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64話 小さな村の希望

――カイ視点


朝靄が薄く立ち込める中、一行は魔王本陣へと向かう荒野の道から外れ、小さな村へと足を踏み入れた。かつて瘴気に蝕まれたこの村は、今では住人たちが草を刈り、再び日常を取り戻しつつある。カイはルクスを背に担ぎ直し、剣先から漏れる蒼光で周囲を照らしながら、疲れ切った仲間たちを見渡した。リリアナは杖を抱えて左腕を庇いながらも、心なしか緩んだ表情を浮かべている。マギーは巻物を閉じ、瘴気を封じた灯籠の前で身を休めていた。ガロンは剣を腰に収め、村人に笑みを返しつつ警戒を怠らない。ジークは短弓を背負い、草むらの影から離れた場所で足を休めている。セレスティアは小高い丘の上に立ち、祈りの光を優しく周囲に放っている。ルレナは村の子どもたちと戯れ、無邪気な笑顔を見せていた。


「ここで少しだけ、皆を休ませてやりたい」

カイは深く息を吐き、仲間たちを見返した。彼らはこれまでに幾度となく戦いを乗り越え、傷を癒しながら共に歩んできた。この小さな村でのひとときが、次なる戦いへの支えとなるはずだと確信している。


カイは剣先をゆっくりと下ろし、仲間の元へと歩み寄った。リリアナに目を向けると、彼女は左腕を軽く気にしながらも、カイの視線に応えて微笑んだ。マギーは巻物をそっと膝に置き、次なる呪文の構成を静かに見つめている。ガロンはガロンで村の鍛冶場に立ち寄り、武具の手入れを手伝いながら住人たちと交流している。ジークは村の端で小さな泉に映る自分の瞳を見つめ、これまでの戦いの記憶を反芻していた。セレスティアは丘の上で静かに祈りを捧げ、仲間の未来を思い描いている。


「リリアナ、この村は…どうだ?」

カイはそっとリリアナの肩に手を置き、問いかけた。


「カイ様、この村の人々は苦しみを乗り越え、再び笑顔を取り戻していました。私たちが瘴気を断ち切ったことで、新たな希望が芽生えているのです」

リリアナは杖を軽く持ち替え、村の復興を支える住人たちの姿を指差した。数名の少女たちが小麦畑で穂を摘み、年老いた婦人は鍋をかき混ぜながら優しい歌声を響かせている。


カイは頷き、仲間たち全員に視線を向けた。


「この希望を、俺たちは必ず守る。ここに集う人々の未来を背負い、魔王本陣へと進もう」


その言葉に、仲間たちは一斉に頷いた。リリアナは蒼光の結界を弱め、村人たちが集まる広場へと向かった。マギーは巻物をしまい込み、村の焚き火のそばで疲れを癒すことを提案した。ガロンは村の鍛冶師と並び、剣の手入れを学びながら談笑している。ジークは泉の水を汲み、村人たちに水筒を手渡して回った。セレスティアは丘から降りてきて、杖を地面に立てたまま優しく目を閉じ、住人たちの幸福を祈っている。ルレナは子どもたちと駆け回り、笑い声を村中に響かせた。


■   ■   ■


リリアナ視点


村の人々が活気を取り戻す様子を見つめながら、リリアナは杖を軽く掌に沿わせていた。傷の痛みは依然として強く、瘴気封鎧陣がなければとても耐えられない。だが、村人たちの笑顔を見ると、その痛みすらも希望へと変わるように感じられた。幼い兄弟が素朴な歌を奏でる横で、母親が穏やかに微笑む姿を見て、リリアナは目を細める。


「この村が再生することで、私たちの旅も意味を持つ」

リリアナは静かに呟き、杖を小さく掲げると蒼光を手のひらに集め、傷口を軽く焦がすように照らした。マギーの呪文が瘴気を完全に封じ込み、流れ込む瘴気は一切なくなっている。


「お母様方、ぜひ明日からの農作業の準備が必要です。この蒼光を鎮靜剤として使ってください」

リリアナは杖の先から収れきの蒼光を注ぎ込み、杖を握る手をそっと傷口に押し当てた。痛みはわずかに緩み、リリアナは安堵の息を一つ吐き出した。幼い兄弟が興味深そうに彼女の杖を見つめ、リリアナは微笑みを向けた。


「ありがとう。リリアナ様もお体を大切に…」

母親たちが礼を言い、リリアナは小さく頭を下げた。そして、村の広場で体を休める仲間たちの元へゆっくりと戻った。


■   ■   ■


マギー視点


焚き火のそばで、マギーは巻物を胸に抱えながら深く息を吐いていた。鍛冶師から手ほどきを受けたガロンが溶かした鉄を冷ましつつ研いでいる様子を見て、マギーは微笑んだ。鍛冶師はガロンに技術のコツを教えながらも、その凛とした眼差しから尊敬の念をストレートに向けている。


「ガロンさん、ここは良い鉄材だ。丁寧に研げば、瘴気を纏った相手にも鋭く抗える」

鍛冶師の言葉に、ガロンは力強く頷いた。その姿を見たマギーは、巻物に示された瘴気封鎧陣の図を思い浮かべながら、仲間の武器が再び血を流さぬよう研究し続ける覚悟を胸に刻んだ。焚き火の炎がゆらめくたび、マギーは次に必要となる呪文を頭の中で組み立てている。


「瘴気断裂陣の強化、瘴気追放陣の拡張……次なる戦いでは、より多くの瘴気を一度に断たねばならない。リリアナも限界に近いから、私ができることはすべてやり尽くす」

マギーは微かに唇を引き結び、仲間たちの無事を祈りながら焚き火の炎を見つめ続けた。


■   ■   ■


ガロン視点


ガロンは鍛冶師の指導を受けながら、火床で赤く熱せられた鉄を槌で叩いていた。そのたびに火花が飛び散り、荒野の冷たい空気をほんのりと暖める。鍛冶師はガロンに研ぎの要点を教えつつ、穏やかな声で話しかける。


「お前の剣には既に蒼光の印が刻まれている。その力を最大限に引き出すためには、鋭さと削りのバランスがもっと必要だ。瘴気を断つ刃であることを忘れるな」

ガロンは剣先を確かめるように握りしめ、鍛冶師の言葉を心に留めた。淡い笑みを浮かべつつ、剣を炎から取り出して水盤に浸し、蒼光の刃が白く輝く。


「わかった、兄ちゃん。俺の刃は、仲間の盾であり槍だ。どんな瘴気の夜でも、この剣が闇を切り裂く」

ガロンは力強く頷き、その剣を腰に収めて立ち上がった。斧傷の入った鉄床の脇に置かれた杖を見やり、リリアナの治療が終わるまでしばらく村に留まる覚悟を固めた。


■   ■   ■


ジーク視点


小さな泉のほとりで、ジークは泉水をすくい、仲間たちに水筒を手渡している。リリアナはマギーの結界の下で水を受け取り、優しい笑顔を浮かべた。カイは小さな声でリリアナを心配しながらも、ジークに向かって頷いた。


「ジーク、この泉水のおかげで皆の体力が回復する。お前の気配りには助かるよ」

カイは感謝の言葉を投げかけると、ジークはそっと笑みを返した。


「俺たちは仲間だからな。次なる戦場でも、誰一人欠けるわけにはいかない」

ジークは短弓を背に掛け直し、泉水が湧き出る音を聞きながら仲間たちの姿を見渡した。その目には、荒野を越えた先に待つ魔王本陣との死闘を前にした覚悟が揺るがずに宿っている。


■   ■   ■


セレスティア視点


丘の上で、セレスティアは杖を胸に抱えたまま目を閉じ、住人たちの笑顔と仲間たちの命を祈っている。静かに唇を動かし、祈りの言葉を紡ぐその姿は、まるで丘の風景に溶け込んだ精霊のように見える。


「愛と慈悲の光よ、この村の繁栄を守り給え。仲間たちの魂に揺るぎなき光を宿し、闇に最後の一撃をもたらす勇気を与え給え」

セレスティアの祈りが丘を震わせ、草を揺らし、泉の水面を波立たせる。その光が村全体に広がり、人々の心に安らぎをもたらす。セレスティアは目を開き、杖先から放たれる光を仲間たちへと送った。


「私の力は限られているが、その光は永遠に仲間の胸に輝き続ける。共に歩む道の先にある希望を、誰一人として見失わぬように」


■   ■   ■


――カイ視点


村での安息を終え、一行は再び荒野へと歩き出す準備を整えた。リリアナは杖を抱きしめながらゆっくりと歩き出し、ガロンは剣を握り、マギーは巻物を胸に抱えた。ジークは短弓を掛け直し、セレスティアは祈りの光を再び点灯させる。ルレナはまだ幼い体で揺れながらも、仲間たちの背中を追うように歩き出した。


「この村の希望を胸に、皆で最後の戦場へと向かおう」

カイは静かにそう言い、一行は再び魔王本陣へと続く荒野の一本道を進み始めた。その足跡が荒野の砂に刻まれ、やがて魔王本陣への道標となる。仲間たちの絆と誓いは、どんな闇をも打ち破る光となり、彼らを最終決戦へと導いていく――。


64話終わり

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