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67話 盗賊ジーク再び

ジーク視点


薄曇りの空が村の上空を覆う頃、ジークは古びた森の縁に身を潜めていた。肌寒い風が木々の葉を揺らし、ジークの心臓は高鳴る。数日前──村を守った後、ジークは一人情報収集の旅に出た。魔王軍本陣の位置を突き止めるため、盗賊同盟を頼りに隠れ家を転々とし、闇夜に命を賭けたやり取りで得た情報を抱え、この日を迎えたのだ。


彼が懐から取り出した羊皮紙には、複雑に入り組んだ山道と、瘴気を迂回する隠しルートが赤い線で示されている。これが本物ならば、仲間たちは最終決戦へ大きく前進できるはずだ。しかし、仲間に姿を見られたとき、驚きや不信が生まれるかもしれない。リリアナの左腕にまだ痛みが走る傷跡を見ると、胸が締めつけられた。だが、ジークの決意は揺るがない。「仲間たちにとって、これが最後の伏線になればいい」。彼は短弓を背に掛け直し、意を決して村へ足を踏み入れた。


村の入口に差し掛かると、カイの背中が視界に飛び込んできた。仲間たちは小さな広場で情報共有と休息を兼ねた打ち合わせをしているようだった。カイは剣ルクスを背に担ぎ直し、仲間たちを見守るように立っている。その重厚な姿に、ジークは胸が熱くなる。


「カイ様!」

ジークが声をかけると、カイは一瞬驚いたように振り返り、やがて険しかった表情がゆるやかに変わる。リリアナは杖を構えかけたが、ジークの顔を見て瞳を潤ませ、肩の力を抜いた。マギーは巻物を胸元に抱えてじっとジークを見つめ、ガロンは剣を腰に収めて安堵の笑みを浮かべた。セレスティアは祈りの光を止め、穏やかな微笑でジークを迎えた。ルレナは小走りで駆け寄り、ジークの脚にしがみつく。


――カイ視点


ジークが戻ってくるのは、数日前の村を守った時以来だ。カイは剣ルクスを背に担ぎながら、仲間たちを引き連れ、村の入口から一歩前に踏み出した。そして、ジークを見つめながら静かに尋ねた。


「ジーク、お前がここにいるとは思わなかった。どうして戻ってきた?」


ジークは短弓を背に掛け直し、深く息を吐いて地図を取り出した。羊皮紙に赤い線で示された隠れ道を指差しながら、真剣な表情で答えた。


「カイ様、これを見てください。魔王軍本陣への隠しルートです。瘴気の濃い峠を避け、山の裾を回る道。盗賊同盟の情報屋から入手しました。ここを使えば、魔王軍の最前線を迂回し、裏口から本陣に潜入できる可能性があります」


その言葉に、仲間たちの空気が一変した。リリアナは杖を握り締め、地図を覗き込む。マギーは巻物を背に抱え直し、マーカーの位置を指でなぞりながら呟いた。


「もし本当にこの道が使えるならば、直接魔王アズラエルの居城に近づける。あの瘴気の濃度を考えると、普通の道では全滅は免れない。ジーク、一体どうやってこの情報を得たのか?」


ジークは懐から盗賊同盟の証印を取り出し、村人寄りの盗賊頭領の名前を告げた。


「盗賊頭領ギルドの長カランに直接会い、懇意にしてもらった。彼はかつて魔王軍に協力していたらしいが、今は裏切り者を狩る組織を率いている。そのおかげで、魔王軍の動きに精通していた。命がけで情報を買い取り、何とか生き延びて戻れました」


カイは地図をじっと見つめ、剣先を軽くゆらめかせた。ルクスから微かな振動が伝わり、瘴気を断ち切る力が渦巻くのを感じる。魔王軍本陣へ直行できる可能性がある一方で、道中の魔獣や残党兵の襲撃も避けられない。カイは深く息を吐き、仲間たちを見渡した。


「皆、覚悟を決めろ。この道を使うなら、今夜にも出発する。瘴気の峠を避けても、この裏道は山岳地帯を抜ける険しい道だ。救援物資も乏しいが、リリアナ、セレスティア、マギーの結界と祈りがあれば突破できるはずだ」


リリアナ視点


リリアナは地図を膝に置き、杖を抱きしめるようにして深呼吸した。地図に示された裏道は、岩場と深い渓谷をいくつも越えなければならない険しい道だ。瘴気は確かに薄いが、代わりに野生の瘴気魔獣や落石の危険が付きまとう。さらに、月影も届きにくい場所が続くため、セレスティアの祈りがなければ一夜で迷う可能性がある。


「カイ様、この道は確かに可能性があります。瘴気の大群を避けられる分、山岳地帯を通過する時間とリスクは高くなりますが、私たちなら乗り越えられると信じています」


リリアナは杖先から蒼光を放ち、暗がりに揺らめく瘴気を押し返すイメージを胸に描いた。仲間のために祈りを唱えながら杖を握り締め、自らの痛みを忘れて言葉を続ける。


「マギー、私の瘴気封鎧陣と浄化結界を交互に展開していきましょう。まずは山の入口で瘴気を切り裂く結界を維持し、深夜の寒さや野獣の襲撃に備えるの。カイ様はルクスの蒼光で瘴気を断ち切り、ガロンとジークの盾と矢で前線を固めて。セレスティアは丘の上から祈りで道を照らしてほしい」


マギー視点


マギーは巻物を胸に抱えたまま地図を見つめ、「リリアナの提案は理にかなっている。瘴気を断ち切る呪文を刻み、僅かな隙も許さない楔を打ち込み続ける」と心の中で確信する。


「わかりました、リリアナ。瘴気断裂陣をまず展開し、その後瘴気追放陣で残滓を抑え込む。夜明け前の闇に潜む瘴気の息吹を完全に封じます。リリアナの浄化結界とシンクロさせれば、ここから先は誰にも邪魔されないはずです」


マギーは巻物を畳み直し、次に必要な呪文を頭の中で整理した。瘴気の濃さに応じて呪力を調整し、一度に刈り取る瘴気の範囲を段階的に拡大できるように複数の詠唱プランを用意している。


ガロン視点


ガロンは剣を肩に担ぎ直し、静かに目を閉じた。今夜から始まる山岳地帯の踏破に備え、心身を戦闘態勢へと切り替える必要がある。ガロンの剣先から滲む蒼光は、瘴気に染まった岩肌を切り裂き、仲間を守り抜く誓いの証である。


「ここまで来たら、後は一歩でも前に進むだけだ。仲間の背中を守り切るために、この剣を振るい続ける」

ガロンは剣を地面に突き立て、岩場の手ざわりを確かめるようにゆっくりと剣を握り直した。山岳地帯の道中では、剣を盾代わりに岩肌をよじ登ることもあるだろう。その度に剣に込めた想いが、ガロンの肉体を突き動かす。


「ジーク、先導を頼む。お前の矢がある限り、暗闇の中でも仲間の背中は守られ続けるだろう」

ガロンはジークに向かって剣先を軽く下ろし、静かに頷いた。


ジーク視点


ガロンの言葉を受け、ジークは短弓を肩に掛け直し、地図に示された裏道の最初の峠を思い浮かべた。そこは崖が鋭く切り立つ痩せた山道で、一歩踏み外せば奈落に転落する危険がある。しかも、瘴気魔獣が時折姿を現し、夜闇の中で奇襲を仕掛けるという噂がある。ジークは呼吸を整え、地図を拳で軽く握り締めた。


「わかった、ガロン。俺が前を進む。矢は夜明けを待たずに放てるよう、餌木を交換してある。暗闇での狙撃に慣れている俺なら、野獣や残党兵を先に排除できるはずだ」


その言葉に、ガロンは軽く笑みを浮かべながら頷いた。ジークはリリアナとマギーが展開する結界の範囲を頭に入れ、夜の闇に紛れながら前線へと走り出した。短弓を構える姿勢はまるで草原の狼のごとく静かで、しかし内に燃える闘志は烈火のごとく激しい。


セレスティア視点


丘の上に腰を下ろしたセレスティアは、杖を胸に抱えながら祈りの光を放ち続けている。地図に示された裏道の先には深い渓谷が待ち受けており、瘴気魔獣が潜む闇があるという。セレスティアの祈りがなければ、仲間はその闇を乗り越えられない。


「愛と慈悲の光よ、今宵は山岳地帯の暗闇を照らし、仲間たちを導き給え。瘴気魔獣の影を払い、暗黒の渓谷を安全な道へと変え給え」

セレスティアの祈りの声が静かにこだまし、杖先から淡い光が渓谷へと伸びていく。その光が仲間の心に安らぎをもたらし、闇を乗り越える勇気を与えるのだと確信している。思わず目を閉じたセレスティアは、仲間たち全員の無事を祈り続けた。


ルレナ視点


村で子どもたちと戯れていたルレナは、リリアナの想いを聞いて胸に秘めた誓いを思い返していた。小さな身体にはまだ幼い不安が残るが、それでも仲間と共に闘う決意は揺るがない。ルレナは小走りでカイの元へ駆け寄り、剣の柄を叩いて叫んだ。


「カイ様、私も一緒に行きます!」

ルレナの大きな瞳には揺るぎなき光が宿り、カイは驚きながらも優しく微笑んだ。

「ルレナ、ありがとう。ただし、道中は危険が多い。無理はしないでくれ。俺たちが確実に守るからな」

カイの言葉に、ルレナは小さく頷いて剣の柄を再度叩き、仲間たちと共に進む覚悟を新たにした。


■   ■   ■


――カイ視点


仲間たちと結界、祈りの光を確認し終えたカイは、剣ルクスを腰に収め、深い息を吐いて脇道へ足を踏み出した。その先にはこれまでにない険しさを孕む山岳地帯が待ち受けている。瘴気は薄いが、代わりにイバラのように広がる岩肌と、夜闇に潜む瘴気魔獣の影が立ちはだかる。


「皆、精一杯行こう。リリアナの想いとジークの情報があれば、絶対に突破できる。魔王本陣の裏口へと続く最後の道だ」


カイの声と共に、仲間たちは剣や杖、矢を握り締め、それぞれが覚悟を胸に刻み込む。リリアナは杖を高く掲げ、蒼光の結界を強化しながら一歩を踏み出す。マギーは巻物を再度開き、呪文の構文を見つめながらカイの背中を見据える。ガロンは剣先を岩肌に向け、気迫をみなぎらせる。ジークは短弓を肩に掛け、暗闇の闇を見据えて吶喊する。セレスティアは丘を離れ、杖先から祈りの光を伸ばしながら仲間を照らす。ルレナは剣を小さく揺らしながらも、その瞳には揺るぎなき決意を宿している。


こうして、「盗賊ジーク再び」の章は、仲間の想いと絆が一つとなり、夜の山岳地帯を越えて魔王本陣の裏口を目指す――という覚悟を胸に刻みながら幕を閉じた。彼らの前には最後の試練が待ち受けているが、その心には揺るぎなき光が宿り続けている。


お読みいただきありがとうございます。

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他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

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