被我等光の楔、瘴気を断ち切れ!」

マギーの詠唱に応え、瘴気の奔流はわずかに鎮まり、黒い渦は細くなる。しかし、ベルナールの術はまだ終わっていない。マギーは次の呪文構成を思い浮かべながら視線をベルナールへ向けた。


「セレスティア、祈りの光を最大限に……!」

マギーは叫ぶと、再び仲間に視線を巡らせ、次の呪文に備えた。


■   ■   ■


セレスティア視点


マギーの呪文が瘴気を抑え込む中、セレスティアは杖を胸に抱え、小さく目を閉じた。彼女の祈りは仲間たちの心と体に光を送ると同時に、瘴気を払う細い光の帯となって祭壇の周囲を巡った。


「愛と慈悲の光よ、瘴気の渦を打ち払いたまえ。仲間たちの祈りと共に、我がすべての命をこの光に捧げる」

セレスティアの祈りの声が空気を震わせ、杖先から放たれた光の軌跡が祭壇へと集中する。瘴気の層に触れた光は瞬間的に凍結の花を咲かせ、黒い渦を切り裂く。


しかし、ベルナールはその隙を絶対に許さなかった。セレスティアの祈りが十分に効果を発揮する前に、ベルナールはさらなる瘴気を送り込む。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーとセレスティアの援護を受け、ガロンは剣を構え直した。狂気にも似た瘴気の暴風が石段を叩きつけ、彼の肉体を押し戻そうとする。剣先から迸る蒼光は、その瘴気を切り裂き、小さく爆ぜる火花を散らした。ガロンは荒々しく剣を振り下ろし、瘴気魔獣が一瞬姿を現すたびに確実に仕留める。


「この瘴気魔獣もなんのその! 仲間を守る剣がある限り、俺は進む!」

ガロンは叫び、剣を振るい続けながら一歩ずつ石段を登る。その剣戟は轟音となり、荒野の残響と混じり合って闇にこだました。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの突撃に合わせ、ジークは短弓を引き絞り、闇の中に潜む瘴気魔獣の気配を探り出す。足元には苔むした岩が冷たく沈み、ジークの矢先には揺らめく瘴気が揺らいでいる。ジークは一瞬の隙を見逃さず、矢を放った。


「狼の一撃――」

矢は闇を切り裂き、瘴気をかき分けて魔獣の首筋を射抜き、そのまま瘴気の渦を貫通して散っていく。魔獣は苦悶の咆哮を上げて崩れ落ち、瘴気の渦はわずかに鎮まった。ジークは短く息をつき、再び矢を番えて仲間たちを護る覚悟を強めた。


■   ■   ■


ベルナール視点


祭壇の奥で呪文を操るベルナールは、仲間たちの猛攻を楽しむかのように笑みを浮かべている。瘴気を再度増幅し、祭壇の両脇から放たれた瘴気の噴流は、石段を登る者たちを一瞬にして包み込もうとする。ベルナールは杖を高々と掲げ、最後の詠唱を開始した。


「暗黒の瘴流よ、この世の命すべてを呑み込み、我が力に屈せしめよ!」

その言葉と同時に、祭壇の中央から黒き瘴気が柱のように天を突き上げ、仲間たちを飲み込むためにうねりを帯びて迫ってきた。


ベルナールは笑みを深め、瘴気のプールをさらに濃くしていく。そして、カイを見据え、優雅な口調で告げた。


「カイよ、お前のルクスの力も、仲間の祈りも、ここで終わる。お前たちの絆はこの瘴気の海に溺れさせてやろう」


■   ■   ■


――カイ視点クライマックス


ベルナールが瘴気の柱を放つと、一行は一瞬ひるんだ。しかし、カイは剣ルクスを握りしめ、揺るぎなき覚悟を見せる。剣先から蒼光が迸り、瘴気の渦を切り裂いていく。


「ルクス、共に――この瘴気を断ち切る!」

カイは渾身の力を込めて剣を振るい、蒼光の一閃が瘴気の渦に突き刺さる。その刹那、瘴気の柱は一瞬揺らぎ、黒い渦は白い閃光に包まれて砕け散った。


リリアナは杖を高く掲げ、蒼光の楔を瘴気の残滓に打ち込み続ける。マギーは呪文を強化し、セレスティアの祈りは最後の光を放つ。ガロンとジークは剣と矢で瘴気魔獣を打ち倒しながら、一行は最後の石段を駆け上がった。


ベルナールは呆然と立ち尽くし、瘴気の息吹が消え去るのを感じて愕然とした表情を浮かべた。カイは剣先を掲げ、冷たい声で告げる。


「これが、仲間の絆と誇りの力だ。お前の瘴気の海は、仲間の光の前では無力だった」


ベルナールの体から瘴気が徐々に消え去り、彼は地面に膝をついて呻き声を上げた。その呪文の力を失った瞬間、祭壇の奥から古代の光が解き放たれ、暗闇を切り裂きながら一行を包み込んだ。


こうして、「ベルナールの罠」の章は、仲間の絆と信念が瘴気の罠を打ち破り、次なる「禁忌の祭壇」へと続く道を切り開く瞬間で幕を閉じた。彼らの前には、最終決戦への最後の試練がまだ残されているが、揺るぎなき光は一行を今も照らし続けている――。


69話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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