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61話 再び荒野へ

――カイ視点


薄曇りの空が荒野を覆い、遠くにぼんやりとした山影が浮かぶ頃、一行は再び荒野へと足を踏み出した。先ほどの集落跡から確保した食料や水を馬車に積み込み、瘴気の残滓を断ち切った廃墟を後にしている。カイは剣ルクスを背に担ぎ直し、蒼光を帯びた刃先をわずかに覗かせながら足元の砂利を踏みしめた。

「荒野には瘴気の瘴獣だけでなく、魔王軍の残党兵も紛れ込んでいる可能性が高い。短期決戦で撃退し、最速で魔王本陣への道を進む」

カイは静かな声で仲間へ告げ、前方に見える小高い丘へ向けて一歩を踏み出した。丘の向こうには瘴気の気配を帯びた小群れが蠢いており、そこを突破しなければ次の補給地点へは辿り着けない。かつての戦いで仲間と重ねた傷跡を思い出しながら、カイは剣の柄に視線を落とし、仲間たちの顔を順に見渡した。


リリアナは杖を両手で強く握りしめながら、大きく息を吸い込む。蒼光の紋様が淡く揺らめき、瘴気の兆しを結界で遮断していた。背後ではマギーが巻物を整理し、次の呪文を構える準備を進めている。ガロンは剣を肩に担ぎ直し、足元を踏みしめながら前を見据えている。ジークは短弓を構えたまま、岩陰に潜む瘴獣や敵兵を見逃さぬよう視線を走らせている。セレスティアは杖を胸に抱え、祈りの光を微かに灯しながら、仲間の心身を癒す光を放ち続けている。ルレナはカイの足元に寄り添い、小さな背中で震えながらも仲間の背を見つめている。


「皆、気をつけろ。あの丘にはいくつもの瘴気の巣窟が隠れている。リリアナ、先導を頼む」

カイは剣を少し揺らしながらリリアナに合図した。リリアナは杖を高く掲げ、蒼光の結界を膨らませつつ前へと進んだ。その蒼光が砂煙をかき分けるように広がり、瘴気の濁りが束縛される。マギーは杖を杖帯に納め、巻物を開いて瘴気断裂陣の紋を地面に浮かび上がらせた。


■   ■   ■


リリアナ視点


カイの要請に応え、リリアナは杖を握る手を引き締め、ひそやかに詠唱を始めた。蒼光が杖先から勢いよく放たれ、足元の瘴気を一瞬にして凍結に近い状態へと変える。細かな結界の波紋が砂地に渦を巻き、瘴気の気配を軽減していった。リリアナは目を細め、先行して瘴気の層を探りながら仲間が安全に進めるように場を整える。


「瘴気浄化・結界展開……これで少なくともこの先の瘴気は一時的に抑えられるはず」

リリアナは声を震わせずに言い捨て、杖を振り下ろして結界を拡大した。砂地に落ちた瘴気の滴が光に触れる度に消えていき、かすかな黒い残滓だけが揺らめいている。リリアナは深呼吸し、次の呪文へと意識を切り替えた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナが蒼光の結界を展開する中、マギーは巻物を握り締め、「瘴気断裂陣」を詠唱した。地面に浮かび上がる紋様が瘴気を切り裂き、小さな空間を浄化していく。瘴気は断裂された瞬間、薄青い火花を散らして消え去る。マギーは仲間たちが足元を確保できるよう、結界と呪文を重ねながら進軍を支える。


「瘴気追放陣……瘴気の残余を抑え込むわ」

マギーはもう片方の杖を取り出し、地面に煌めく紋様を起動させた。瘴気の層が再び立ち上がろうとした瞬間に、その奔流を押し戻し、結界の外へと逃がした。マギーの繊細な詠唱が荒野に響き、仲間たちの足取りをより確かなものにしている。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーとリリアナが瘴気を浄化する中、ガロンは剣を構え直し、荒野の先を鋭い目で見つめた。砂地に点在する瓦礫の間から、瘴気魔獣の影がうねりながら出てくる気配を察知し、一気に前線へと突進した。剣先から迸る蒼光が瘴気魔獣を貫くと、その巨体は呻き声と共に崩れ落ち、砂地に瘴気の残滓だけが揺らめいた。


「瘴獣はこれでいい。次は人影だ」

ガロンは引き続き剣を構え、仲間たちが進めるように最前線を固める。太陽の光が薄曇りの雲間から差し込み、ガロンの剣を煌かせたその姿は、力強く揺るがぬ守り手の象徴のように見えた。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの声と共に、ジークは短弓を肩に掛けたままそっと茂みの陰へ潜り込んだ。荒野の草むらに紛れる瘴気魔獣や残党兵を見極めるため、ジークは視線を細め、呼吸を整える。やがて、瘴気を帯びた兵士数名が遅い足取りで現れ、仲間を待ち伏せようとしていることが分かった。ジークは真剣な表情で矢を番え、焦点を一瞬に定めた。


「ガロン、そちらに瘴気兵士がいる。正面を任せる。俺は援護を続行する」

ジークは小声で合図し、矢を一閃させた。瘴気をまとった矢が、狙いを外すことなく兵士の胸を貫き、そこに立ちはだかっていた瘴気の渦を切り裂いた。兵士は苦悶の表情を浮かべながら倒れ、瘴気の瘴流は小さく揺らめいて消えていった。ジークは再び矢を番え、次なる獲物を探し始めた。


■   ■   ■


セレスティア視点


剣と矢が瘴気を切り裂く中、セレスティアは杖を胸に抱き直し、祈りの光を強めた。彼女の祈りは仲間たちの心身を支え、荒野の瘴気を抑制する力を秘めている。辺りを包む冷たい空気に対抗するように、セレスティアの祈りの声が柔らかく響き渡った。


「愛と慈悲の光よ、今こそ我らを護り、闇を消し去り給え。仲間たちの心に揺るぎなき希望を灯し、瘴気の残余を浄化し給え」

セレスティアの祈りに応えるように、杖先から放たれた光が砂地に広がり、瘴気の層をまとめて押し返した。その光景を見たリリアナは杖を振りかざし、浄化の結界をさらに拡大する。


■   ■   ■


――カイ視点


荒野の戦いを見届けながら、カイは剣を握り直し、仲間たちに向かって凛とした声を放った。

「よくやった。皆のおかげでこの荒野を乗り越えられた。だが、魔王本陣はもうすぐそこだ。油断せず進もう」


カイは剣先を見つめながら、荒野の向こうに霞む城郭の黒い影を見据えた。その塀の向こうに、魔王アズラエルが待ち受けている。闇の瘴気を操り、世界を滅ぼさんとする魔王に挑む覚悟――それは仲間と共に歩み続ける強い意志そのものだった。


仲間たちはカイの言葉に頷き、再び荒野を進み始める。リリアナの蒼光、マギーの呪文、ガロンの剣撃、ジークの矢、セレスティアの祈り。それらすべてが重なり合い、暗い瘴気を押し返す光の道をつくり続ける。荒野の風が巻き上げる砂塵は、やがて琥珀色の朝日に照らされ、一行の足跡だけを残して消えていった。


こうして、「再び荒野へ」の章は、荒野を越える一行の決意と絆を描きながら、魔王本陣への最終決戦へと続く試練を示す場面で幕を閉じた。彼らの心には、仲間と共に進む揺るぎなき光が永遠に灯り続ける――。


61話終わり

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