57話 盗賊ジークの報せ
ジーク視点
夜明けの光が徐々に地平線を染める頃、ジークは暗がりに紛れて淀んだ泉のほとりにたたずんでいた。彼の背後には小さな荷馬車があり、その荷物には数日の旅で集めた薬草や情報がぎっしりと詰め込まれている。ジークは息を吸い込み、手を胸元に当てた。
「俺は…仲間のために戻ってきたんだ」
ジークは静かに呟くと、暗がりから再び這い出してきた瘴気の影に気付かれぬよう、そっと前方を見つめた。その先には、剣と杖を携えたカイたちの小さな姿が霞んでいる。彼らは階段を下りきり、魔王本陣の入口へと続く道標を探している様子だった。
ジークは短弓を肩に掛け直し、軽い足取りで仲間の背後へと近付いた。ほんの数歩の距離を置き、再会の瞬間を待つ。
「カイ、リリアナ、マギー、ガロン、セレスティア――お久しぶりだ」
ジークが低く声をかけると、仲間たちは一斉に振り返った。カイの瞳には驚きと喜びが交錯し、リリアナは杖を構えかけたが、ジークの顔を見るとすぐに安堵の表情を浮かべた。マギーは巻物を胸に抱えながらジークを確認し、ほっとしたように笑みをこぼす。ガロンは剣をすっと納め、ジークに向かって頷いた。セレスティアは杖を水面にかざして放たれる光をゆったりと揺らめかせ、ジークに穏やかな光を贈った。
カイは驚きつつも駆け寄り、
「ジーク! お前はどうしてここに…?」
と問いかける。ジークは小さく笑いながら頭を軽くかしげた。
「商隊を守りきったあと、俺はあの村へ戻ると言った。だが、村はまだ安息を得られていなかった。母さんも元気にしてる。だが、魔王軍の残党が村を襲うかもしれないという情報を得たんだ。だから、急いで戻るつもりだったけど…君たちを追いかけた」
ジークは仲間たちを順に見渡しながら、まっすぐに告げた。
■ ■ ■
リリアナ視点
ジークの声を聞いた瞬間、リリアナは杖を胸に抱えたまま言葉を失った。彼が再び姿を現したこと自体が奇跡のように思えた。瘴気に染まった大地を駆け抜け、仲間と村を守るために何度も命の危機を乗り越えてきたジークの姿を思い出すと、リリアナの胸は熱くなる。
「ジーク…あなたが来てくれるなんて…」
リリアナは涙を浮かべながら、杖を一度だけ振りかざし、蒼光の瀑布のような結界を軽く展開した。その光が薄霧を溶かし、仲間たちの顔を優しく照らす。リリアナは深く息を吸い込み、ジークの肩にそっと手を置いた。
「あなたがいてくれるだけで、私は安心できるわ。ありがとう、本当に…」
リリアナの声には感謝と安堵が込められていた。ジークはそんな彼女の手を軽く握り返し、微笑んだ。
■ ■ ■
マギー視点
マギーは巻物をしまい込みながら、ジークの再登場に驚きを隠せずにいた。瘴気呪術の研鑽に没頭しつつ、仲間たちを支援し続けてきた彼女にとって、ジークの不意の帰還は何よりも大きな助けになる。マギーは薄暗い朝霧の中で、自分の魔力をひそかに感じ取りながら言葉を紡いだ。
「ジーク、戻ってきてくれて本当にありがとう。あなたの報せで、我々はこれから先に進む覚悟をさらに強く持てる」
マギーは巻物を胸に抱えながら仲間に視線を巡らせ、瘴気封じの呪文を軽く唱えて一行を包み込む結界を補強した。冷え込む空気の中、呪文が静かに響きわたり、瘴気の残滓を押し込めていく。
■ ■ ■
ガロン視点
ガロンは剣を腰に納め直し、ジークへ向かって険しい表情をほぐした。戦場で幾度も支え合った日々を思い返しながら、ガロンは心の中で改めて誓いを新たにしていた。
「ジーク、お前が来てくれたのは心強い。あの野郎どもに村を壊されてから俺は…復讐しか考えられなかった。だが、お前が無事でいてくれてよかった。お前の矢がある限り、俺たちはどこまでも戦える」
ガロンは穏やかな声で告げると、指先で剣の柄を軽く撫でた。剣先の蒼光がわずかに揺れ、ガロンの決意を映し出す。ジークは軽く微笑み、そんなガロンの声に頷いた。
■ ■ ■
セレスティア視点
セレスティアは杖を胸に抱えながら、仲間たちを包み込む祈りの光を放ち続けている。ジークの再登場は、まるで暗闇に一筋の光が差し込むかのような安堵をもたらした。セレスティアは静かに祈りを紡ぎながら、短い祝福の詩を口ずさんだ。
「愛と慈悲の光よ、我らを包み込み、闇に怯えることなく進む力を与え給え。ジークの再会は、仲間たちの心に新たな希望を灯す。どうか、この光が闇を貫き、我らが進む道を守り給え」
その囁きは、仲間たちの胸に穏やかな安心を浸透させる。やがて祈りを終えたセレスティアは小さく微笑み、杖先の光を湛えたまま仲間へと視線を向けた。
■ ■ ■
――カイ視点
カイはジークを迎え入れた後、深呼吸を整えながら一行を見回した。仲間たちはそれぞれの思いを胸に、新たな誓いを立てている。ジークの報せによって、ベルナールが魔王軍の中枢へ合流したことが判明した。これから待ち受けるのは、最終決戦の前に訪れるであろう最大の試練――魔王軍の大軍勢を突破することだ。
「ジーク、報せありがとう。ベルナールが中枢へ合流しているという情報は、俺たちにとって最も重要だ。奴は瘴気を使ってあらゆる道を封じようとするはずだ。だが、仲間と共に歩む道は、必ず光で切り開いてみせる」
カイは剣を握る手に力を込め、仲間たちを一瞥した。リリアナは杖をかかげ、光の結界をさらに強化しようとしている。マギーは巻物を胸に抱え、次の呪文構成を練り直している。ガロンは剣を構え直し、ジークは短弓を肩に掛け直し、セレスティアは祈りの光を強めている。ルレナはまだ幼い体で仲間たちを見上げ、揺るぎなき輝きを宿す瞳で「私も頑張る」と心の中で誓った。
仲間たちの絆と光が、これから先に立ちはだかる闇を打ち砕く。ジークの報せが仲間に新たな覚悟を与え、彼らは再び歩みを進める。薄明かりの街道に一筋の希望を照らしながら、魔王本陣へ続く長い旅路は続いていく――。
57話終わり
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