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51話 決戦の序章

――カイ視点


薄明かりの中、一行は魔王本陣と連なる古代神殿の前庭に足を踏み入れていた。前夜の戦いで倒された瘴気魔獣の亡骸が散乱し、地面には瘴気の煤が深く刻まれている。空には黒雲が渦巻き、雷鳴がかすかに響くたびに、剣先から滲む蒼光が揺らいだ。カイは剣を背に担ぎ直し、深く息を吸い込むと周囲を見渡した。魔王本陣と直結するこの場所は、まさに最後の砦。ここで踏みとどまれなければ、仲間と共に歩んできた旅は無意味になる。


「皆、ここが決戦の序章だ。全員、気を引き締めろ。あとは一歩一歩、進むしかない」

カイの声が静かな決意を帯びて響くと、リリアナ、マギー、ガロン、ジーク、セレスティア、ルレナがそれぞれ頷き返した。リリアナは杖を高く掲げ、瘴気の流入を防ぐ蒼光の結界をさらに強化しようとしている。マギーは巻物を胸に抱え、瘴気断裂陣や浄化呪文の構成を最終確認しながら剣士たちの背を支える準備を進めている。ガロンは剣を構え、荒天に煽られて揺れる瘴気を切り裂く覚悟を示し、ジークは短弓を引き絞って周囲を警戒しつつ、狙いを定める。セレスティアは杖を胸に抱えながら祈りの光を緩やかに放ち、仲間の傷ついた心身を癒す意志が満ちている。ルレナはまだ幼い身体ながらも、小さな手でマギーの巻物をしっかりと掴み、仲間の盾となる祈りの言葉を心に刻んでいる。


一行が古代神殿の重厚な門をくぐると、内部には深い闇と不気味な静寂が漂っていた。壁面には悪魔の紋章が刻まれ、瘴気の亀裂から黒い霧が立ち上がる。カイは刃先から滲む蒼光を足元に投じながら、一歩ずつ慎重に進んだ。父の形見の剣は、今や魔王討伐の象徴。父が遺した誓いを胸に、カイは全身の感覚を研ぎ澄ませた。


「ここから先は、瘴気が最も濃い。リリアナ、マギー、先導してくれ。俺たちはその光に続く」

カイは指示を飛ばし、リリアナは杖を振りかざして浄化の呪文を詠唱した。湿った空気が震えるように揺れ、瘴気の渦が足元を襲おうとする。リリアナとマギーの結界が合わさって場を浄化し、一瞬だが薄闇を割る蒼光の道が現れる。カイはそれを頼りに、一歩一歩進んだ。


■   ■   ■


リリアナ視点


瘴気が濃密な空気を支配し、呼吸が重くなる中、リリアナは杖を握る手に震えを抑えながら呪文を唱え続けた。浄化の結界が周囲に展開され、瘴気がその光に触れるたびに黒い霧となって消えていく。リリアナの蒼光は優しく温かく、仲間たちの足を照らし、最も濃い瘴気も一瞬の隙を与える。


「瘴気浄化・結界展開! この蒼光だけが私たちの道を守る!」

リリアナの声が渾沌とした闇に響き渡ると、蒼光の壁が瘴気を押し返し、数メートル先まで安全な通路を作り出した。その通路を進むカイ、ガロン、ジークは剣と弓を構え、静かに進軍する。マギーは巻物を開き、次の呪文である「瘴気断裂陣」の発動準備を進めながらも、リリアナの詠唱に合わせて微調整を繰り返した。


周囲の石壁には無数の深い刻みがあり、過去に数え切れぬ命が散ったことを物語っていた。リリアナはかすれた息を整えながら、心の中で一人ひとりの祝福と祈りを送る。「どうか皆の心に揺らぎなき光を」「誰一人欠けることなく、この道を共に行けますように」――リリアナの祈りは仲間たちの背中に届き、暗闇に差し込む小さな光となって彼らを支え続けた。


■   ■   ■


マギー視点


リリアナの結界が一行を包み込み続ける中、マギーは巻物を広げて呪文を詠唱した。瘴気断裂陣の紋章が瞬く間に床の石に浮かび上がり、瘴気の層を深く引き裂く効果を生み出す。黒い霧が割れ、峻烈な衝撃波が瘴気を押し返していく。


「瘴気断裂陣、発動! 瘴気を割き、この先の安全を確保する」

マギーの声に合わせ、リリアナの結界はさらに強固になり、瘴気の中を進軍する仲間たちに一瞬の休息と希望をもたらす。しかし、その隙に瘴気魔術師が壁から飛び出し、黒い瘴気の矢を放ってきた。マギーは素早く巻物を翻し、「瘴気拡散封陣」を発動して瘴気の奔流を封じると、呪文の光が瘴気を飲み込んでいく。


その瞬間、ジークが短弓を構え、瘴気魔術師の動きを読んで正確に矢を放つ。矢は瘴気を貫き、魔術師を背後から貫く。その隙にガロンが剣を振りかざし、魔術師を一刀両断した。カイは剣を抜き放ち、ルクスの蒼光の刃が深い瘴気を貫いて先へと進んだ。マギーは呪文を疲れた声で続けながら、仲間の背中を守るために瞳を輝かせた。


■   ■   ■


ガロン視点


マギーとリリアナの連携が瘴気を分断するかのように働く中、ガロンは剣を握りしめて瘴気魔獣の群れへと突進した。瘴気魔獣は黒い瘴気を纏い、牙をむき出しにしながら襲いかかろうとしている。ガロンは剣から迸る蒼光で瘴気魔獣の視界を奪い、一閃でその角を斬り落とした。瘴気魔獣は呻き声を上げ、後退しようとするが、ガロンは追い打ちをかけるように連続攻撃を繰り出した。その剣撃は瘴気を焼き尽くすような光を放ち、魔獣を粉砕していく。


「俺はこの剣で仲間の盾となり、槍となる! この瘴気の森を切り開く!」

ガロンの叫びとともに、仲間たちの戦意はさらに高まった。ジークはガロンの後方から矢を乱れなく放ち、瘴気魔獣の急所を貫く。セレスティアは祈りの光を放ち続け、瘴気魔獣が仲間を攻撃するたびに癒しと守護の光が仲間を包み込んでいく。


■   ■   ■


ジーク視点


ガロンの剣撃が織り成す戦場の中、ジークは短弓を肩に掛けたまま落ち着いた動作で矢を番え、次々と標的を撃ち抜いていった。瘴気魔獣の影が揺れるたび、ジークは鋭い視線でその動きを読み取り、正確に狙いを定める。矢が命中する瞬間、瘴気が一瞬だけ揺らぎ、魔獣の動きが鈍る。


「ガロンの背中を守るのは、やはりこの矢だ」

ジークは低く呟き、次の標的へと矢を放つ。瘴気魔獣の巨体が崩れ落ちるたび、カイはルクスを振るって先陣を切り、リリアナとマギーの結界を頼りに進軍の速度を緩めない。セレスティアの祈りは仲間たちの心身を支える光となり、ジークは再び矢を番えて扉の奥へと視線を移した。


■   ■   ■


セレスティア視点


ガロンとジークが瘴気魔獣を次々に討ち取り、マギーとリリアナが瘴気を浄化していく中、セレスティアは祈り続けていた。その祈りの光は揺るぎなく、仲間たちの傍らで揺らめきながら瘴気の圧力を緩和し、傷ついた者たちの痛みを和らげる。


「愛と慈悲の光よ、我らに揺るぎなき勇気を授け給え。今こそ闇を打ち払う光となり、世界を救うための力となり給え」

祈りの声が古代神殿の石壁に反響し、杖先から放たれる光が廃墟に差し込む光の帯となった。その光景を見たカイは剣を少し下ろし、仲間たちへ微笑みかける。


■   ■   ■


――カイ視点


瘴気魔獣と魔術師を討ち払い、一行はついに魔王本陣への最終通路である巨大な石の扉の前にたどり着いた。扉には古代文字が刻まれ、瘴気の結界が最後の防衛線として張り巡らされている。リリアナの結界が瘴気を押し返し、マギーの呪文が扉全体に光の結界を絡ませる。ガロンは剣を抜き直し、ジークは短弓を引き絞り、セレスティアは杖を胸に抱え、最後の祈りを捧げた。ルレナも小さな身体で仲間の背中を見つめている。


「皆、覚悟はいいか? ここを突破すれば、魔王アズラエルとの最終決戦だ。互いの絆を信じ、必ずこの世界を取り戻そう」

カイの号令とともに、仲間たちは一斉に扉を押し開けた。轟音とともに扉が開いた先には、黒き瘴気の淵を渡る長い廊下が続いている。そこが最終決戦の舞台であり、魔王を討つための最後の闘いが待ち受ける。


剣を手にしたカイの背中には、仲間と村人たちの想いが宿り、その想いは揺るぎなき光となって闇を貫く――。


51話終わり

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