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66話 リリアナの想い

リリアナ視点


朝靄がかすかに揺れる村外れの林縁で、リリアナは杖を抱きしめるようにして立っていた。先の戦いで負った左腕の痛みはなお癒えぬまま、瘴気封鎧陣が刻む冷たい光を腕に感じている。村人たちが日常を取り戻し、子どもたちが笑顔で駆け回る光景に心を奪われながらも、リリアナの胸には忍び寄る不安が渦巻いていた。あの魔王本陣への最終決戦まで、あとわずか。仲間たちの傷が癒えないまま、再び命を懸けた闘いが始まろうとしている。


「私の想いを届けなければ…」

リリアナは小さく呟き、杖先から淡い蒼光を繰り返し放った。その光は瘴気の残余を抑えながら、リリアナ自身の心に灯る決意の炎を映し出しているようだった。幼いころから、魔力を持つがゆえに人々を守る道を選んだリリアナ。だが、その力の代償として仲間を傷つけてはならないと自らに誓ってきた。今、彼女の手元にある杖はそのすべてを物語る象徴である。


村の静寂を壊さぬよう、リリアナは足音を忍ばせながら仲間たちの安否を確認しに歩み寄った。村人たちは畑に出て働く者、井戸のそばで水を汲む者、屋外の小さな店先で旅の者たちをもてなす者に分かれ、いずれもリリアナの蒼光に守られていると感じる様子だった。


「リリアナ様、本当にありがとうございます。この光がなければ、村人たちはどうなっていたか…」

小さな子どもを抱く母親が、感謝の涙を浮かべながらリリアナの足元に頭を下げる。リリアナは杖を膝に突いて静かに微笑むと、優しくそっと頭に手を触れた。


「どうか心配しないで。私たちはあなたたちと共にこの村を守り、必ずまた来てくれる日を約束します」

その言葉に、母親は再び深く頭を下げ、「どうかご無事で」とだけ言い残し、子どもを抱えたまま村の中心地へと戻っていった。リリアナはその背中を見送りながら、胸の奥に秘めた想いを強くかみしめた。


林縁の向こう、カイたちが再び戦いへ向かう姿が見え隠れしている。剣を背に担ぐカイの背中は揺るぎなく、リリアナの心を深く打つ。マギーは巻物を背にして詠唱の最終確認をしており、ガロンは鍛冶師から返された新調の柄を握りしめている。ジークは王道を外れて林の小径を駆け抜け、小さな獲物を見つけては矢を番えている。セレスティアは丘の上から静かな祈りを捧げ、遠く見える瘴気の闇を押し返す光を放っている。ルレナは子どもたちと手をつなぎ、戯れながらも一瞬リリアナに視線を向け、小さく微笑んでいる。


リリアナは深呼吸をし、一歩を踏み出した。左腕に残る痛みを忘れずに杖を握りしめながら、仲間たちに駆け寄る。


「カイ様、皆さん…」

リリアナの声はか細いが、その眼差しは真っ直ぐに仲間を見据えていた。


「私は…この想いを伝えたい。あなたたちと共に歩んだ日々は、私の宝物です」

リリアナは杖を両手で抱きかかえ、仲間たちの輪の中に深く頭を下げた。


■   ■   ■


――カイ視点


リリアナの言葉に、カイは驚きと安堵が交差する眼差しを向けた。剣ルクスを背に担ぎながらも、カイの胸にはリリアナの想いが深く刻まれている。瘴気の残滓がかすかに舞う荒野の風に乗って、その言葉が胸に響く。


「リリアナ…お前がそう思ってくれているなら、俺も同じだ。一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に闘った時間は、俺の誇りだ」

カイは静かに語りかけると、剣を軽く掲げ、深く一礼した。その胸には、弱さを隠さずに抱えるリリアナの痛みを共有しようとする覚悟がある。


リリアナはかすかに涙を浮かべながら頭を上げ、カイの瞳を見つめ返した。その視線に込められた温意に、リリアナの胸は強く揺れ動いた。


「ありがとう、カイ様。私も、あなたと誓った未来を必ず掴みます」

リリアナの言葉を受けて、カイは大きく頷き、握りしめた剣先を仲間たちに向けた。


「行こう、皆。リリアナの想いを胸に、俺たちの戦いはまだ終わっていない」


カイの呼びかけに応え、仲間たちは再び身構えた。マギーは巻物を閉じ、次なる呪文の構成を思い浮かべる。ガロンは剣先を揺らし、闘志を燃やすように目を細めた。ジークは短弓を肩に掛け直し、的確に狙いを定める。セレスティアは杖を胸に抱え、祈りの光を強めて仲間を包む。ルレナはリリアナの背中を見つめ、小さく頷いた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナとカイのやり取りを見届けたマギーは、巻物を胸に抱えたまま皆に視線を巡らせた。瘴気断裂陣と瘴気封鎧陣を再度確認し、自分たちが次に直面する瘴気の嵐に備える。リリアナの想いが仲間を一つに結びつけ、マギーは小さく息を整えた。


「瘴気断裂陣と瘴気追放陣を併用して、一気に吹き飛ばすわ。リリアナの結界がある限り、瘴気は彼女の蒼光に敗れるはず」

マギーは巻物を開き、紋様が浮かび上がるのを確認した。刻一刻と迫る瘴気に怯えず、仲間の背中を支えるため、マギーの決意は固い。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーの言葉を聞き、ガロンは剣を肩に担ぎ直した。鋭い蒼光の刃先が揺らめき、ガロンの胸には炎のように熱い思いが燃え上がる。リリアナの想いとカイの誓い――それはガロンにとっても同じだ。


「瘴気だけじゃない。俺たちが守りたいのは、仲間の笑顔だ。リリアナが笑うその瞬間を、絶対に守り抜く」

ガロンは剣を大きく振り下ろし、荒野の大地を割るような気迫を見せた。その刹那、剣先から迸る蒼光が瘴気を切り裂き、ガロンは闘志を胸に前線へと駆け出した。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの剣撃を見届けたジークは、短弓を肩に掛け直し、的確に次なる標的を狙う。リリアナとカイの想いが一つに重なり合い、その絆に守られる者たちの存在がジークの矢先をより正確にする。


「仲間の笑顔を守る。俺たちがここで倒れたら、リリアナの想いも、カイの誇りも消えてしまう」

ジークは矢を放ち、瘴気の濃い影が瘴気魔獣の姿を露わにする前に撃ち抜いた。その矢が暗い瘴気を裂くと、魔獣は呻き声を上げて崩れ落ちる。ジークの目は鋭く光り、再び矢を番えて次の獲物を探し始めた。


■   ■   ■


セレスティア視点


丘の上から仲間を見守るセレスティアは、杖を胸に抱え祈りを捧げ続けている。その祈りは蒼光と共鳴し、リリアナとマギーの結界を強化しながら仲間たちの心身を癒している。リリアナの想いが仲間を繋ぎ、その祈りが仲間を支える。


「愛と慈悲の光よ、我らの誇りとなり、瘴気の闇を打ち払いたまえ。仲間の想いを胸に、勝利を呼び込む光となり給え」

セレスティアの願いが丘を震わせるように響き、杖先から放たれた光が荒野に撒き散らされた。瘴気の濃度がわずかに揺らいだ刹那、仲間たちの攻撃が再び一斉に炸裂し、瘴気の闇がひび割れていった。


■   ■   ■


再びリリアナ視点


荒野に響く剣戟と矢の音に耳を澄ませながら、リリアナは杖を握りしめて深く息を吸い込んだ。仲間たちが繰り広げる闘いのすべてが、リリアナの想いに応えるかのように動いている。傷ついた左腕からは痛みがまだ残るが、その痛みすらも仲間を守る覚悟に変わる。


「皆、ありがとう。あなたたちと共に…最後まで笑顔でいられるように」

リリアナは涙をこらえながら杖を高く掲げ、蒼光の結界を一層強力に展開した。その光は仲間たちの背中を包み込み、瘴気の闇を打ち破る結界の鋭い刃のように揺らめいた。


戦場の中心で、カイは剣を振るいながらリリアナの姿を見つめ返し、深く頷いた。マギーは巻物を広げ、より強力な呪文を発動するために集中する。ガロンは剣を振り下ろしながら仲間の鼓舞を送り、ジークは矢を番え仲間たちを守るために狙いを定めた。セレスティアは祈りの光を揺らしながら仲間たちの回復を続け、ルレナは村の子どもたちに笑顔を向けて手を振った。


瘴気の闇が一瞬だけ揺らぎ、その隙を突いてカイの刃が瘴気魔獣を薙ぎ払うと、大地が轟いたように震えた。その瞬間、仲間たちの視線が一つに重なり合い、リリアナの蒼光とカイの蒼光が交錯し、瘴気の闇を一気に押し返す。


「これで…私たちの誇りが証明される。どんな闇も、仲間の想いと共にあれば必ず消し去れる」

リリアナの言葉は荒野の風に乗り、仲間たちの胸に届いた。その想いが一つとなり、魔王本陣へ続く最後の道を照らし出す。仲間たちの絆は揺るぎなく、その光はどんな瘴気の闇よりも強く輝き続ける――。


66話終わり

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