56話 街道の襲撃者
――カイ視点
夜明け前の薄霧が立ち込める街道を、一行は慎重に進んでいた。魔王本陣へ向かう最終決戦の前哨戦として、敵の補給線を断つため、この街道を通過する商隊を護衛しながら移動する必要があった。しかし、ここは魔王軍の残党が頻繁に襲撃を仕掛けてくる危険地帯でもある。カイは剣ルクスを背中に担ぎ、蒼光を帯びた刃先をほんのわずかに揺らしながら警戒の視線を巡らせた。霧に覆われた両脇の茂みの陰に、瘴気を帯びた気配が潜んでいないか、注意深く感覚を研ぎ澄ませる。
「要注意だ。この辺りは既に魔王軍の残党が拠点を築いている可能性が高い。仲間と共に油断せずに進め」
カイは低く囁き、傍にいるリリアナとマギーに視線を投げる。リリアナは杖を握りしめ、蒼光の小さな結界を展開して霧の中の瘴気を掃き払おうとしている。マギーは巻物を胸に抱え、後方から呪文を発動して補助しようと準備中だ。ガロンとジークはそれぞれ剣と弓を構え、眼光鋭く周囲を見張っている。セレスティアは祈りの光を体中に湛えながら、一行の後方を護衛する位置取りをしていた。
「この街道沿いにある小さな集落を経由しつつ進む。補給物資を集めると同時に情報収集も行う。気配が怪しくなったらすぐに合図を」
カイは仲間に合図すると、足元に敷かれた石畳から冷気が伝わってくるのを感じた。霧が濃くなる中、カイは一瞬だけ影がサッと動いたのを捉える。振り返ると、茂みの奥に黒い影が潜んでいた。
「来るぞ!」
カイは叫び、剣を抜き放った。
■ ■ ■
リリアナ視点
カイの声を聞いて振り返った瞬間、リリアナは杖を高く掲げつつ呪文を詠唱し始めた。蒼光が杖先から滲み出し、霧の中の瘴気を浄化するように流れ出す。影の正体は、瘴気を纏った三人の暗殺者風の影だった。彼らは魔剣の噂を聞きつけ、仲間を引き裂こうと待ち伏せしていたのだ。リリアナは蒼光の結界を展開しながら、
「浄化の結界、発動! 瘴気を抑え込み、この場を浄化します!」
と叫んだ。蒼光の渦が暗殺者たちを包み込み、瘴気を断ち切るように光が走り抜ける。しかし、暗殺者たちは瘴気を操る古の術を使い、一瞬でリリアナの結界を突き破ろうとした。リリアナは焦ることなく、さらなる呪文を詠唱し、蒼光を剣のように尖らせて一人を切り裂いた。その血しぶきは微かに瘴気を含み、地面に滴り落ちる。
■ ■ ■
マギー視点
リリアナの結界が瘴気を断ち切る中、マギーは巻物を取り出し「瘴気断裂陣」を唱え、瘴気の残滓をさらに断ち切る準備を進めた。茂みから飛び出してきた暗殺者二人が、瘴気を籠めた短剣を振りかざして襲いかかる。マギーは短剣を受け止めるように手を打ち鳴らし、
「瘴気追放陣、展開! 瘴気の呪詛を裂き、呪術を打ち砕く!」
と叫んだ。地面に浮かび上がる結界紋が瘴気を押し返し、暗殺者たちは一瞬の隙を突かれて崩れ落ちた。マギーは巻物を巻き直し、次の呪文である「瘴気封鎧陣」の詠唱へと移る。その呪文は仲間の体に瘴気が付着しないよう守る結界を形成するものだ。
「ガロン、カイ、ジークの順に瘴気封鎧陣を展開。狭い場所での接近戦を想定して!」
マギーは仲間に合図し、ガロンは剣を握る手元に結界の紋を張り付けて瘴気を払い、ジークは短弓の弓身に小さな結界を巻き込んで矢を放つ準備を進めていた。
■ ■ ■
ガロン視点
マギーの指示を受けて、ガロンは剣を構えながら足元の瘴気残滓を払う結界を展開した。その盾となる結界は、剣に触れた瘴気を瞬時に浄化し、ガロンの視界と行動を妨げない。暗殺者の一人が二人目の刃を振り下ろして襲いかかってきたが、ガロンは剣を天に掲げ、「蒼光剣戟」を放った。蒼光の剣撃が瘴気を伴って走り、暗殺者の肋骨をえぐるように斬り裂いた。瘴気を沈黙させるかのように黒い霧が凪ぎ、ガロンは剣を抜き放つと、
「これで全員か? さあ、次へ進むぞ」
と仲間に声をかけた。
■ ■ ■
ジーク視点
ガロンの剣撃が暗殺者を撃破した後、ジークは短弓を肩に掛けたままさらに茂みの奥を警戒した。商隊の護衛として同行していた行商人や農民たちは距離を置き、震える声で感謝を口にしている。ジークは静かに矢を番え、再び暗殺者が起き上がってこないか確認した。だが、瘴気封鎧陣が展開されているため、暗殺者の瘴気は完全に浄化され、立ち上がることはなかった。
「これで皆安全だ。行商人たちにはここで休息を取ってもらい、我々は魔王本陣へ向かう道をさらに進む」
ジークはその言葉を聞き届けた行商人たちが小規模な陣地を組むための準備を始めるのを見守りながら、仲間へ合図を送り次の行動に移る準備をした。
■ ■ ■
セレスティア視点
ジークの合図と共に、セレスティアは杖を胸に抱えたまま祈りを強め、仲間たちの傷ついた心身を癒す光の結界を広げた。その光は暗い瘴気が漂う草むらを包み込み、穏やかな祝福の空気をもたらす。村人たちが感謝の涙を浮かべる中、セレスティアはそっと祈りを紡ぎ続けた。
「愛と慈悲の光よ、この者たちの傷を癒し給え。再び立ち上がる力を与え給え」
祈りの旋律が夜明けの風に乗り、草むらを揺らす。行商人たちはセレスティアの祈りが放つ温かい光を感じ取り、自然と胸を撫で下ろしていく。杖先から放たれた小さな光の波紋が仲間たちにも届き、彼らは再び歩むための力を取り戻す。
■ ■ ■
――カイ視点
仲間たちの援護と村人たちの感謝が交錯する中、カイは胸を張り、再び階段を登る覚悟を固めた。魔王本陣までの距離はまだ遠いが、かつての旅路で得た絆と信頼が彼らを支えている。
「仲間たち、我々はもう一度歩き始める。短い休息は終わりだ。魔王本陣への道を再度進もう」
カイの号令に仲間たちは再び立ち上がり、リリアナは杖を高く掲げて蒼光の結界を再構築し、マギーは巻物を胸に抱え直し、ガロンは剣を握りしめ、ジークは短弓を背に掛け直し、セレスティアは祈りの光を強めた。ルレナは小さな身体を少し震わせながらも、仲間の背中を見つめて微笑んだ。
夜明けの光が霧を裂き、薄紅色の空が街道を照らし出す。彼らの前には再び険しい道が続いているが、仲間の絆があれば、どんな困難も乗り越えられるという確信が胸に灯っている――。
56話終わり
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