63話 仲間の誓い
――カイ視点
薄曇りの空にわずかな朝陽がかすかに差し込む頃、一行は魔王本陣へ続く荒野の道端に腰を下ろしていた。先の戦いでリリアナが負った傷跡がまだ痛むが、セレスティアの祈りによって瘴気の毒はおおむね浄化されている。カイは剣ルクスを膝の上に置き、仲間たちの顔を順に見渡した。彼らの瞳には疲労と緊張が混じっているが、同時に互いを信じる揺るぎなき覚悟が宿っていた。まるで鋼のように固く結ばれた絆が、その背中から伝わってくる。
「皆、よくここまで来た」
カイは静かに口を開き、その声は涼やかながらも強い意思を帯びて響いた。
「これから先に待つ戦いは、これまで以上に過酷だ。しかし、互いが誓い合ったこの絆が、どんな闇をも打ち裂いてくれる」
カイは一行の中央に立ち上がり、剣先をわずかに揺らしながら仲間たちへ向き直る。リリアナは杖を膝に立て、まだ赤い瘢痕を押さえつつ微笑みを浮かべた。マギーは巻物を胸に抱え、かすかに顎を引きながら大きく息を吸い込む。ガロンは剣を肩に担ぎ、手の甲で目頭を軽く押さえた。ジークは短弓を背に掛けたまま視線を地面に向け、一瞬だけ目を閉じた。セレスティアは杖を胸に抱えながら、優しい眼差しを仲間たちに注ぎ、折れそうな想いを癒そうとする。ルレナはまだ幼い身体を震わせながら、仲間の背中を見つめて揺るぎなき決意を胸に抱いている。
「リリアナ、次に行く準備はできているか?」
カイが静かに問いかけると、リリアナは杖を握り直して深く頷いた。
「はい、カイ様。皆のために、私はどんな痛みも恐れません」
その言葉を受けて、カイはにわかに前に歩み出し、剣ルクスを振りかざして荒野の遠くを指差した。瘴気を帯びた空気がかすかに揺らめき、向こうには魔王軍の大軍勢がゆらりと姿を現している。それぞれが瘴気を纏い、荒野の地を踏みしめるたびに黒い瘴流が渦を巻いている。まるで死の行進のように迫る影を見据えて、カイは仲間たちへ再び誓いの言葉を捧げる。
「この先に待つのは魔王軍の中枢だ。瘴気を操る大軍勢に包囲されようとも、我々は決して屈しない。リリアナ、マギー、ガロン、ジーク、セレスティア、ルレナ――お前たちと誓ったこの旅路、最後まで共に歩み抜く」
仲間たちはカイの声を聞いて揃って頷き、各々が胸に強く拳を握りしめた。その小さな仕草にこめられた覚悟は、やがて大きな波紋となって荒野を満たし、ひときわ強い誓いの光へと変わる。
■ ■ ■
リリアナ視点
皆の誓いを胸に、リリアナは杖を高く掲げたまま深呼吸を繰り返した。傷口の痛みが鋭く走るが、心に燃える決意が痛みをかき消してくれる。瘴気が漂う荒野の中で、リリアナは祈りを捧げるように呟いた。
「私たちが共に歩む限り、一人として置き去りにしない。この蒼光が暗闇を切り裂き、皆の未来を照らし続ける」
その言葉を口にするたびに、蒼光の結界が揺らぎながらも強固に保たれる。リリアナの瞳には、一瞬だけ先ほど倒した瘴気魔獣の黒い影がよぎるが、すぐにそれを振り払うかのように目を伏せた。仲間たちを守り抜くため、リリアナは掠れた詠唱をさらに強く心に刻み込んでいく。
「瘴気浄化・結界展開……」
リリアナは杖を振るい、蒼光の楔が瘴気を断ち切りながら、仲間の進路を確保する。その姿は荒野に咲く一輪の花のように儚くも強く、仲間たちの背中を押し続ける。
■ ■ ■
マギー視点
リリアナの蒼光の結界に呼応し、マギーは巻物をそっと胸に抱き寄せたまま目を閉じた。瘴気断裂陣と瘴気追放陣を詠唱するための構文を頭の中で反芻し、仲間たちを守るために必要な呪文のすべてを深く刻み込む。マギーの細い指先が震えるのは、これから待ち受ける最終決戦への覚悟である。その覚悟を支えるのは「仲間を守る」という揺るぎなき意志だ。
「瘴気断裂陣、発動!」
マギーの声が静かに荒野に響くと、地面に刻まれた紋様が白く輝き、瘴気の塊が音を立てて裂かれる。黒い瘴気の残滓が土埃のように舞い上がり、やがて淡い光に包まれて消滅した。マギーは巻物を閉じながら小さく微笑み、仲間たちが不安なく進軍できる道を整えた。
「瘴気追放陣、発動」
次いでマギーは淡い囁き声で詠唱し、瘴気封鎧陣を展開しながら仲間の全身を瘴気から守る盾を張り巡らせた。仲間たちの衣服や武具は瘴気の毒を一切受けず、まるで聖域の中を歩むかのように安全が確保される。マギーは仲間の無事を確かめると、巻物を両手で抱え込み、カイの背中を見つめたまま決意を新たにした。
■ ■ ■
ガロン視点
マギーの呪文とリリアナの結界が揃ったその瞬間、ガロンは剣を背に担ぎ、深い呼吸を一度だけ整えた。次の一歩を踏み出すべく剣先を地面に突き立て、瞳を鋭く前方へ向ける。その瞳には仲間への揺るぎなき信頼と、自らの剣で人々を守り抜くという決意が宿っていた。
「よし……行くぞ、仲間たち」
ガロンは大地を蹴り上げるように跳躍し、荒野の砂塵を蹴散らしながら突進し始めた。剣から迸る蒼光の刃が風に輝き、その一閃は瘴気の塊を真っ二つに切り裂く。ガロンの剣撃はまるで荒野の闇を焼き尽くすかのような烈火となり、仲間たちの前進を後押しする。
■ ■ ■
ジーク視点
ガロンの先陣を受け、ジークは短弓を肩に掛けたまま茂みの奥へと走り込んだ。荒野の草むらに紛れる瘴気魔獣や残党兵を見極める目は、細く鋭く光る。ジークは呼吸を整え、次の標的を見定めると矢を番えた。
「ガロンの背中は俺が守る。仲間の盾となる矢を放つ」
ジークは暗い影の中から放たれる瘴気魔獣の気配に反応し、一気に弓を引き絞った。瘴気をまとった矢が空を切り裂き、狙いを外すことなく瘴気の瘴屍を貫いた。その瞬間、瘴気の塊が爆ぜ、細かく砕け散る。ジークは再び矢を番え、鋭い眼光で次の脅威を探し続けた。
■ ■ ■
セレスティア視点
ジークの矢が瘴気を貫き、瘴気魔獣が崩れ落ちる中、セレスティアは杖を胸に抱えながら優しい祈りを紡ぎ続けた。その祈りは仲間の心身を癒しつつ、瘴気を凍結させるように揺らめく光の帯となって荒野へと広がる。
「愛と慈悲の光よ、我らを包み給え。闇を払う光となり、仲間を守り給え」
セレスティアの祈りの声は、荒野の冷たい風に溶け込むように静かに響き渡り、仲間たちの胸に深い安堵をもたらす。その光は彼らを護り、再び進む力を与えた。セレスティアは微笑みながら瞳を閉じ、祈りの旋律を胸に刻み込む。
■ ■ ■
――カイ視点
ガロンとジークの力強い援護、リリアナとマギーの堅牢な結界、セレスティアの癒しの祈り。そのすべてが調和した瞬間、カイはルクスを剣先へ握り直し、大地へ渾身の力を込めて一閃した。蒼光の刃が荒野の瘴気を断ち切り、魔王軍の瘴気の残党を一掃するかのごとく輝いた。
「これが……仲間と誓った絆の力だ!」
カイの声が荒野にこだまし、仲間たちはそれぞれ深い息を吐きながらも確かな手応えを感じた。荒野の空気がわずかに清らかになり、遠くに見える魔王本陣の影が一瞬鮮明に映し出される。荒野を越え、瘴気を断ち切る道は続くが、仲間たちの誓いは揺るがない。彼らの心には、どんな試練も乗り越える揺るぎなき光が宿っている――。
63話終わり
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