48話 リリアナの想い
リリアナ視点
薄曇りの空が微かに青みを帯びる頃、リリアナは丘の上に立ち、仲間たちと蒼月の村から離れる一行を見つめていた。風はまだ冷たく、杖先から放たれる蒼光がわずかな光の帯を描いている。村での出来事から一夜明け、傷ついた村人たちの笑顔が脳裏に焼きついている。ルレナをはじめ、ロハンや他の村人たちが少しずつ平穏を取り戻す姿を見て、リリアナの胸には強い使命感と同時に深い想いが芽生えていた。
「私は……この力をどう使えばいいのか、ずっと考えていた」
リリアナは小声で呟き、杖先を地面に軽く押し当てた。蒼光が地面を照らしながら、草の露をわずかに輝かせる。リリアナ自身も魔力を操る立場として、仲間や村人たちを守るために何をすべきか悩んでいた。周囲では仲間たちが再び旅立つ準備をしており、ガロンが剣を肩に担ぎ直し、マギーは巻物を胸に抱えたまま情報整理を続け、カイは仲間に指示を出している。セレスティアは杖を胸に抱え、祈りの光を弱めずに放ち続けている。ジークは短弓を背に掛け、細心の注意を払いつつも、どこか安堵の表情を浮かべていた。
リリアナは杖を引き寄せながら、心の中で自問自答を繰り返した。
「私の魔力はまだ未熟だけれど、仲間たちを守るために必要だと感じる。だけど、本当に役に立てるのか……」
リリアナは視線を仲間に向け、カイが剣を握る手元に宿る蒼光を見つめた。カイの瞳には揺るぎない意志が映り、それがリリアナにとって大きな支えになっている。リリアナは杖を両手で握り締め、再び深く息を吸い込んだ。
「大丈夫。私は仲間の背中を照らす光になる。どんなに辛くても、魔力を駆使して皆をサポートし続ける」
リリアナは低く呟き、杖を高く掲げた。蒼光が小さな結界を形成し、仲間たちの進路を柔らかく照らした。その光を見たマギーは軽く笑みを浮かべ、リリアナを称えるように親指を立てた。リリアナは少し照れたように笑い、次の瞬間には眼差しを真剣なものへと切り替えた。
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ガロン視点
丘の麓で仲間たちを見守っていたガロンは、剣を肩に担ぎながらリリアナの祈りの光を視界に捉えた。村を離れる前に、ロハンとルレナの安否を確かめることができ、ガロンの胸には深い安堵が宿っている。だが同時に、魔王本陣へ向かう道のりにはさらなる危険が待ち受けていることを痛感していた。
「リリアナの魔力があれば、瘴気の波を乗り越えられるはずだ。だが、俺も剣を抜く機会が増えるだろう」
ガロンは剣を握り直し、周囲に潜む魔獣の気配を探った。丘の向こうには広大な草原が広がり、その先には古い廃砦がぽつんと佇んでいるのがかすかに見える。廃砦には瘴気結界が張られている可能性が高く、ガロンは剣をしっかりと握り締めた。
「俺はこの剣で盾となり、槍となる。仲間の背中を一度たりとも離さない」
ガロンは低く呟き、剣先から放たれる蒼光を廃砦の方へと注ぎ込んだ。その光が草原を照らし出し、小さな瘴気の影を一瞬で浄化する。ガロンはその光景を見守りながら、再び仲間たちと共に歩みを進めた。
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マギー視点
リリアナの結界が広がる中、マギーは巻物を胸に抱えながら次の呪文構成を復習していた。これから向かう廃砦は瘴気の巣窟と化しており、瘴気呪術師や魔獣が多数徘徊している可能性が高い。マギーは唇を軽く噛みしめ、巻物に書かれた呪文を頭の中で確認する。
「瘴気断裂の呪文、瘴気追放陣、そして防御結界……これらを組み合わせれば、瘴気の洪水を抑え込めるはず。戦況を的確に把握し、即座に呪文を発動しなければ」
マギーは小さく深呼吸をしてから、杖先に宿る微かな気配を探った。リリアナの魔力とセレスティアの祈りが織りなす癒しの光が、仲間たちを支えてくれることを信じ、マギーは巻物を軽く握りしめた。
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ジーク視点
マギーの周囲で呪文の準備が進む中、ジークは短弓を肩に掛けたまま草原へ目を向けていた。廃砦へと続く道は曲がりくねり、林や岩陰が多数存在するため、敵との遭遇率は高い。ジークは矢を一本抜き、風を感じ取りながら狙いを定めた。
「敵は瘴気の結界をくぐり抜けてくるはず……できる限り早く発見しなければ」
ジークは視線を林間に向け、その瞬間、わずかな草むらの揺れを察知した。魔獣たちが巣窟から這い出してきたのだ。ジークは静かに呼吸を止め、次の瞬間には矢を引き絞り、正確に魔獣の胸部を貫いた。魔獣は呻き声を上げて後方へ崩れ落ちた。
「これで仲間の進路は確保できた。だが、魔獣はこれからも湧き出てくるはずだ。気を抜くな」
ジークは矢を背に戻し、再び仲間たちの背を見守りながら歩みを合わせた。
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セレスティア視点
ジークの一撃を受け止めた後、セレスティアは杖を胸に抱えたまま静かに祈りを続けている。その祈りの光は草原を包み込み、魔獣や瘴気呪術師の魔の手をはね返すように揺らめいている。セレスティアは目を閉じ、仲間たちの無事を心から願った。
「愛と慈悲の光よ、我らを支え、闇の力を浄化し給え。仲間たちの心に揺るぎなき光を授け給え」
セレスティアの祈りが夜明けの空間に溶け込み、杖先から放たれる光が仲間たちを包み込む。リリアナの結界とマギーの呪文が重なり合い、セレスティアの祈りの光が彩りを加える。緩やかな祈りの旋律が広がる中、一行は廃砦への道を再び歩き始めた。
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再びリリアナ視点
廃砦への道を進むうち、リリアナは心の奥底で湧き上がる不安を振り払いながらも、自らの想いを改めて確かめていた。仲間たちがそれぞれの役割を果たし、互いを支え合う姿を見て、リリアナは自分が守りたいものを強く感じた。いま、この瞬間を大切にしながら、未来に向けて魔力を注ぎ続ける決意が固まっていく。
「私は、私の魔力を仲間と村人のために使う。そして、どんなに瘴気が濃くとも、光で打ち消し続ける。お前たちに約束する――私は、必ず皆を守る」
リリアナは杖を高く掲げ、蒼光の結界を一層強めた。その光が廃砦の影をかすかに照らし出し、一行は覚悟を胸に廃墟と化した砦跡へと足を踏み入れた。
こうして、「リリアナの想い」の章は、リリアナが自らの使命と想いを胸に刻み、仲間と共に廃砦へ向かう場面で幕を閉じた。彼女の心には揺るぎなき覚悟と光が宿り、どのような闇が立ちはだかろうとも、それを打ち砕く源となる――。
48話終わり
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