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59話 リリアナの決意

リリアナ視点


朝の薄光が古代神殿の遺構に差し込む頃、リリアナは小さく凍える風に背を押されながら、朽ち果てた柱の陰に佇んでいた。彼女の手には杖が握られ、蒼光の紋様が微かに揺らめいている。先ほどの休息で、一行はわずかばかりの安息を得たものの、すでに瘴気を帯びた空気は次なる戦いの気配を秘めていた。リリアナは深呼吸をし、自らに言い聞かせるように呟いた。

「私は……必ず、あなたを信じる。この祈りと決意が、私たちを未来へ導く」


リリアナの胸に去来するのは、セレスティアから授かった光の歌声と、カイの真っ直ぐな瞳の記憶だ。大地を穿つ瘴気を前にしても、カイの背中は一度も揺らがなかった。マギーの呪文が瘴気の奔流を断ち切り、ガロンの剣が剛毅に瘴気魔獣を薙ぎ払い、ジークの矢が闇に牙を突き立てた。リリアナはそのすべてを見届け、胸に深い覚悟を刻み込む。


「私の魔力で、皆を支える。誰一人欠けることなく、闇を切り裂く翼になるわ」


ふと、神殿の大扉の奥からかすかな足音が響いた。瘴気を帯びた気配がわずかに揺らぎ、リリアナは杖を強く握りしめた。彼女は意識を研ぎ澄ませ、魔王本陣へと続く最終の通路へ視線を注ぐ。その目に宿る蒼光は、恐怖を知らぬほど強く揺るがない。


「来る……仲間がここを通過する。私が君たちを導くために道を照らす」


リリアナは杖先から蒼光を緩やかに放ち、瘴気の残響を浄化しながら神殿の大扉へと歩みを進めた。足元の石畳には焦げた瘴気の痕が深く刻まれており、かすかながら黒い霧がわだかまっている。しかし、その上を歩くリリアナの蒼光は、まるで凛とした誓いのように揺らめき、闇を退けていく。


柱の影から一行が姿を現した。カイは剣ルクスを背に担ぎ、再び険しい表情を浮かべながら前に進む。マギーは巻物を抱え、ガロンは剣を構え直し、ジークは短弓を肩に掛けている。セレスティアは祈りの光を胸に湛えつつ、リリアナの横に寄り添っている。リリアナは仲間の顔を順に見渡し、その目に深い愛情と信頼を宿して微笑んだ。


「ここから先は、私が先導する。瘴気の流れを遮り、魂の光で暗闇を照らす。皆は私の蒼光に続いて」


リリアナは杖を高く掲げ、蒼光の大きな結界を展開した。その結界は瘴気を断ち切る楔のように、大扉の前に揺らめく黒い霧を静かに押し退けていく。リリアナの穏やかな詠唱と共に、瘴気の残滓が光の粒となって舞い上がり、下へと流れ落ちていく。仲間たちはその光の道を信じ、ひとり、またひとりと足を踏み出した。


■   ■   ■


――カイ視点


リリアナの蒼光が瘴気を抑え込む中、カイは剣を握る手に力を込めた。彼は深い青の瞳でリリアナの背中を見つめ、その揺るぎなき決意を受け止める。瘴気の残響が神殿の隅々から一瞬だけ立ちのぼるが、リリアナの光はそれを一瞬で凍りつかせ、消し去る。


「リリアナの光があれば、どんな闇も打ち破れる。俺はお前と共に、この先の階段を登る」


カイは仲間たちを振り返りながら呟き、剣ルクスを一度だけ軽く揺らした。その刃先から滲む蒼光は、リリアナの結界と共鳴し、さらに強烈な光の刃となって神殿の大扉へと放たれる。瘴気の杞憂は音もなく裂かれ、光の軌跡だけが暗い壁に残る。ガロンとジークは一歩遅れてカイの背後に続き、その剣と矢先に光を帯びた硝煙のような瘴気の塊を斬り裂いていく。マギーは巻物を詠唱し、瘴気断裂陣を発動して残余の瘴気を断ち切る。セレスティアは祈りの声を高め、仲間たちの心身を癒しながらも光を注ぎ続ける。


カイは剣先を大扉へと向け、一歩を踏み出した。光と闇がぶつかる瞬間、その先にはまだ見ぬ戦場が広がっている。だが、カイの心は揺るがない。リリアナの決意が、そのまま自分の胸に焼き付けられているからだ。


「行くぞ、皆。最後の階段を――」


カイの声が神殿にこだまし、仲間たちは剣と杖、矢と祈りの光を携えながら、階段へと歩を進めた。その背中には、互いに信じ合う絆が蒼い炎のように燃え盛っている。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナとカイの背中を見つめながら、マギーは巻物を胸に抱き直し、呪文の構成を再度思い浮かべた。瘴気断裂陣と瘴気追放陣を組み合わせた強力な結界が仲間を護り、その呪文がある限り、瘴気は二度と仲間に牙を剥くことはないと確信している。マギーは小さく深呼吸をし、巻物の頁を指先で押さえながら、仲間たちへ最後の支援を届ける覚悟を固めた。


「瘴気封鎧陣、発動――」

マギーはささやくように詠唱し、仲間たちの身体を瘴気から守る結界を張り巡らせた。剣を構えるガロン、杖を掲げるリリアナ、短弓を肩に掛けるジーク、祈りを捧げるセレスティア、そしてカイの大剣ルクスの姿を包み込み、まるで静かな風に護られるかのように穏やかな光を放った。マギーは巻物を閉じつつ、仲間たちが安心して戦える環境を作り出したことに満足し、次の呪文を反芻しながら共鳴する蒼光の結界を見つめた。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーが瘴気封鎧陣を発動したその瞬間、ガロンは剣をしっかりと握り直した。剣先から迸る蒼光は、瘴気を完全に封じ込めた結界の中でさらに力を増している。ガロンは眼前にある階段を見上げ、剣に囁きかけるように呟いた。


「共に戦ってきた仲間を、最後まで守り抜く。それが俺の誓いだ」


ガロンの剣からは微かな震動が伝わり、彼の精神が一層昂る。剣を抜き放ち、仲間と共鳴する蒼光の刃で階段の段差を蹴り上げるように跳躍し、先陣を切って登り始めた。ガロンの背中には、かつて守りきれなかった人々の顔が一瞬よぎるが、すぐに仲間たちの笑顔が浮かび、その笑顔を胸に燃え上がる決意で剣を振るい続けた。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの突進を見届けたジークは、一瞬の隙を狙い、短弓を静かに引き絞った。階段を登る仲間の背後を護るように、ジークは矢を放ち、暗がりから飛び出してくる瘴気の残党を正確に仕留めていく。矢は瘴気を貫き、黒い霧が一瞬揺らめく。ジークは短く息を吐き、次の引き金に備えた。


「仲間の背中は俺が守る。誰一人欠けることなく――」

ジークは心の中で誓うと、再び矢を番え、次の闇を切り裂く準備を整えた。その瞳には力強い覚悟が宿り、剣を掲げるガロン、杖を振るうリリアナ、祈りを捧げるセレスティア、そしてカイの勇姿を見据えてわずかに微笑んだ。


■   ■   ■


セレスティア視点


階段の登り口で祈りの光を放つセレスティアは、杖先から放たれる光を揺らめかせながら、仲間たちの傷ついた心身を癒し続けた。聖女としての使命と、自らの命の限界を知るからこそ、セレスティアの祈りはより深く重く響く。


「愛と慈悲の光よ、仲間たちに癒しを与え、魂の闇を浄化し給え。この一歩が、世界を救う希望となるように」

セレスティアは優しく眼を閉じ、祈りの旋律を紡ぎ続けた。仲間たちが階段を登る度に、セレスティアの祈りは彼らの背中を包み込み、暗い瘴気を遠ざけていく。やがてその光は、神殿の柱を越えて広がり、遙か先の闘いの場まで届きそうなほど強く輝いた。


思わず目を開けたセレスティアは、その温かな光が仲間を支えていることを確信し、杖を握る手を再び強く握りしめた。


「たとえ命尽きても、私の光は消えない。仲間を守り、闇を照らす灯火となり続けるわ」


■   ■   ■


再びリリアナ視点


ガロン、ジーク、セレスティアが階段を登る中、リリアナは最後に杖先から放つ蒼光を大きく揺らめかせた。霧を振り払うように光を強めると、その蒼光は神殿の大扉を超えて廊下を伝い、魔王本陣の奥へと光の道を示していた。リリアナは深く息を吸い込み、仲間の背を見つめながら誓いを新たにした。


「私の祈りが、この闘いを照らす光となるように。皆と共に、未来を手に入れるまで――決して揺るがない蒼光を放ち続ける」


そう言い放ち、リリアナは杖を高く掲げたまま階段を駆け上がった。その背中には、仲間と分かち合う揺るぎなき絆と、聖女としての揺るぎなき決意が蒼い炎のごとく燃え盛っている。


こうして、「リリアナの決意」の章は、聖女の覚悟と仲間への揺るがぬ信頼を胸に刻みつつ、魔王本陣への道を進む一行の蒼光が神殿の闇を切り裂く場面で幕を閉じた。彼らの心には、希望の光が永遠に宿り続ける――。


59話終わり

お読みいただきありがとうございます。

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