表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/100

52話 ベルナールの策略

――カイ視点


夜明け前の薄暗い廊下に、一行は緊張感を漂わせながら足音を響かせていた。前夜の決戦序章を乗り越え、瘴気魔獣や呪術師を払いのけて魔王本陣への最終通路を開いたが、真の試練はこれからだ。カイはルクスを背に担ぎ、蒼光の刃先を廊下の先端へ向けた。壁面には魔王軍の紋章が刻まれ、瘴気がところどころで漏れ出している。天井には割れ目が生じ、かすかに瘴気を噴き出していた。


「ここから先は、ベルナールの策略が本領を発揮する場所だ。奴の瘴気呪術は、単なる魔術の域を超えている。油断できない」

カイは低く呟き、足元の石畳に滲む瘴気を感じ取るように目を細めた。瘴気はまるで生き物のように蠢き、その一部は壁から皮膚を這うかのように床へと滴り落ちている。リリアナやマギー、セレスティアが結界を形成し、瘴気の流入を抑えているものの、ベルナールがどのようにこの瘴気を操作するのか予断は許さない。


仲間たちは互いに一瞥を交わしながら進む。リリアナは杖を高く掲げ、蒼光を放ちながら先読みを試み、マギーは巻物を握りしめて次の呪文の詠唱準備を整えている。ガロンは剣を揺らしながら警戒を怠らず、ジークは短弓を肩に掛けて草むらの如き影を監視する。セレスティアは杖を胸に抱え、祈りの光で仲間たちの心を支え続けている。ルレナはまだ幼い肩を震わせながらも、仲間の後ろを離れずに歩んでいる。


長い廊下を抜けると、やがて一行は大きな円形のホールに辿り着いた。中央には円形の台座があり、その上には古びた魔道書が開かれて置かれている。その周囲には瘴気の柱が複数本立ち並び、黒い渦を巻きながら天井へとつながっている。壁には魔王軍の尖兵として名を馳せた瘴気呪術師たちの肖像画が並び、その瞳がまるで生きているかのようにこちらを見つめる。カイは剣先から迸る蒼光を魔道書へ向けた。


「見ろ、この魔道書があるということは、ベルナールはここで瘴気呪術の強化を図っているはずだ。今まで散発的に仕掛けてきた瘴気の罠は、この場所で用意されたものだったんだな」

カイは剣をゆっくりと振り下ろし、蒼光の閃光が瘴気を切り裂いて魔道書を照らし出した。その瞬間、マギーが巻物を取り出し、呪文の詠唱を始める。魔道書のページは風に翻るように勝手に動き、瘴気の影響を受けながら蠢くルーン文字が浮かび上がっていた。


■   ■   ■


リリアナ視点


ホールの中央で揺れる瘴気の柱を見つめるリリアナは、杖をしっかりと握りしめた。瘴気の柱はまるで生きた瘴気の樹木のようにうねり、その先端から滴り落ちる黒い霧が床に染み込んでいく。リリアナは杖先をぐっと床へと押し当て、蒼光の結界を広げながら瘴気を浄化するように呪文を詠唱した。


「瘴気浄化・結界展開! この瘴気柱を抑え込む!」

リリアナの蒼光が瘴気の柱を切り裂くように広がり、黒い霧が光に触れるたびに消え去っていく。しかし、瘴気の柱は簡単には浄化されず、抵抗するかのように瘴気を強化して周囲へ噴き散らしている。リリアナは焦ることなく杖を高く掲げ、魔道書の傍に向かって一歩進んだ。瘴気の柱をけん制しつつ、仲間たちに援護射撃の合図を送る。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界と共に、マギーは巻物を取り出して「瘴気断裂陣」「瘴気追放陣」を組み合わせ、瘴気の柱を分断していく。魔道書の周囲に浮かぶルーン文字がまるで魔術の触媒となり、瘴気を活性化させているため、その吸収力は非常に強い。マギーは指先で巻物のページを押さえながら、呪文を詠唱し続けた。


「瘴気断裂陣発動! 瘴気追放陣、重ね合わせ!」

マギーの発動した呪文によって、瘴気の柱が激しく揺らぎ、瘴気が収束するたびに魔道書のページが青く発光した。マギーは巻物を片手に持ち、もう片方の手で瘴気の結界を修正しながら、仲間へ安全な進路を確保する。その背後ではジークが短弓を構え、隔壁の奥へと進む仲間を支援するように次々と矢を放ち、瘴気呪術師の動きを封じていた。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーとリリアナの連携が瘴気の柱を揺るがす中、ガロンは剣を握りしめて突進した。瘴気呪術師が円形に配置され、魔道書の儀式を阻止しようとしている。ガロンは剣先から蒼光を迸らせ、瘴気を帯びた刃を振るうと、呪術師のひとりを一閃で打ち倒した。蒼光の剣撃が瘴気の結界を切り裂き、そのまま次の呪術師へと斬り込む。


「ここで奴らの儀式を止める! 魔王本陣への道は奪われん!」

ガロンの声がホールに轟き、瘴気の柱が一瞬揺らめいた。その隙にカイはルクスを抜き放ち、剣先から放たれる蒼光を魔道書へ向けて一閃させた。魔道書に触れた蒼光は、瘴気によって重くなった古代文字を貫き、ページを破り裂くかのように光を放った。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの突進に合わせ、ジークは路地裏のように入り込んだ廊下の陰から矢を番えた。瘴気呪術師が先陣を切ったガロンに反撃しようと瘴気を纏った火球を放つが、ジークはその飛翔を見逃さず、一瞬の隙をついて矢を放った。その矢は瘴気の火球を貫き、瘴気の奔流を破壊すると同時に呪術師の胸を貫いた。呪術師は呻き声を上げながら後退し、倒れ込んで瘴気の柱が若干揺らめいた。


「仲間たちを守るためなら、この矢は何十本でも放つ」

ジークは短弓を背に掛け直し、次の狙いを定めようと視線を廊下の先へ移した。ベルナールの策略を打ち破るには、魔道書を破壊し、瘴気の源を断つ必要がある。ジークは仲間の後方を支えつつ、一瞬たりとも気を抜かない覚悟を胸に刻んでいた。


■   ■   ■


セレスティア視点


ガロンとジークが瘴気呪術師を切り裂く戦いの中、セレスティアは杖を胸に抱え、慈愛の祈りを捧げている。その祈りの光は仲間たちの疲労を癒し、瘴気の渦に抗う力を与え続けている。セレスティアは目を閉じ、深い息を吸って祈りを紡いだ。


「愛と慈悲の光よ、我らが揺らぐ決意に鎮まりを与え給え。この儀式の悪しき力を浄化し、闇を打ち砕き給え」

祈りの声が古代の石壁に反響し、杖先から放たれた光が廊下全体を淡い暖色に染める。その光は瘴気の柱にまとわりつく黒い霧をはね返し、仲間たちの傷ついた心と肉体を包み込むように揺らめいている。


■   ■   ■


――カイ視点


ガロンとジークの斬撃が瘴気呪術師たちを粉砕し、マギーとリリアナの結界が瘴気の柱を切り裂くと、ついに魔道書は無数の光に包まれ、爆ぜるように破れ散った。黒い瘴気が一瞬で吹き飛び、ホール全体にかすかな静寂が戻る。瘴気の柱は瓦解し、まるで消え去ったかのように痕跡さえ残さない。呪術師たちも瘴気と共に崩れ落ち、ホールには仲間の息遣いだけが残った。


カイは剣を腰に納め、深く息を吐きながら仲間たちを見渡した。リリアナは杖をそっと下ろし、安堵の表情を浮かべている。マギーは巻物を片手に地面に跪き、瘴気の破片を慎重に回収している。ガロンは剣を握る手を緩め、ジークは短弓を元に戻し、セレスティアは祈りの光をゆっくりと消していった。ルレナは小さな体で仲間たちを見つめ、その瞳には感謝と安堵が宿っている。


「これでベルナールの策略は打ち破った。奴がどれほど我々を翻弄しようとも、仲間の絆があれば必ず乗り越えられる」

カイは静かに呟き、剣を握り締めた。その先に待ち受けるのは魔王アズラエルとの最終決戦だ。だが、仲間と共に刻んできた苦難と勝利の歴史は、彼らを支える不動の土台となっている。これ以上遮るものはない。カイは仲間たちと共に、魔王本陣への階段を一歩ずつ上っていった。


こうして、「ベルナールの策略」の章は、ベルナールが施した瘴気呪術を一行の連携で打ち破り、深き闇を浄化した後、魔王本陣への最終階段へと向かう一行の姿で幕を閉じた。仲間たちの勇気と絆は、これから先に立ちはだかる試練をも照らす揺るぎなき光となり続ける――。


52話終わり

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります!

他にもたくさんの作品を投稿していますので見て頂けると嬉しいです

https://mypage.syosetu.com/2892099/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ