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68話 聖女の秘密

セレスティア視点


薄曇りの空がうすく沈む頃、セレスティアは山岳地帯の細い踏み分け道を進んでいた。足元には苔むした岩や小石が散らばり、細い流れが小川となって谷を刻み込んでいる。背負った杖の先からは、かすかに希望を運ぶ光が漏れ、瘴気を抑える結界の残り香が揺らめいている。だが、その目には深い憂いが宿っていた。この過酷な旅路を前に、セレスティアは聖女として、そして仲間として抱える「重大な秘密」に苦悩していたのだ。


仲間たちが先に進む中、セレスティアは足を止め、周囲を静かに見渡した。そこには苔の香りと湿気を孕んだ空気が漂い、時折薄く尾をひく瘴気の裂け目が見える。祈りの光は彼女の両手から放たれ続けており、その光は仲間の背中を温かく包み込む一方で、セレスティア自身の力を限界まで消耗させていた。先ほどの戦いでリリアナを援護しすぎたせいか、杖に宿る光はわずかに弱まっている。


(私の力は、もう限界に近い――)

セレスティアは静かに胸の奥で呟き、杖を抱きかかえる。その瞳には今なお仲間を思う決意が灯るが、その裏では「聖女としての真実」に対する恐怖が影を落としている。仲間は誰一人としてセレスティアが抱える秘密を知らない。この旅の最終局面が目前に迫った今、もし自分が倒れれば、「聖女の秘密」が暴かれることになりかねない。


(このまま戦いを続け、力尽きれば――皆に苦痛を与えてしまう。けれど、私はこの先に待つ闇を照らす灯火であり続けたい)

セレスティアは大きく息を吸い込み、祈りの光を再び強めた。周囲の瘴気が光を拒むかのようにわずかに揺らぐが、セレスティアの意志は揺るがない。彼女は絶えず心の中で「愛と慈悲の光よ、この闇のただ中でも仲間を導き、最後の結末まで我らを守り給え」と祈りを繰り返し、杖先から光を放ち続ける。


■   ■   ■


リリアナ視点


リリアナは杖を抱えたまま、セレスティアの背中を見つめていた。薄暗い岩肌に映るセレスティアの祈りの光は、まるで揺らめく真珠のように美しくも儚い。リリアナ自身は左腕の傷を痛みながらも、セレスティアの苦悩を察し、その目に宿る深い悲しみを感じ取っていた。


「セレスティア様、大丈夫ですか?」

リリアナは杖を地面に突き立て、そっと声をかけた。セレスティアは頷きながらも、わずかに目を伏せる。


「リリアナ……私は……」

セレスティアは言葉を途切れさせ、杖先を静かに揺らした。リリアナはそんなセレスティアを優しく見つめ、言葉を続ける。


「私がいます。セレスティア様の力は皆を救う光です。どうか、無理はなさらないでください」

リリアナの声には揺るぎなき決意と、仲間を信じる想いが込められている。セレスティアはその言葉を胸に刻み込み、深く息を吐いた。


「ありがとう、リリアナ。だが、私にはまだ隠さなければならない“聖女としての真実”がある。仲間たちのため、それを明かすわけにはいかないの……」

セレスティアの声はか細いが、その中には決して折れぬ覚悟が含まれていた。リリアナは深く頷きながらも、胸に不安が芽生えていることを自覚した。


「セレスティア様、その秘密を私も分かち合いたい。あなたが一人で背負い込む必要はありません。仲間はみんな、あなたを守りたいと思っています」

リリアナは杖を掲げ、蒼光を強く放ちながら言葉を続けた。


「聖女の秘密が何であれ、皆で乗り越えましょう。私たちは仲間ですから」

リリアナの瞳は強く、仲間を思う揺るぎなき想いが光る。セレスティアはその言葉に胸を震わせ、再び深い祈りの光を放ち始めた。


■   ■   ■


――カイ視点


先陣を切って谷の細道を進むカイは、ふと後ろからリリアナとセレスティアの会話を小さく耳にした。その声は遠く、しかし確かに「私には聖女としての真実がある」という言葉が含まれていた。カイは剣ルクスを背に担ぎ直し、足元の石を踏みしめながら歩みを止め、視線を仲間に向ける。


(セレスティアに何かあるのか……?)

カイは深く息を吸い込み、剣先を軽く揺らした。仲間たちは今まさに「魔王軍本陣への裏口」を目指し、一行は山岳地帯の深い渓谷へと足を踏み入れようとしている。カイは仲間一人ひとりの背中を見渡し、その表情から「聖女の秘密」への不安を読み取った。


「リリアナ、どうした?」

カイはリリアナの横に近づき、静かに問いかけた。リリアナは一瞬戸惑ったように踵を返し、カイと視線を合わせた。


「カイ様……セレスティア様が聖女としての……ある真実を隠しているようです」

リリアナは言いながら杖を強く握りしめ、その目には決意と戸惑いが交錯している。カイは深く頷き、リリアナの肩に手を置いた。


「分かった。無理に聞き出すことはやめよう。セレスティアには、きっと言いたくても言えない理由があるはずだ」

カイは剣先をわずかに揺らしながら視線を谷の奥に向け直した。


「今は皆で進むことが最優先だ。裏口から魔王本陣へ侵入するためには、刻一刻と時間が迫っている。セレスティアの力は必要不可欠だ。仲間として信じよう」

カイは胸の中で呟き、剣ルクスの蒼光を強める。

「行くぞ、皆。セレスティアの祈りを支えながら、最後まで歩みを止めるな」


■   ■   ■


マギー視点


リリアナとセレスティアの会話を聞いたマギーは、巻物をそっと閉じ、瘴気断裂陣の詠唱を終えた。瘴気の気配が一瞬ゆらめき、マギーは地図を再度確認しながら呟く。


「セレスティアの秘密……一体何なのだろう? でも今は、それを詮索するよりも瘴気対策を完璧にせねば。彼女の力が尽きれば、仲間全員が迷いの闇に飲まれてしまう」

マギーは巻物を胸に抱え直し、次の呪文構文を脳裏に描いた。今夜の山岳地帯では、夜明け前の薄明かりが遠ざかる中、瘴気魔獣が再び行動を活発化させる。マギーは仲間たちの背中を見据えながら、静かに小さく頷いた。


「瘴気断裂陣の強化、瘴気追放陣の拡張――仲間を守るために、私は全力を尽くす」


■   ■   ■


ガロン視点


ガロンは剣ルクスを肩に担ぎ直し、足元の石を踏みしめながら深い渓谷を見下ろした。足元の道は細く、両脇には崖がそそり立つ。瘴気がわずかに流れる岩肌には、夜になると瘴気魔獣が潜むと噂されている。ガロンは剣先を固く握り、眩む光の向こうに広がる暗闇を睨んだ。


(セレスティアに秘密があるらしいが、今はそれを問い詰める暇はない。仲間の背中を守るためには、ここを無事に抜けなければならない)

ガロンは深く息を整え、剣先から蒼光を放って岩肌を照らし、瘴気の気配を探った。


「皆、準備はいいか? ここを越えた先で、魔王本陣への裏口が待っている。俺たちの剣が、仲間と村の希望を守る!」

ガロンの声には揺るぎない力が宿り、仲間たちは剣や杖、矢を強く握り締めて頷いた。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの声を聞き、ジークは短弓を肩に掛け直し、夜明け前の暗い山道へ目を向けた。薄闇の中、遠くからかすかに瘴気魔獣の呻き声が聞こえ、その声に合わせて息を整える。ジークは地図を軽く折りたたみ、胸のポーチにしまうと、冷たい風に向かって走り出した。


「ガロン、お前の背中は俺が守る。野獣や残党兵が襲ってくるなら、俺の矢が決め手になる!」

ジークは小さく呟き、闇夜に紛れる影を見つめながら足を止めた。細い山道には所々に苔むした岩とがれきが散らばり、足元をすくわれないように慎重に歩みを進める。


「後ろは任せろ、お前は前方に集中しろ」

ジークは優しくガロンの背中に声をかけると、短弓を静かに引き絞り、闇の中に潜む瘴気魔獣を探し出す。


■   ■   ■


セレスティア視点


丘の祠に設けられた簡易な祭壇に腰を下ろしたセレスティアは、杖を胸に抱えながら深い祈りを捧げている。暗い渓谷へ向かう仲間たちのために、祈りの光を山肌に向けて放ち続ける。夜霧が渓谷を埋め尽くし、瘴気の気配がかすかに波打つ中、セレスティアの祈りは揺らぐことなく響き渡った。


「愛と慈悲の光よ、彼らを導き給え。闇の中でも希望を失わぬよう、魂に揺るぎなき光を宿し給え。セレスティアのすべての命をこの祈りに捧げる」

セレスティアの声は囁くように静かだが、その胸には強い信念が込められている。彼女は己の命が削られていく痛みを耐え忍びながら、仲間たちのために祈りを紡ぎ続ける。


■   ■   ■


ルレナ視点


夜の山道に向かう仲間たちを見送ったルレナは、まだ幼い体で小走りに丘を駆け下り、セレスティアの元へ駆け寄った。リリアナの発進する蒼光の光に照らされながら、セレスティアの頬に小さく両手を添えた。


「セレスティア様、私もずっと祈っています。皆が無事でいるように」

ルレナは目を潤ませながら、祈りの光を浴びるセレスティアを見つめた。セレスティアは優しくルレナを抱き寄せ、そのまなざしを月明かりの下に映る彼女へと向けた。


「ルレナ、ありがとう。あなたの祈りがあれば、私は最後まで光を放ち続けられる」

セレスティアは微笑みを浮かべ、ルレナの頭をそっと撫でた。その優しい仕草に、ルレナは安堵の息を漏らし、再び丘を駆け上がって仲間たちを見守る決意を固めた。


■   ■   ■


――カイ視点


夜明け前の薄明かりが差し込む中、カイは剣ルクスを握り直し、仲間たちを見渡した。リリアナは杖を抱え、マギーは巻物を胸に抱き、ガロンは剣を肩に担ぎ、ジークは短弓を構え、セレスティアは丘の祠から祈りを捧げる。ルレナはその姿を静かに見守っている。


(セレスティアの秘密はまだ分からないが、彼女が抱える痛みは誰よりも深いはずだ。それでも彼女は祈りを捧げ、仲間を支え続けている。その光があれば、俺たちは必ず闇を乗り越えられる)

カイは剣先を天へ向け、一行に向かって低く告げた。


「今宵はこの道を突き進む。山岳地帯を越え、隠しルートを抜けて魔王本陣の裏口へ向かう。仲間と共に、どんな闇も打ち破る光を示そう」


カイの言葉を合図に、仲間たちは一斉に夜の山道へ足を踏み出した。リリアナの蒼光、マギーの呪文、ガロンの剣戟、ジークの矢、セレスティアの祈り、ルレナの想い――それらすべてが一つとなり、漆黒の闇を切り裂く光の道を描き出した。そして、いよいよ魔王アズラエルとの最終決戦へのラストステージが幕を開ける――。


68話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

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