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60話 再び魔王軍への道

――カイ視点


夜が明けきらぬ薄闇の空に、かすかな紅が混じり始めた頃、一行は古代神殿の廊下を抜けて辺境の荒野へ再び足を踏み出した。先ほどの戦いで瘴気を断ち切ったとはいえ、大地にはまだ黒い瘴気の残滓がくすぶり、地面がわずかに震えているのを感じた。

カイはルクスを背中に担ぎ直し、剣先から漏れる蒼光をわずかに揺らしながら深く息を吸い込んだ。仲間たちは剣や杖をしっかりと握りしめ、小さな振動にも怯えず進み続ける覚悟を見せている。カイは仲間たち一人ひとりに目を向け、静かに言葉を紡いだ。

「ここから先は、魔王軍が本格的に牙を剥く場所だ。瘴気の残党が一斉に襲いかかってくる可能性が高い。皆、油断は禁物だ」

リリアナは杖を高く掲げ、刹那的に蒼光の結界を一行の周囲に展開した。瘴気の残滓が結界に触れる度に蒼光が弾け、黒い霧がほんのわずかに層を薄められる。マギーは巻物を胸に抱え、次の呪文の瞬時発動に備えて視線を巡らせる。ガロンは剣を肩にかけながら、先を歩くカイの背中を警戒深く見守っている。ジークは短弓を握りしめ、いつでも矢を放てる構えをとっている。セレスティアは杖を胸に抱え、光の祈りを静かに流し続けている。ルレナはカイの足元に寄り添い、小さな声で「私も頑張る」と呟いていた。


草原が切り拓かれた細い土道に出ると、廃墟と化した集落が視界に入った。崩れた屋根、亀裂の入った土壁、瘴気の蒸気がかすかに立ち上る。かつては人々の笑い声が響いたはずのこの場所も、今は魔王軍の残党が通り過ぎた痕跡を残すのみだ。カイは剣先を地面に軽く突き立て、仲間たちに向かって厳しい声を上げた。

「この集落には、食糧や物資がまだ残っているかもしれない。ジーク、マギーと共に周囲を掃討しつつ、補給できるものを探そう」


ジークは軽く頷き、短弓を背に掛けたまま、廃墟の奥へと踏み込んでいった。マギーは巻物を片手に「瘴気断裂陣」を詠唱し、瘴気の残滓を見つける度にそれを断ち切っていく。リリアナは蒼光の結界を維持しながらカイと共に集落の中央へ進む。ガロンは剣を軽く揺らしつつ、集落の入口で警戒を固め、セレスティアは祈りの光を遠くに放ちながら仲間の無事を願っている。


集落中央に近づくと、瓦礫の隙間からかすかに動く影が見えた。ジークが坪から飛び出してきた瘴気魔獣を射抜き、その場で倒すと、リリアナは詠唱を続け「浄化の結界」を一気に拡大し、瘴気の瘴流を押し返した。マギーは巻物を開き「瘴気追放陣」を発動し、瘴気を一掃する呪文を完了させた。ガロンは剣をひるがえし、地面に小さく切り裂くような一閃を放って破片を浄化した。


■   ■   ■


リリアナ視点


ジークとマギーが瘴気魔獣を片付ける中、リリアナは杖をしっかり握り直し、蒼光の結界を小刻みに揺らめかせながら詠唱を継続している。瘴気の黒い濁りが結界に触れる度に、蒼光が揺らめき、黒い影がぱ瞬間凍るかのように静止した。リリアナの心臓は激しく鼓動しているが、その目はどこまでも冷静だ。


「瘴気を断ち切り、ここに平穏を取り戻すの。仲間たちを守るために、私は何度でも祈りを紡ぎ続ける」


リリアナは震える声で呟くと、杖を優雅に振るって結界を再構築した。その光はカイたちの足元を包み込み、揺らめく瘴気を光の帯となって押し返した。リリアナの湛えた目には、仲間への揺るがぬ想いと、ここで倒れた人々への哀悼の念が込められている。穏やかな朝の空気を切り裂くかのように、リリアナの蒼光は一面の瘴気を一瞬で浄化していった。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの蒼光の結界に呼応しながら、マギーは巻物を胸に抱え直し、瘴気断裂陣を再度発動した。瘴気が断ち割られるように一閃し、黒い瘴流がぽたりと地面に落ちていく。マギーは冷静に次の呪文の構成を思い浮かべながら、仲間たちが安全に動ける空間を維持しようと集中している。


「瘴気追放陣、発動! 瘴気の残余を完全に消し去らせて」


マギーの発動した呪文は、瘴気を一時的に凍結させる効果を持つ。それによって、瘴気魔獣が再び這い出してくることを防ぎ、リリアナやセレスティアが放つ浄化の光をより強固に固定させることができる。マギーは巻物を軽く閉じ、周囲の風景を見渡して疲れた仲間たちに安堵をもたらそうと祈りを込めた。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーの呪文が瘴気を凍結した瞬間、ガロンは剣を大きく振り下ろし、瘴気魔獣の残骸を切り刻んだ。その刃先から迸る蒼光は、氷結した瘴気を砕くように走り、黒い霧の残滓が霧散していく。ガロンは剣を横に突きつけ、仲間たちへ向けて声を上げた。


「もう大丈夫だ。次の敵を迎え撃つぞ。油断は禁物だが、皆の力を信じて進むだけだ」


ガロンの声は揺るがぬ力を持っており、その言葉に仲間たちは深く頷いた。ガロンは剣を背に担ぎ直し、荒涼とした草原を見渡した。次なる迫り来る瘴気のうねりは、集落を越えた先にある魔王軍の大軍勢から来ることを予感させる。ガロンの胸には「仲間を守る」という揺るぎなき誓いが再び灯った。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの号令を合図に、ジークは短弓を肩に掛け直し、弓を引き絞った。集落を越えた先には、魔王軍の残党が既に大軍勢を組んでおり、彼らが瘴気をまとって襲いかかってくることを察知している。ジークは暗い瞳を細め、焦点を遠くの地平線に合わせた。わずかな揺らめきが視界を横切り、瘴気を帯びた騎馬兵の影が浮かび上がる。


「奴らはもうすぐだ。俺の矢で一人でも多くの敵を仕留める。仲間の背中は絶対に守る」


ジークは矢を番え、わずかな隙を突いて一閃した。瘴気をまとった騎馬兵の頭上を狙い、射抜くと、そのまま群れの中へと突っ込んでいく。矢が仲間たちへ道を切り開き、ガロンやカイが斬り込む隙を生み出す。ジークの矢が次々と瘴気を貫き、仲間が安全に進軍できる環境を確保する。


■   ■   ■


セレスティア視点


ジークの活躍を見届けながら、セレスティアは杖を胸に抱え、小さな祈りの声を紡ぎ続けている。その祈りは仲間たちに勇気を与え、傷ついた心身を癒しながらも、衝突する瘴気を浄化し続ける。魔王軍の騎馬兵が駆け寄る中、セレスティアの光は盾となり、瘴気を弾き返すかのように揺らめいた。


「愛と慈悲の光よ、我らを包み込み、闇を払いたまえ。仲間たちの心に揺るぎなき希望を灯し、明日への道を照らし給え」


セレスティアの祈りは薄明かりの草原に柔らかな風を生み出し、瘴気を凍結させるかのように揺らめく光の帯を形成する。その光は仲間が進むべき道を示し、次なる戦いへの安心感をもたらす。


■   ■   ■


――カイ視点


ジークの矢によって道が切り開かれ、ガロンやリリアナ、マギー、セレスティアの連携が瘴気を浄化し続ける中、カイは剣ルクスを空に掲げた。その刃先から放たれる蒼光は、仲間たちと共鳴しつつ、暗い草原を照らし出す。カイは仲間たちを見渡し、静かに微笑んだ。


「皆、よく来た。これから先に待つのは魔王軍の本陣だ。瘴気の大軍勢が襲いかかってくるが、俺たちの絆と光があれば、必ず突破できる」


カイは剣先を大きく振り下ろし、その一振りで瘴気を伴う風を切り裂くように放った。その力強い一撃は、仲間たちに再び勇気を与えた。蒼光が仲間の背中を包み込む中、一行は草原を駆け抜け、薄明かりの地平線へと向かって突き進んでいった。そこで待つのは、魔王アズラエルとの最終決戦。だが、互いを信じ合う絆と祈りの光があれば、どんな闇も恐れぬ。彼らの歩みは、再び魔王軍の大軍勢を前にしても揺らぐことはない――。


60話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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